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JAPAN INNOVATION DAY 2022「デジタル庁が推進するオープンイノベーションによる次世代の契約・決済への挑戦」セッションレポート

経済活性化のキーに 企業間取引のデジタル最適とデータ利活用が新たな価値の創出を産む

2022年05月16日 07時00分更新

 大久保氏によるプレゼンテーションの終了後、残間氏と大久保氏による次世代取引基盤プロジェクトについてのディスカッション「オープンイノベーションが生む次世代取引基盤のビジョン」が行われた。

次世代の金融のあるべき姿に向かう大久保氏の情熱とビジョン

残間氏(以下、敬称略) このプロジェクトは全業種・全業態、大企業からスタートアップまですべてが関わるプロジェクトで、新しいビジネスチャンスの宝庫だと思う。そういったプロジェクトに関わろうと思った大久保さんのパッションの源はどこにあるのでしょうか。

大久保氏(以下、敬称略) 米国に留学した際、既にFinTechの領域でPayPalがあった。帰ってきてSIerとして仕事を始めたが、メールを使っていない企業があったり、インターネットをベースにしたビジネスを担っている人材が非常に少ないと感じた。全銀システムに関しても半角カタカナが残っていたり、40バイトしか送れないといった制約があって、課題感を抱いていた。

 このプロジェクトはもともと経済産業省と金融庁が進めてきて、取引領域に関してはある程度整理ができていた。いよいよ金融に関して課題を挙げようとしたところであるべき姿について相談を受けた。2027年に全銀ネットが変わるというのが見えていたことで、この40年間一切変えられなかった全銀ネットの仕組みに、必要な要素をすべて入れて、私が足かせだと思っていたところを取り除くことができるのではないか。それが、私が後世で金融ビジネスを担う人たちに残せることなのではないかと思ってこのプロジェクトにPMとして参加しました。

デジタル庁 兼 独立行政法人情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ 大久保 光伸氏

残間 これまで変えようと思っても変えられなかったところに大久保さんが入って、どんな世界を実現していきたいのか。大久保さんが考えているビジョンはありますか。

大久保 大きく掲げたいものに、取引選択の自由と決済手段の選択の自由の2つがある。たとえばマーケットプレイスみたいなところに新しいビジネスのネタを持っているような方がエントリーをして、いままで取引先として相手にしてもらえなかった大企業さんから見てもらえる可能性が生まれてくるのではないか。そんな期待を持っている。

 大企業の中には、あの企業とウチはアライアンスを組んで50年くらいの仲なんだからそこを壊してくれるなよと言う方もいると思う。そういったしがらみで上手くやっている方々は個別最適が進んでいるので、オープンではなくクローズドなイノベーションに閉じられているのかもしれない。

 ただ決済の領域でいえば、電子決済等代行事業者さんがうまくビジネスを回して新たな取引先を持ってきてくれるような仕組みができつつある。そうなるとオープンイノベーションに取り組んだ企業の方が新規取引先の開拓がうまくいく。法人だけをやっているネット専業銀行に口座の開設率の伸びがすごいところがあるが、大きな金融機関はあまり気付いていない。

 特に地域で支店などにいる人は何も変わっていないと言うが、それはリアルの世界の話。我々が議論しているのはデジタルの世界で、そこでどれだけ新規ビジネスが生まれているか。資金調達の相談をするときも、金融機関に相談する前に特定のVCに相談したりクラウドファンディングで調達したりしている。そういった話は支店で待っている人たちの目には触れない。取引先の選択の自由の先には新規ビジネス開発もついてくると思っているので、そういったところが一番の期待感になっている。

企業が抱える課題とオープンイノベーション

残間 中小企業庁の調査で、なかなかデジタル化が進んでいないという現状がかなり如実に出てきていた。コロナの時に、結局出かけて行って決済しなくちゃいけないとかいう話もあった。どこに一番の課題感を感じるか?

大久保 大企業にも中小企業にもそれぞれの立ち位置があるが、共通して言えるのはユーザー目線のサービス提供ではないというのが一番大きい。何も大それたシステムを作る必要はなくて、この共通フォーマットとなるエクセルファイルに入力してもらえれば、メールの添付でも自動化できるよというようなこともある。あとは皆さんに一歩足を踏み出してもらいたい。そこはどこの企業でも努力をしなくてはいけない。

 もう一つ難しいのは、昔からのしがらみがあって今の取引先を変えにくいとか、金融機関に関しても、ここにすごくお世話になっていたので、この接続先を変えるのが難しいといった現状維持バイアスが発生している。中小企業とかスタートアップからすると、取引の選択の自由が奪われてしまっているのではないかというところを懸念している。そのような障害を取り除くために、現在成果物を取りまとめているので、ぜひ参照していただいて一歩前に踏み出して欲しい。

残間 オープンイノベーションの観点で言うと大企業も中小企業もみんながそれを活用していくアクティビティが必要なのかなと思うが、オープンイノベーションに期待することはあるか。

 株式会社InnoProviZation 代表取締役CEO 残間 光太郎氏

大久保 オープンイノベーションの観点だとデータを一定のガバナンスを整理・共有することが大事で、そのあたりがオープンイノベーションの本質なんだと思っている。海外ではLinked Open Dataという概念で公共の団体のデータもオープン化されてきている。日本でもデジタル庁主導でベース・レジストリを整備している。今までばらばらだった住所変更の手続きなどもベース・レジストリさえ変えれば全てのシステムが一元で変わっていくみたいなそんな未来感も描ける。

 そういったプロジェクトを政府とか特定の企業がやるというよりは、良いサービスをみんなで改善しながらどんどん派生させていくことが大事。上手く利用されるようになったり革新的なものを中心的な取り組みに取り込んでいくことで、GAFAが展開しているような生活に密着したようなソリューションに繋がっていくと思う。

残間 そういったものが突き崩されていく、オープンイノベーションでやっていた方が全体としてメリットが出てくると。そして個別にもメリットが出てくると。そういった世界観が描ければ世の中が変わっていけるかもしれない。実証実験の中でやることもあるだろうし、それ以外のところでも様々な民間での取り組みも出て来ればいいなと思う。

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