売れに売れている軽自動車
Nシリーズの歴史を紐解く
Hondaは17日、青山の本田技研工業本社ビルにて同社の「Nシリーズ」誕生10周年を記念した記者向けトークイベントを開催した。そこでNシリーズ誕生秘話や10年の歩み、そしてこれからの10年が見えてきたのでご紹介しよう。
トークイベントに参加したのは、クリエイティブクリエイターの佐藤可士和氏、起業家の山川 咲氏、本田技術研究所デザインセンター渋谷恭子氏の3名。佐藤氏はNシリーズの初期段階からブランディングに携わり、ロゴデザインのほかCMのディレクションも手掛けている。
冒頭、Nシリーズの名付け親である佐藤氏は「今から10年前、Hondaの軽自動車は今では考えられないほど、売れていませんでした。当時はクルマにライフなど車種名が付けられていたのですが、ブランディングとして車種名ではなくシリーズ名とすることにしたんです」と、当時の構想を振り返った。「その時、シリーズ名として“これからの新しい日本の乗り物を創造する”という意味合いを込めてNew、Next、Nippon、Norimono(乗り物)のそれぞれの頭文字である「N」としたのですが、それがHondaにとってすごく大事な名前であることをあとで知りまして。失敗できないことがわかり、責任重大だなぁと感じたのを今でも覚えています」と並々ならぬ決意で臨んだそう。
2011年にN BOX+が発売。軽自動車規格のミニバンといえる軽スーパートールワゴンであるN BOXは一躍人気モデルとなった。その後、2012年に乗用車デザインのN ONE、2013年にN WGNをリリース。2014年にHonda史上最速で生産台数100万台を達成する大ヒットモデルとなった。
N BOXは2017年、より使いやすく室内空間と先進の運転支援を搭載して2代目にモデルチェンジした。佐藤氏と渋谷氏は「Hondaとして作りたいのは、いいクルマだけでなく、いい暮らしです。そこでN for LIFEという新しいキャチコピーを打ち出しました」語った。さらに渋谷氏は「様々なシーンにおける、心地よい空間ということに注力したことを覚えています」と開発時のことを振り返った。
日々変化するライフスタイルに対応する柔軟性
この10年でライフスタイルは大きく変わったと佐藤氏は感じているという。「昔はみんなが持っているものがいいものだった。ですが現在はパーソナライズの時代へと変化していった。それに合わせてクルマも変化しなければならない。さらに新型コロナウィルス感染症拡大により、リモートワークが一般化していった。それまで働き方改革は求められていたものの、その速度は緩やかなものだったが、一気に加速した。それに伴い“個”のスペースが重要視されてきた」と分析。
渋谷氏も「今まではオンとオフがハッキリしていたが、リモートワークによって曖昧というか、シームレスな時代になってきたと思う。それゆえ、クルマは行動を後押ししたり、生活を拡張する存在になってきた」と感じているという。ここに起業家の山川も「以前は高級車や外国製がステータスシンボルであったし、3年前クルマを買う時に、輸入車以外は恥ずかしいと思っていた。その時、キャンプ場にいったら、ひとりで軽自動車のキャンピングカーと楽しく過ごされる人を見て、素直にカッコイイと思った。人の目ではなく、自分がどう思うかが大切な時代に変わってきたと思う」と、個の時代が来ていること感じているそうだ。
渋谷氏は「N-ONEがキャンピングカーとして使われているという話をうかがったことがあります。私たちとしては、そういう使い方は想定していなかっただけに、驚くとともにうれしく思いました。私もN-WGNで時々車中泊をしているのですが、小さいクルマだからこそ、カスタマイズしやすく愛着がわきやすい」と自らの経験を語る。
これに山川氏も興味を示す。「人として自然を求める気持ちは当然のこと。さらに運転中は原稿を書いたり、読んだりするといった、インプット/アウトプットができない時間でもある。それゆえ、自分を見つめなおす時間にもなる。通信網も発達したことから、正直どこでも仕事はできる。ゆえにワーケーションといったものが、より一層注目される時代となり、パーソナライズされたクルマの人気が高まるだろう」と起業家らしい分析をした。佐藤氏も「それゆえ、Nシリーズは日本で一番売れている自動車になった。それは10年前では考えられなかったことだ」と時代が変わったことを実感しているようだ。
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