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大企業と共同研究するバイオベンチャーが注意したい知財ポイント

2022年03月25日 11時30分更新

 2021年11月30日、バイオベンチャー向け知財オンラインセミナー『「特許庁」に学ぶ! バイオベンチャー向け大企業との共同研究のポイント』を京都リサーチパークにて開催した。本セミナーでは、辻丸国際特許事務所の南野 研人氏、オリゴジェン株式会社代表取締役 城戸 常雄氏、特許庁総務部企画調査課ベンチャー支援係長 今井 悠太氏が登壇し、研究開発型バイオベンチャーが大企業とつきあう上で必要な知財戦略について講義した。

 京都リサーチパーク株式会社は、ライフサイエンス、ウェルネス分野の研究者が利用できる研究環境やアクセラレーションプログラム等の情報を発信するセミナーを開催している。2022年4月にはP2 /BSL2対応の機器付レンタルラボ「ターンキーラボ」を北大阪健康医療都市(通称、健都)にオープン。床面積は約930平方メートルでシェアラボとしては国内最大級の規模だ。実験エリアには細胞培養が可能な実験機器が備わっており、試薬等を持ち込めばすぐに研究を始められる。また、ラボマネージャーが常駐し、煩わしい施設管理も不要。共同研究を始めたいが自社ラボの空きがない企業や研究場所を持たないベンチャーなどが、利用頻度にあわせてお得に利用可能な施設となっている。

共同研究で注意すべき3つのポイント

 最初に「バイオベンチャー向け~共同研究で注意すべき3つのポイント」と題して、辻丸国際特許事務所の南野 研人氏が講演した。

 バイオベンチャーが自社単独で製品を上市するのは非常に難しいため、基本的には製薬企業や大手の事業会社とコラボレーションで進めていくことになる。ただし、自社のビジョンと大企業のビジョンとは必ずしも一致しないので、契約交渉進めていくうちに当初の思いとはずれが生じてくる。

 そこで注意するポイントとして、1 秘密情報の取り扱い、2 共同研究の成果は誰のものになるのか、3 契約終了後に共同研究成果をどのように利活用していくのか、の3点について説明した。

まず、1点目の秘密情報の取り扱いについて。ベンチャー企業が自社の秘密情報を開示する際、機密保持契約(NDA)や秘密保持義務(CDA)を課すのが一般的になっている。

 しかし、秘密保持契約を結んだあとも情報開示には注意が必要だ。ベンチャーの協業先の事業会社は、研究開発及び商品、サービスの事業化機能を持っている。協業先にとって、他社と利益共有するよりも、単独で事業化および収益化したい、というインセンティブが存在する。また、サイエンスに基づく技術とノウハウは、情報が十分に開示されれば同程度の技術力のある会社では再現できる可能性が高い。

 秘密保持契約を結んでいても、ノウハウで秘匿している自社技術のうち特に重要な部分は開示しないのが原則。医薬品に関連する技術であっても、新薬承認申請に直接関係しないような部分は秘匿し続けることが可能な場合もある。ベンチャー企業は、自社のコア技術と関連する秘密情報を精査し、第三者が使ってもいい又は使わせたい情報と、使わせない情報を仕分けし、開示する秘密情報を決定する必要がある。

 2点目は、共同研究成果の帰属について。共同研究では、両当事者が共同して研究に携わるため、成果物も両者の共有になるのが一般的。ただし、実施主体が実質的にベンチャーのみの場合、法律上の解釈ではベンチャーの単独帰属であるべきだが、成果は共有となるケースも多々見られる。ベンチャー側は資金提供といった支援を受けているため、一部の共有は仕方がないにせよ、すべての成果を共有にしてもいいのかは考える必要がある。

 ベンチャー企業は、共同研究において自社コア技術の改良技術が生じる可能性があれば、それを共有してしまうと自社の将来的な技術活用に制限がかかってしまう。そこで改良技術については自社に帰属するように手当てしておくことが望まれる。

 3点目は、契約終了後の共同研究成果の利用について。

 基礎的な共同研究の場合、当初想定したような成果が出ずに研究が終了、中止する場合も多々ある。うまくいかなかった共同研究の成果物を利用・改良して次の製品の種が得られる場合もあるため、不成功に終わった共同研究についても成果の利用について利用条件を定めておくべきだ。

 契約終了、中止後の成果利用については、利用条件を両者間で公平な条件としないと、協業先は成果物の情報を収奪するために契約を終了させ、成果物の情報をもとに改良を行い、単独での事業化、および収益化を図る余地が生じてしまう。そこで、契約終了時には、共同成果の利用制限をかける、利用の際に事前に許諾を求める、何らかの成果が出た場合には報告義務を設ける、といった条件を付けておくといい。

 ベンチャー企業の場合、協業先から契約書案が出ることが多いが、経済産業省が公開しているガイドラインなども参考に、自社で契約書のひな型を作成するのがおすすめだ。契約後のトラブルは処理が難しいため、判断がつかないときは早めに専門家に相談しよう。

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