JAPAN INNOVATION DAY 2022「デジタル庁が推進するオープンイノベーションによる次世代の契約・決済への挑戦」セッションレポート
経済活性化のキーに 企業間取引のデジタル最適とデータ利活用が新たな価値の創出を産む
2020年から国内に幅広く蔓延した新型コロナ感染症により、マイナンバーシステムに代表される日本の情報システムが、誰もが簡単・効率的に利用できるよう構築されていなかったことが明白となった。また、公的なシステムだけでなく、企業においてもリモート会議システムなどの危機対応ツールの開発や導入が諸外国に比べて立ち遅れているという課題も顕在化した。
そこで、行政及び社会経済活動全般をデジタル化し、日本が抱えてきた多くの課題の解決および今後の経済成長を実現するための司令塔として、2021年9月にデジタル庁が発足した。アベノミクス以来の大規模な金融緩和をもってしてもいまだに十分な推進力が得られたとは言い難い日本経済を活性化するためにも、制度や政策、組織の在り方等を変革する「社会のDX化」の大胆な加速がデジタル庁には求められている。
JAPAN INNOVATION DAY 2022 セッションA-2では、「デジタル庁が推進するオープンイノベーションによる次世代の契約・決済への挑戦」と題して、デジタル化による経済活性化の核ともいえる取引(受発注・請求・決済)のデジタル化を担う契約・決済アーキテクチャ検討会の活動内容が紹介された。株式会社InnoProviZation 代表取締役CEOの残間 光太郎氏と、デジタル庁 兼 独立行政法人情報処理推進機構 プロジェクトマネージャの大久保 光伸氏による次世代取引基盤アーキテクチャの課題や進捗をレポートする。
企業間取引における現状認識と課題
契約・決済に関わる仮想的な次世代基盤アーキテクチャの策定に当たり、検討会ではまずPEST(Politics、Economy、Society、Technology)分析を用いて日本を取り巻く社会環境の分析を行った。これらの中では、2023年に予定されている消費税のインボイス制度への移行による請求業務の電子化が大きな役割を果たすと見られている。これは、従来紙で扱われていた請求書の電子化(Digitization)に止まらず、業務プロセス自体のデジタル化(Digitalization)、さらにはデジタル化に基づく業務プロセスの変革(Digital Transformation)への呼び水となることが期待されているためだ。
また2018年に全銀EDIシステム(ZEDI)が稼働を開始したことにより、企業間の送金時に商流情報の添付が可能になった。これに加えて、キャッシュレス決済の普及や決済手段の多様化、新しい金融サービスの登場などへの対応に向けて、2027年には全銀システムの更改も予定されている。これらによって資金決済システムが大幅に高度化されることになる。
その他にも経済や社会の分野では、GAFAを筆頭にしたデータエコノミーの出現やカーボンニュートラル、新型コロナウイルスによる影響などがある。受発注・請求・決済に関係する取組が今後数年に集中していることと併せて、次世代取引基盤アーキテクチャの検討を進める環境が整ったと言える。
企業間取引では、契約・請求・決済の各フェーズにおいて様々な課題が顕在化している。例えば受発注では各社でEDIを導入して社内的に業務の最適化はなされているものの、取引先と連携しておらず、企業ごとの多様な書式・方式に対応できていない。現在ではまだ手作業で請求書を作成している企業も少なくないと思われる。
銀行を経由した企業間の決済についても、窓口やATMでの支払業務が多数発生していたり、一部にはFAXを使ったやり取りも発生しているという話もある。ZEDIの普及が進んでいない現状では、請求に対する入金の確認時に、不十分な情報量に基づく消込作業によって無駄な労務コストがかかってしまっている。
中小企業庁が2015年及び2021年に実施した中小企業実態調査(2021年度は速報値)では、現金や手形などアナログな手段による支払業務がいまだに多数の企業で存在していることが確認されている。経理業務ではデータ連携しやすい会計クラウドサービスや会計ソフトの利用企業が増加してきているものの、データ連携できない独自フォーマットを利用している企業もまだ少なくない。
ただし、データ連携を可能にするツールを導入したとしても、それだけで中小企業のデジタル化が進むわけではないという点に留意する必要がある。例えばコロナ禍においてハンコ業務が取りざたされたように、アナログな文化が染みついてしまっている企業では、そのマインドセットを変えなくてはツールを十分に活用することができず、IT投資コストを回収できずに終わる場合もある。
使いやすいUI・UXを備えたサービスの構築だけでなく、DX人材の雇用・育成を含め、企業をデジタル化に向けて協力にドライブする各種施策が求められるだろう。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります