「IPナレッジカンファレンス for Startup 2022」レポート
知財×ビジネス戦略で企業価値を高める先進スタートアップが受賞。第3回IP BASE AWARD授賞式
実践的な知財戦略は、一部だけでも真似することから始めてみてほしい
後半は2つのテーマでパネルセッションを実施。1つ目のテーマ「スタートアップに必要な知財戦略」には、パネラーとしてグランプリ受賞者の成尾 佳美氏と森田 裕氏、選考委員の加藤 由紀子氏(SBIインベストメント株式会社 執行役員CVC事業部長)と丹羽 匡孝氏(シグマ国際特許事務所 パートナー弁理士)の4名、モデレーターとして特許庁の沖田 孝裕氏が参加した。(以下、文中敬称略)
沖田:選考委員のお二人は、Splinkの取り組みのどのような点を評価されましたか。
加藤:社内の弁護士、事業チーム、R&Dチームが連携して知財戦略を明確にお持ちであること、会社全体で知財を重視し、社内で情報共有していることなどを高く評価しました。
丹羽:Splinkの取り組みには、知財戦略を経営戦略と連携させる取り組みが散りばめられています。スタートアップは社内に知財専門家を抱えるのはなかなか難しいですが、研究開発部門と外部の弁理士を連携させることで、研究開発部門から経営側にうまく知財を引き出していることが感じ取れました。
沖田:知財専門家部門の森田先生の取り組みについて評価された点はいかがでしょうか?
丹羽:弁理士の立場ではどうしても知的財産権に注力をしがちですが、森田さんは、吸い上げることをきちんとやっていて、ノウハウの保護にも目を向けていらっしゃる。こうした部分が権利化後に生きてくるので、うまくバランスをとっていることを評価しました。外部の専門家は、なかなか深く関わりにくいですが、雑誌投稿による啓蒙やコミュニティ形成など、外部を巻き込んで発信しているところもすごく感心しました。
沖田:お2人の講評を聞いて、どのような感想をお持ちですか。
成尾:私が入社したときには、すでに数十件の出願があり、ビジネスと過去の出願が結びついているか、過不足がないかを確認し、足りないものは出願し、非公開にしたほうがいいものは取り下げたりもしました。ビジネスとのつながりが評価されたことをうれしく思っています。
森田:ビジネスを保護することが知財戦略の最も重要な目的なので、それを達成するためにどのように特許を有効活用するか、という観点で考えなくてはいけません。いま取り組んでいる外国のベンチャー企業の成長事例の調査では、ビジネスと特許との関係に興味を持って参加してくれる方が意外と多いことにも気付きました。忙しいなか積極的に時間を割いて、研究活動していただける、いいコミュニティができています。誰かが始めるとみんな気付いて参加してくれることを強く感じました。このような仕組みはとても大切なので、これからも続けていきたいです。
沖田:経営に密接した知財戦略が及ぼすメリットを教えていただけますか?
成尾:経営戦略の中に知財戦略があり、ここが離れると知財が無価値になってしまいます。メリットとしては、漠然と特許を取っても、将来的にどういうビジネスに展開していくのかがわからないと限定的な保護しかできませんが、経営戦略があると、事業範囲をカバーした特許が取れます。また、第三者との契約にも知財を結び付けて考えると効率のいい収益化につながります。
森田:特許があっても競合が簡単に参入できるのでは意味がありません。その意味で事業を強く推進できるような特許が取れると、経営者もVCも、みんなハッピーになれます。だから事業から目を逸らしてはいけなくて、そこに着目すること。ただし、スタートアップは事業自体が変遷するので、保護するものが動いていくことがあるので、出願後も事業の変遷に合わせて戦略を作っていくことが大切です。
加藤:投資家としては、スタートアップの企業価値、成長のポテンシャルを見極めたいです。契約に結び付いた知財を理解していらっしゃると投資の観点からもプラスになります。
丹羽:Splinkさんは知財の戦略を事業戦略にフィードバックする、という考え方をされています。事業戦略が決まっている中での知財戦略では幅が狭まってしまいますが、知財戦略を考えたうえでの事業戦略も変更できると、非常に強いものになります。知的財産権は非常に強力ですが、回避される可能性もあります。突破されたときのことも想定して、戦略として考えているのも素晴らしいと思います。
沖田:今後取り組んでいきたいことと、視聴しているスタートアップへのメッセージをいただけますか。
成尾:他社と連携でお互いの弱みをうまく補完できるように、知財情報の分析に力を入れていきたいです。また社内に契約を知財・法務の人材を増やしていきたいと考えています。これから知財戦略に取り組むスタートアップは、社内に専門家を置くことが重要です。社外の専門家にサポートしてもらうにしても、社内に専門家がいないとディスカッションが成り立たず、言われたことをそのまま取り入れてしまうことがあるからです。専門家にも得意不得意領域があるので、複数の専門家を利用されるといいと思います。
森田:ビジネスモデルと特許戦略の有効な組み合わせを明らかにして、みなさんの戦術をバラエティに富んだものにしていきたいです。知財の活用面を意識すると知財はすごく面白くなるので、みなさんも機会があればぜひ飛び込んでいただきたい。また、日本の企業は訴訟にあまり積極的ではありませんが、訴訟をすることで特許の価値がでてくる面もあります。訴訟をしっかりやって、それにより今まで以上に技術の価値を認めてもらえる社会が作れると、スタートアップもエコシステムもより発展していくのではないでしょうか。
加藤:スタートアップは知財を後回しにしがちですが、そうではないということを私たちも啓蒙活動していければと思っております。
丹羽:本年度のグランプリ受賞者は、すごく実践的なことをしているのが印象的。ここまで完璧にやるのは難しいですが、一部だけでも真似することから始めてみていただきたいです。
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