第55回
都市の課題解決を道路インフラの保守・点検から進めるアーバンエックステクノロジーズ
ドラレコから道路点検できるAIが国土インフラのデジタル化を推進:RoadManager
道路や橋梁などインフラの老朽化対策は、人口減少が進む日本で喫緊の社会的課題となっている。全国120万km以上に及ぶ国や地方地自体が管理する道路網の損傷個所の発見は、いまだ人手による目視に頼るところが大きく、補修が損傷に追いつかない場面も増えてきている。
株式会社アーバンエックステクノロジーズはスマホやドライブレコーダーから得られる画像から路面の損傷個所を検出し、地方自治体など道路管理者に通知する道路点検AI「RoadManager」の開発を行っている。センサーを積んだ特殊車両である路面性状測定車などを用いた損傷確認と比べ、その圧倒的な低コストや利用の簡便さにより、20を超える自治体での利用が進んでいる。
創業者らの東京大学での研究をベースにした独自アルゴリズムを用いたAIモデルによる高精度な道路点検サービスを提供する同社の事業概要を代表取締役の前田紘弥氏に伺った。
ドラレコなどの安価なデバイスでインフラ整備を推進
全国約120万kmの道路のうち、約95%は地方自治体が管理をしている。しかしその業務を担う自治体職員、特に土木部門の職員数は減少を続けており、老朽化進行と相まって、維持管理に対する負担が重くのしかかってきている。
道路が老朽化してくると、アスファルト舗装に「ポットホール」と呼ばれるくぼみやへこみ、穴などが生じる。これは車両による負荷や排水不良などによって発生するもので、自動車・バイク・自転車等の損傷、または二輪車の転倒による人身事故の原因となる。「(全国で)年間1000件くらいそのような事故が起こっており、行政に対する訴訟にもなるなど負担になっている」(前田氏)
ポットホール補修には損傷個所を発見する必要があるが、現状では人手による目視点検に頼らざるを得ない。
都市の課題解決をビジョンに掲げるアーバンエックステクノロジーズは、スマホやドラレコといった安価なデバイスを用いてこの問題を解決する道路点検AIソリューション「RoadManager」を開発した。他社のソリューションでは専用のカメラなどを必要とすることも多いが、同社のものは特別なハードを必要とせずに利用できる。
RoadManager導入前の尼崎市では、年間で100件程度ポットホールを発見・補修していたが、このソリューションを利用したところ、2020年5月から2021年7月までの15ヶ月で329件のポットホールを補修できるようになり、早期発見・補修の実現によって緊急出動が減るなど、職員の負担も軽減された。誤判定も少なく、90%程度の正解率を実現しているという。
尼崎以外にも20以上の自治体での利用が開始されており、国道でも試験利用が開始された。大阪府豊中市では同市が持つ地理情報システムのGISデータと組み合わせて、道路修繕必要箇所の情報を自動収集するシステムや、危険箇所を予測する手法開発など、効率的な道路のメンテナンス方法の確立に向けて協働で実証実験が進められている。
政府もインフラ老朽化は深刻な課題として捉えており、そのメンテナンスに対しては従来の人依存を脱却し、技術やデータを利活用する新たな手法の確立を模索している。アーバンエックステクノロジーズのベースとなっている東京大学での成果である道路点検AIはその代表例として取り上げられており、今後より広く利用が進んでいくものと期待される。
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