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大企業と共同研究するバイオベンチャーが注意したい知財ポイント

2022年03月25日 11時30分更新

特許庁のスタートアップ支援施策

 特許庁の今井氏は、特許庁の推進するスタートアップ施策として、知財アクセラレーションプログラムIPAS、知財ポータルサイトIP BASE、スタートアップ向けスーパー早期審査、スーパー早期審査や特許料等の減免制度、モデル契約書、知財総合支援窓口について紹介した。

 知財アクセラレーションプログラムIPASは、創業期のスタートアップに対してビジネスの専門家と知財の専門家からなる知財メンタリングチームを派遣し、知財戦略の構築を支援するプログラム。5カ月間のメンタリングではビジネスモデルのブラッシュアップや診断等を行ない、それに連動した知財戦略を構築できる内容となっている。年度ごとにIPASの成果やメンタリングの内容をまとめた事例集を作成し、IP BASEにて公開しているのでぜひ参考にしてほしい。

 IP BASEは、IPASの成果事例集のほか、スタートアップを支援する専門家やベンチャー投資家向けの事例集、先輩スタートアップへのインタビュー記事、セミナーやイベントの開催情報を掲載。またYouTubeのIP BASEチャンネルでは、知財の基礎情報を5分程度の動画で紹介している。TwitterFacebookでサイトや動画の更新情報を配信しているので、フォローしておくといいだろう。

 スーパー早期審査は、スタートアップのスピード感に対応し、特許の審査結果を早める制度だ。通常、権利化には出願から最終処分までに約14カ月かかるところ、スーパー早期審査を使うと2.5カ月で審査の結果がわかる。また特許等の費用が3分の1になる減免制度もあるので、こうした制度をしっかり活用しよう。

 特許庁の作成した「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」では、スタートアップと事業会社との契約交渉で論点となる具体的なシーンを想定し、その対応策を整理したもの。「新素材編」と「AI編」があり、特許庁のオープンイノベーションポータルサイトで公開している。

 知財に関する無料相談窓口として知財総合支援窓口が47都道府県に設置されている。専門家からのアドバイスも無料で受けられるので、わからないことがあれば気軽に問い合わせてみよう。

日本のバイオベンチャーが注意するべき知財のポイント

――後半は、南野氏とバイオベンチャーのオリゴジェン株式会社の城戸氏が参加し、スタートアップが気を付けるべき知財のポイントについて、質問形式でトークセッションを行なった。

 城戸氏は、京都大学で神経疾患に対する遺伝子治療の研究に従事し、2000年からヒト神経幹細胞の研究のために米国国立神経疾患・脳卒中研究所へ留学。再生医療を実現するため、2004年に米国でStem Cell Medicine, LLCを創業。2009-2011年に単独でヒト神経幹細胞「オリゴジーニー」の開発に成功し、日本と米国での特許が成立。2015年にオリゴジェン株式会社を設立。

 幹細胞の技術を用いて、中枢神経疾患の新しい治療法の確立を目指している。これまで2.6億円を調達。「オリゴジーニー」に関する特許は32カ国で権利化済みで、それをもとに再生医療製品の開発を行なっている。

――まず、スタートアップ初期の知財戦略に気を付けるポイントについて南野氏に伺った。

南野氏「バイオベンチャーの場合、どのような事業モデルを描いていくかは未知な部分が多く、初期に取った特許がピボット後の事業をカバーしていない、ということが多く見受けられます。そういう意味で、資金調達のために早めに特許を取ることは大事ですが、その後の展開を見据えた上で、本当にそれだけでいいのか、もしくは後々何かに使えるために残しておく必要はないか、といったところもよく考える必要があります」

――続いて城戸氏には、日本で会社を始める際の立ち上げ施設場所の選定のポイント、阻害要因についてを質問。

城戸氏「バイオベンチャーを立ち上げるには実験する場所が必要ですが、日本は実験できる施設が限られており、特にバイオセーフティレベル2という遺伝子組み換えのできる施設は少なく、1からラボを作るには大きな初期投資がかかります。加えて、日本ではベンチャー投資が米国に比べて10分の1と少ない、人材不足など、さまざまな課題があります」

――次に、スタートアップと大企業がWinWinになるためのポイントについて、両者に伺った。

城戸氏「米国では、“No Patent, No Cure”と言われるほど知財が重要です。治療法や薬の開発には非常にお金がかかるため、回収できる保証がないと誰も資金を出してくれません。ベンチャー企業にとって知財は生命線です。強い知財を得るには、ビジネスモデルが重要。どのような薬や治療にするのか、最終的なアプリケーションを考えて知財を押さえていかなくてはいけません。申請時期、国、特許にする技術と秘匿するノウハウの切り分け、広範囲な特許、周辺特許の確保など戦略を考えていく必要があります。オリゴジェンでも、コア特許の『オリゴジーニー』のほか、生態型神経幹細胞やペリサイトといったほかの技術の特許化も予定していますが、最適な出願時期や取れる範囲など考えることが多く、専門家の力を借りながら進めています」

南野氏 「大学の場合、事業面を考えずに特許を出願するケースが非常に多く、事業を包括的にカバーする内容になっていないのが現状です。事業化する際は、その特許に加えて、改良した技術や複数の技術を組み合わせて取り損ねた部分をカバーして、第三者がその技術を使えないようにする戦略を描く必要があるでしょう」

――最後に、これから共同研究を行っていくベンチャーと企業に向けてアドバイスを聞いた。

城戸氏「大企業だからといって構えず、対等の立場で交渉すること。組む相手も慎重に選んでほしい。お互いの強みを活かしたWin-Winになれる相手であることが重要です。NDAやCDAがあっても知財を守れるとは限らないので、契約に内容や知財管理には十分に気を付けてほしいです」

南野氏「初期のベンチャー企業は大企業との契約を取ることを優先して、自分の描いているビジョンと多少違っていても譲歩してしまいやすい。譲れないポイントはしっかりと交渉して、自分たちにも相手側にもいい条件をうまく引き出してほしいと思います」

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