痒いところに手が届く技術を日本で開発……
ピクサーが飛びついてきた
まつもと なるほど。では、今度はゲームエンジンを提供する側の大前さんに伺っていきます。やはり2015年頃から問い合わせや「一緒にやりませんか?」みたいな話が増え始めたのでしょうか?
大前 CG業界からお呼びがかかったというよりは、両者が互いに問題の解決法を探していたタイミングだったと言えるでしょう。こちらがCG/映像のクリエイターと一緒に何かしようという取り組みを始めたのも、ちょうど2015年あたりなのです。当時、海の向こうでは「ゲームにフォーカスしろ」という大号令がかかっているなか、Unityの日本チームでは映像分野も開拓しなければという機運が高まっていました。
この頃Unityに「物理ベースレンダリング」という、いわゆる現実っぽい絵をきちんとレンダリングできる技術が加わったためです。
まつもと 面白いですね。
大前 同時期にマーザ・アニメーションプラネットさんと『THE GIFT』(2016年)という作品に協力しました。新たにAlembicというフォーマットへの対応をはじめ、映像業界で使う際に必要になりそうな機能を色々開発して提供しました。それらは、現在Unityが提供する(アニメ制作向け)技術の基盤になっていたりします。
まつもと もしそこで、大前さん率いるUnityジャパンとマーザさんのアライアンスがなければ、アニメ制作におけるUnity利用は今のようには進んでいなかった可能性も……。
大前 そうですね。さらに、『THE GIFT』を発表した2016年、今度は海の向こうのチームが『ADAM』というリアルタイムデモを作っていました。そこでも『THE GIFT』のときと同じような問題にぶち当たりまして。たとえば、ビリビリと腕のところのビニールを引き裂くような表現がリアルタイムだと無理だという話になっていたようで、『Alembicさえあれば……』と悩んでいたところで、日本のチームが「もうあるぞ」と出したら、「マジか!」みたいな(笑)
そんな感じで、映像表現にもUnityを使えることがわかってきたので、その成果をGame Developers Conferenceというゲーム開発者会議で発表したところ、『ADAM』と『THE GIFT』を見たピクサーさんが、「ちょっとお前ら何してんの!? すぐ話を聞かせろ」みたいな感じで飛びついてきて、「こういうのを作っています」みたいな話をしたり……あのタイミングですごく注目度がバーっと上がった感じではありますね。
濱中 なるほど。
まつもと そうした動きがなぜ日本発だったのでしょう? もちろん、大前さんがいらっしゃったということもあるのでしょうが、日本って俗っぽく言うと、世界の実写ではメジャーな存在ではなく、セルルックのアニメが際立って尖った進化をしている国なわけで。
大前 1つは、お金をふんだんに使えないからでしょうか。「何百億円つぎ込んでどうにかする」みたいな話って日本ではなかなかありませんよね。実際、僕らもいわゆる基礎技術を開発したわけではなく、末端のつなぎ込みの部分とか、最後のワンプッシュになる箇所を作ったわけです。基礎技術研究はやはり北米の会社、特にピクサーやディズニーがものすごいお金をかけてやってますから。だから、これがなぜ日本から生まれたのかっていう問いには、生まれてません、みたいな回答になっちゃう(笑)
まつもと (笑)。物量に限りがあり、なんとかしなきゃいけないというニーズが日本にはあり、かつUnityジャパンもつなぎ込みの部分をやっていらっしゃったからこそ上手く組み合わさったと。
大前 Unityジャパンの都合だけで言うと、確かに日本のゲーム業界でもUnityの需要は爆発的に増えましたが、やはり日本単独では結構小さいと言いますか、十分に大きい商圏ではあるのですがアメリカほど大きくはないので、要するに「先が見えている」という認識が2015年の我々にはありました。
まだまだ全然伸びしろはあるけれど、いずれ想定しているすべてのお客さんと契約してしまう日が来る。だからアメリカと同じ目線でやっていたらアカンぞ、今のうちに外の業界にも目を向けないと……って。
そうした根源的な課題を解決したいという意識もあって、マーザさんと一緒に仕事をしました。それに……映像業界の方が(レンダリング時間などで)すごく苦労されているのは僕たちも知っていたので、そこはやっぱりクリエイター仲間として手を差し伸べたいという、結構純粋な気持ちでやっていた部分もあるにはありますね(笑)
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