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Unityジャパンの大前広樹氏、スタジオコロリド創業者の宇田英男氏が語る

ゲームエンジンを最初に使いこなしたアニメ会社が圧倒的に勝つ

Unityは業界の人手不足にも効く!?

まつもと まずは宇田さんにこれまでの歩みを語っていただければと思います。じつは宇田さんと私は昔、CGアニメをかなり早くからチャレンジをしていたGONZOという会社で一緒に働いていたこともあるのですが、当然その頃はゲームエンジンを使うという発想はありませんでした。しかし現在、宇田さんは実際に制作会社を立ち上げてチャレンジを始めていらっしゃいます。そこに至るまでをお聞かせ願えればと。

宇田 僕が働いていたGONZOでは過去に(フルデジタルアニメの走りである)『青の6号』が制作されてはいましたが、自分が在職期間中はどちらかと言うとまだ紙と鉛筆でカット袋を大量にまわす時代だったので、なかなかGONZO時代にゲームエンジンという発想はなかったなというのが率直なところです。

 その後、自分でスタジオコロリドという会社を立ち上げて、自社のオリジナル作品を作り始めましたが、設立当初は機材も少なく、できることも限られていたので、小さな制作会社でありがちな、夕方にレンダリングボタンを押して1回帰って朝戻ってみると「うおー、できてない!」みたいな(笑)、そんな経験を何度も繰り返していました。

 そんなときに、『ゲームエンジンだとレンダリングがすごく早い』という噂を聞き、5年くらい前に色々検証はしてみました。でも当時はまだセルルックアニメにゲームエンジンを使うのは早過ぎる部分があるな、と諦めていたところがあって。

 ただ、2018年に公開した『ペンギン・ハイウェイ』という作品ではレンダリングの問題ではなく、主人公の部屋の背景を表現するのにUnityを使いたいという話が出て、『なるほど、ゲームエンジンってそういう使い方があるのね』と。そこで、まさに大前さんが広めてやっていらっしゃるUnityを使わせていただき、映画も非常に好評をいただきました。

 

 一方で、僕自身はUnityだけではなく、Unreal Engineも使ってみたいなと思って、2021年に『青い羽みつけた!』というオリジナル作品を制作するときに採用しました。

 Unity同様、背景表現のために利用したのですが、これにはアニメ業界のクリエイター不足、特に背景美術担当が圧倒的に少ないという課題があるからです。

 そこで僕は、背景美術専門の人ではなく、CGクリエイターにUnreal Engine、そしてUnreal Engine内の「Megascans」というマテリアルを無料で使えるツールを用いて背景を作ってもらおうと試みました。

 つまり、ゲームエンジンの入り口としては「レンダリングをなんとかしたい」だったのですが、結果的には「表現においてもゲームエンジンって使えるんだな、ということを学んだ」というのがここ5年くらいの歩みだったかなと。

 

まつもと 伝統的なアニメ制作フローを説明する際、「モノやキャラクターにアニメーションを付ける流れと、背景を描く流れがあって、その2つが最終的に撮影の段階で合流する」とよく言われますよね。宇田さんの場合は後者にゲームエンジンを採用したのですね。

宇田 そうですね。

まつもと 最初はキャラクターやモノでのアニメーションに使おうとしたけれど、そっちはあまり上手くいかなかったと。

宇田 グラフィニカさんなど上手くいってる会社さんもあるので、僕のやり方の部分もあるのかなと思います。僕が関わる作品は手描きにこだわっている部分が多かったりするので。ただ、結果的に背景での利活用からスタートしましたが、もちろん将来的にはキャラクターの部分もゲームエンジンを活用したいなという思いは結構ありますね。

まつもと では、ゲームエンジンへの取り組みが始まったのが2015年前後ですか?

宇田 『台風のノルダ』(2015年)というオリジナル作品を作ったときに、まさに「レンダリングが朝になっても終わらない問題」がしょっちゅう発生して悩んだ時期がありまして、ゲームエンジン活用を考え始めたのはそのときですね。

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