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オフィスビルの配送集荷サービスを無人化。複数の自動搬送ロボットのクラウドからの統合制御を目指すQBIT Robotics

さまざまな地域課題や社会課題の解消や、ドローンやスマートシティなどとの組み合わせで期待されている自動走行ロボットを活用した配送サービス。日本でも各種実証実験が進んでいるが、いよいよ実装が見え始めている。2020年より実施されたNEDOによる実証実験で見えてきた動きを追いかける。

 物流やサービス業界では、慢性的な人手不足やコロナ禍での非対面・非接触ニーズから、自動搬送ロボットや配膳ロボットの導入がすでに始まっており、今後急速にロボットの活用が進むと予測される。ロボティクス・サービス・プロバイダーの株式会社QBIT Roboticsは、大規模オフィスビルやショッピングセンターにおいて、異種複数台の自動搬送ロボットを活用したサービスの導入と運用効率化を図るため、ロボットと施設設備を一元管理するプラットフォームの開発に取り組んでいる。

さまざまなロボットサービスを短期間で
実現するためのプラットフォームを開発

 QBIT Roboticsの取り組むテーマは「大規模オフィスビル向け、異種ロボット連携による館内配送サービスの実現」。

 近ごろは100万円台の低価格な自動走行ロボットが登場し、レストランやホテルなどでの導入が始まっている。現状は、会社や店舗がロボットメーカーと契約し、専用アプリで1台ずつロボットを制御していることが多いが、今後、自動走行ロボットが多数稼働し1つのアプリケーションを構成するようになれば、施設全体でロボットを効率的に運用管理するソフトウェアが必要になる。

 QBIT Roboticsは、2030年までに大規模オフィスビル約1600棟、大規模ショッピングセンター約400カ所において、自動搬送ロボットとロボットアームを活用した館内配送集荷サービスの実現を目指し、複数の異種ロボットを一元管理する基盤ソフトウェアの開発に取り組んでいる。

 まず、ロボットを活用したさまざまな業種パッケージの開発を容易にするため、多様な業種やロボット種別に対して共通の位置管理や制御を行う「クラウド・ロボット・アプリケーション基盤」を開発。これにQBIT Roboticsが開発済みの「エッジ・ロボット制御基盤」と連動することで、ロボット活用アプリケーションが短期間で開発可能となった。

 その上に、ビル施設や利用するロボットの構成、配送集荷ポリシーの組み合わせに対して、最適なロボット配車機能や配送集荷スケジューラを実現する「館内配送集荷基盤」を開発した。

複数メーカーの自動搬送ロボットを使って、
ビル内のテナントへ配送・集荷

 実証実験は、2021年6月2日~7月2日の1カ月間、森トラスト株式会社 城山トラストタワーにて実施された。

 ビル1Fの荷捌きエリアでロボットアームを用いて、荷物を搬送ロボットへ積み込み、人も通る通路やセキュリティードアを通過して、エレベーターに乗り込み、30階から37階にあるオフィス・テナントに荷物を配送したり、逆に高層階のオフィスから荷物を回収して、1階の集荷場へ集めるなどの実証を行なった。西濃運輸株式会社、佐川急便株式会社、城山トラストタワーの5テナントの協力のもと、実際の荷物を使った配送集荷が行われた。

 自動搬送ロボットとして、Savioke社のRelay、Pudu Robotics社のPudubotを利用。ロボット専用荷物棚をUniversal Robots社のロボットアームUR5eと真空吸着式のロボットハンドとVision Systemを用いて独自開発した。

 実証では、外部調達してきた複数の自動搬送ロボットに共通の基盤ソフトウェアを搭載した場合のサービス可能範囲、ロボットの仕様差による課題の洗い出しが行われた。また館内配送サービスを実現するために必要なロボットの積載容量、ロボット1台で配達可能な限界配送量、Wi-Fi通信の自動搬送ロボットを館内で使用するうえでのネットワークの補強などの検証も行なわれた。

 この実証実験を経て、自動ドア、エレベーター、利用者端末、配送業者端末、運用監視端末の間で、実用レベルでのデータ・情報共有ができる統合システムを構築できたとのことだ。

複数荷物の配達やエレベーター連携、
無人配送など、さらなる効率化が課題

 実証後のヒアリングでは、テナントからは「オンデマンドで15分以内にロボットが集荷に来るのが便利。何度も集荷依頼することに抵抗感ない。非対面、非接触も良い」、物流会社からは「館内滞留時間が短くて良かった。ビル外から集荷に必要なタイミングが見えるのが良い」、ビルオーナーからは「ビルが建った後は経年で設備劣化してしまうのが普通だが、ロボットを活用することで設備が改善していき、未来感が出せるのが良い」といずれもポジティブな回答が得られている。

 今回の実証では1台のロボットで1つの荷物を配送したが、単位時間での配送量やエレベーターの利用効率が悪かった。実用化のためには、1台で複数荷物の配達ができ、エレベーターの利用効率を向上させるために同一フロアの荷物を可能な限り1台のロボットに詰め込むアルゴリズム開発が必要となる。また現状の仕様では人がいる時間帯にしか配送できないため、緊急性の低い荷物は夜間配送や時間外の集荷できるように、今後はテナント毎の小型無人集配ラックの開発や、荷捌き場でのロボット専用荷物棚の改良も計画している。

 なおQBIT Roboticsでは今回の実証実験を経て、2021年末に自動搬送ロボットとロボットアームを用いた館内配送集荷サービスを事業化。当面、オフィス延床面積10万平米以上の国内大規模オフィスビルと、敷地面積3万平米以上の国内大規模ショッピングセンターをターゲットに販売を進める。

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