世界中の子供たちは、絵本や積木や縫いぐるみもさることながらゲーム機で育つようになりつつある。ソニーがコロナ禍のなか最高益を叩きだしている原動力もゲームだそうだ。子どもたちだけでなく大人になってゲームに触れた私だって、任天堂のファミコンに触れたのがたぶん人生を大きく左右した。
そんな家庭用ゲーム機の最初は、1972年に米マグナボックス社から発売された「Odyssey」だ。最初のアーケード機といわれる1971年ナッチング・アソシエイツ社の「Computer Space」の翌年。同じ1972年に発売されゲーム市場を作ることになったアタリの「Pong」は、Odysseyに触発されて開発されたともいわれている(裁判となりアタリが認めた)。
私が歴史的なデジタル機器を作っていくブロックdeガジェットで、この世界最初の家庭用ゲーム機Odysseyを作った。この製品を取り巻く事情については、ビデオの中で語っているので以下ご覧あれ。
ここでは、ビデオ撮影の機会に引っ張りだしてきたOdysseyを撮影した写真を紹介したいと思う。これは、あるとき世界最初のゲーム機ってどんなだろうと思って入手して、月刊アスキー編集部でこのゲーム機のためにレトロなテレビまで買ってきて動かした。ひさしぶりに開けてみると、1972年の最初のゲーム機というにふさわしい風格のようなものを感じさせるものがある。
MICR(磁気文字読取装置)フォントの外箱がカッコ良すぎる。フォント萌えの方はたまらないはず。当時は、このフォントがいろんなところでもてはやされましたからね。これのミニチュアを作ってモバイルバッテリにしたいくらいだ。ちなみに、10年くらい前の香港上海銀行の小切手を見たらMICRが使われていた。現在も使われているのかもしれない。
内箱もMICRのオンパレード。99.95ドルというアメリカンプライスで販売されたが、現在の価値では約670ドルに相当するらしい。子どもの玩具としては割と高級だろう。1972年といえば、日本ではカシオミニが1万2800円で発売された年だ。カシオミニ、そんなに高かった? と思って消費者物価指数(CPI)を基準に計算すると約3万7000円とでた。
箱をあけると本体のほかにブラウン管の前に貼り付けるオーバレーやゲームで使うカードやチップ、サイコロなどが出てくる。
ちょうど家族でお正月などにいろんなボードゲームを楽しめるエポック社の「家庭盤」みたいな感じで、いろんな遊びができるようになっている。画面上の点を操作して遊ぶものだけだが。
オーバレイはテレビ画面の2つのサイズに対応。テレビに接続して使うのでメーカーは選ばなかったが、マグナボックス社は、自社のテレビとセットで遊ぶプロモーションをしていたそうだ。
Odysseyで驚きなのは、なんとカートリッジを差し替えて使うようになっていたことだ。ROMを読み込んでプログラムを実行するしくみではないので、22ピンのカートリッジの中は配線の変更だけ行われるようになっていた。別売りのカートリッジもあり、それによって必要な回路を切り替えるしくみだったのだと想像できる。
スッキリしたデザインの本体。写真では接続していないが、両側の回転式ダイヤルで操作する2つのコントローラを本体につないで使う。現在のゲーム機につながるスタイルがすでにできていたというのは驚きというしかない。これを開発したラルフ・ベア(Ralph Henry Baer=ドイツ生まれのアメリカ人発明家)は、本当に天才だと思う。
Odysseyのテレビコマーシャルが、YouTubeにあるので以下に貼っておきます。マグナボックスは、いわゆる電気メーカーで、当時の米国のホームエンターテインメントの雰囲気も伝わってきて面白い。
1970年代中盤には、腕に覚えのある電子技術のわかる人たちが、1から回路を組んでテニスゲームを作る話があった。やがて、この種のビデオゲームが作れる専用チップが出回って手早く作って荒稼ぎするような人たちがでてくるのだが。市販ゲーム機の歴史にはあまり出てこない部分だ。
■ 「ブロックdeガジェット by 遠藤諭」:https://youtu.be/0D_-Bu7mvrs
■再生リスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PLZRpVgG187CvTxcZbuZvHA1V87Qjl2gyB
■ 「in64blocks」:https://www.instagram.com/in64blocks/
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
Twitter:@hortense667週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります