2021年12月で、AMD Ryzen CPUは5周年を迎える。2016年12月に発表されたRyzen CPUは、Bulldozerコア世代までのCPUとは異なり、自動ツールに頼る設計を止め、DDR4対応のAM4プラットフォームに移行。高いマルチコア性能により、それまでのイメージを一新させ、快進撃を続けた。
その後、Zen+、Zen 2、Zen 3とコアの性能も向上、プロセスの微細化も進み、より高性能で省電力化なCPUとして着実な進化を遂げた。第3世代のRyzen 3000シリーズでは、ついにシングルスレッド性能で競合CPUをも超え、数多くのPCにも採用されたことで、認知度も高くなっている。
詳細な歴史は、すでにライターの大原雄介氏に記事化して頂いているので、そちらを確認して欲しい。今回は、振り返り記事でもお世話になった大原氏に加え、笠原一輝氏、松野将太氏と3人のライター、さらに日本AMDのジャパンマーケティング本部の佐藤美明氏も迎えて座談会を行ない、この5年間を振り返って貰った。(以下、敬称略)
Ryzenはロードマップどおり出ている、それが重要
ジサトラハッチ Ryzen 5周年おめでとうございます。今回は、Ryzen 5周年記念企画として、この5年間を振り返って頂ければと思います。さっそくですが、最初にRyzenの情報が出た時の印象をお聞かせ願えますでしょうか。
大原 Ryzen以前は、なかなか仕様通りではない性能になりがちだったところ、Ryzenは事前に公開されたとおりの性能だったので、とてもうれしかったね。あと、あの当時14nm FinFETプロセスは、他のどこも採用していなかったので、それが心配だったけれど、割とよかったので凄く安心したね。
笠原 前の世代まで、性能的に厳しく、その時代がずっと続いていたところ、ジム・ケラーがAMDに来て、Zenを設計したわけじゃないですか。その時から説明を聞いていて、この人っぽいアーキテクチャーだなって、思っていました。
当時はいろいろトラブルがあって、AMDの信頼度が落ちている時期でしたが、最初のRyzenが出たことで、その信頼度が上がったと思います。それは、凄く大事なことで、CPUは毎年出るわけですが、ロードマップどおりに出すことが、CPUメーカーにとってもの凄く大事なことだと思うんですよ。
しかし、AMDは正直なところ、Ryzen以前はできてなかった。ところが、Ryzenになってから、今の今までロードマップどおり出ています。それに対して、競合他社は10nmで足踏みしちゃいましたよね、そこでとても差がついて、Ryzenが浮上したという市場背景があると考えています。
ジサトラハッチ 松野さんはいかがですか?
松野 僕はアスキーに入って自作の仕事を始めたのが、確か2015年エクスカベーター(Excavator)の時代ぐらいなんですよ。
しかし、CPUの比較をしようとした時に、AMD CPUは候補に入ってこなかったため、触ったことがなかったんです。知識としては持っていましたが、本当に扱わなくていいのか不安になっていました。
そんななかRyzenが出ると聞いたので、正直侮っていました。
ジサトラハッチ 事前情報なども聞かされていなかったら、分からないですよね。
笠原 Zenのアーキテクチャーについて、僕らは出る前からいろいろ聞かされていたので、これは大丈夫だな、とは思っていましたよ。
大原 あと、僕らはAMDの良い時代を知っているんですよ。K7、K8、K10という時代は、凄く良いコンペディションをしてたんですよ。K5の時から使ってるし、Am486もベンチマークしていた最後の世代で、良くない時代の前には、長く良い時代もありましたからね。
笠原 AMDがターンアラウンドになっている時って、新しいテクノロジーを出してきて、競合他社に対して強くなったという時代があったんですよ。たとえば、2000年代半ばごろ、AMD64(今のx64)という64ビット技術を出した時は、競合他社がIA64に無理矢理行きかけた時に、論理的な64ビットへの移行を実現したAMD64を出してきて、それをMicrosoftが採用を決めて勝負が決した。その結果、AMDがOpteronやAthlon 64と勢いを得たわけ。あの時代は良かったですね。
ジサトラハッチ 何か法則性のようなものがあったりするんでしょうか。
笠原 僕的にはいくつかバロメーターがあるんですよ。ひとつはサーバーが良い時期。クライアントの方は、言葉は悪いけれど、ちょっと無理やりサーバーの技術をそのまま持ってくれば、ある程度性能をごまかせますが、サーバの性能は(新しい技術やアプローチがないと)ごまかせないんですよ。
AMD64が出た時なんかはまさにそれで、AMDの業績が右肩上がり。今もEPYCが凄く良くて、AMDの収益がもの凄く上がっています。やはり、それがAMDが好調の証拠ですよね。
大原 もうすぐ、「3D V-Cache」を採用した新型EPYC「Milan-X」も出てくるしね。
松野 僕は家に初めて来たPCのCPUがAMD製だったんですよ。
ジサトラハッチ それはどのCPU搭載機だったんですか?
松野 Duron(デュロン)でしたね。
佐藤 あれは売れましたね。世界を席巻していましたね。
笠原 当時はAthlonが高めなイメージがあった一方で、Duronは安かったので、ガンガン売れてましたね。
大原 そういう良い時代もあったけれど、Bulldozerのころは楽しみが一切なかった。そんななか、Ryzenが登場して2017年からは自作のマーケットも盛り上がったよね。
笠原 Ryzenが登場したことで、自作の選択肢が広がりましたよね。僕らからすると、競合他社にとっては、AMDはある意味仲間なんですよ。x86のマーケットというと、イギリスの方にある別会社と戦っているわけですよ。そのため、一緒になってPCマーケットを広げていこうという流れに変わっている気がしますね。
大原 x86のエコシステムというものそのものが、競合にだんだん押されつつある状況にあらがっていかないといけない。一時期は某社は一社でやろうとしていたけれど、今は二社でやろうとしていることが良いことかなと思うよね。
佐藤 それが、今は市場の活気に繋がっていますね。実際にRyzenが出た時に、日本の市場で面白かったのが、Ryzenの販売数が、そのままCPUの販売数に上乗せされていたんですよ。それだけ、AMDのCPUを待っていてくれた人が多かったようです。
笠原 あと、Ryzenの追い風になったのが、2019年ごろから日本でゲーミングPCのマーケットが急速に立ち上がったからじゃないですか。それが、Ryzenの第2世代や第3世代が、ちょうど重なったのも良かったですよね。
大原 併せてゲームの配信が盛り上がって来て、ゲームプレイとは別に録画用にコアが1個か2個動いていないと厳しいという時に、コア数が正義になったんですよね。
佐藤 弊社はマイクロソフトさんとの繋がりも強いので、そうした市場の動向もある程度読んでいたところもありました。そのため、そうしたマルチスレッドが活きる市場が来ると分かっていたので、Zenを開発していたのはあります。それが上手い具合にハマりましたね。
笠原 Ryzenでは他社に先駆けてチップレットの技術を採用したことで、コア数を増やせたので、それがもの凄いメリットになりましたね。それによって、競合他社よりもコア数が多い製品を出せたので、エンドユーザーにとって凄く分かりやすかったですよね。それが、今のRyzenの良い評価に繋がる最大の理由かな、と思います。
大原 AMD Ryzen Threadripperの登場時期もナイスタイミングでしたよね。競合はモノリシックダイでしか考えてなかったけれど、Ryzen Threadripperは数を増やせるのが良かったですよね。
笠原 ダイの数をスケーラブルにできるようにしたのも、歩留まりの面でも有利だし、性能でも有利だし、良いことだらけなんですよね。
佐藤 チップレットという仕組み事態は、昔からあったわけですが、時代を先読みして、先取したのが、上手くRyzenで華開いてくれました。
大原 Zen 2の時代に、よくあのサイズにI/OダイとCPUダイ2つを収めましたよね。最初聞いた時はのけぞりましたよ。
笠原 あれ、I/Oダイの方がCCDよりもデカいんですよね。COMPUTEXの時に16コアを発表したのにも驚きましたね。
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