電動車のパイオニア・三菱自動車の「DENDOコミュニティサポートプログラム」とアウトランダーPHEVによる“災害支援プラスα”の可能性
地震や河川の氾濫など、毎年のように各地で起こる甚大な災害。その後で、何よりも早く復旧が望まれるライフラインのひとつが電力。有事の際に、たくましい足回りで電力が必要な場所に移動し、発電&給電することができるPHEV(プラグインハイブリッドカー)は被災地へダイレクトな助けとなる、まさに“どこでも電源”だ。
電動車のパイオニアである三菱自動車は、自治体と提携したPHEVでの災害支援を始め、2021年は新型コロナワクチン接種にも貢献。さらにはエンタメシーンや医療現場までもと、その活動範囲を広げている。今回は、三菱自動車が取り組む「DENDOコミュニティサポートプログラム」の災害支援活動とPHEVの新たなる可能性について、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。
「DENDOコミュニティサポートプログラム」とは?
――「DENDOコミュニティサポートプログラム」の活動について教えてください
峯金「全国の自治体と災害時協力協定を締結することで、災害発生時、停電の発生している地域に、速やかに、かつ確実にPHEVをお届けし、給電活動にお役立て頂くプログラムです。
支援活動としては主に3つありまして、ひとつめが災害時の派遣、2つめが新型コロナワクチン接種の支援。3つめは、電動車を活用した災害支援の範囲を広げていくための実証活動と実証試験を、自治体の要請に協力する形で行なっております」
――活動を公式にスタートさせたのはいつ頃?
峯金「『DENDOコミュニティサポートプログラム』として発表したのは2019年8月です」
――まだコロナのコの字もない頃ですね
峯金「そうですね。ただ、弊社はさまざまな災害の支援や社会貢献活動ということで、もっと前から電動車を派遣するなどの災害支援活動を行なってきました。
そもそも、なぜ電動車かというところから申し上げますと、最初は2009年に環境対策として、世界で初めての量産型EVである、i-MiEV(以下アイ・ミーブ)という軽タイプの電気自動車を出したんです。その後、2013年にやはり世界初のSUVタイプのプラグインハイブリッド車を出しました。これはガソリンエンジンを使った走行とEV走行もできるし、さらにエンジンで発電して、その電力でも走れる。さらに給電もできるというタイプの車・アウトランダーPHEVです。実は弊社は、電動車と言われるもののパイオニアの会社なのです」
――2つの車のリリースの中間、2011年の東日本大震災の際は、首都圏でも計画停電が実施されて、電気の大切さに改めて皆が気付いたと思いますが、PHEVの開発にはその影響も?
味岡「影響しておりますね。2011年3月に東日本大震災が発生した時は、およそ90台のアイ・ミーブを被災地に派遣しました。それが弊社にとって、電動車による初めての支援活動になったのですけれども、激甚災害でしたので、メーカーと販売会社が一体となって支援しました。
皆さんもご記憶にあるかと思いますが、当時は特にガソリンが枯渇して、給油のための渋滞がひどかった。その中で、電力は比較的復旧が早かったので移動手段として、例えばお医者様の巡回などにご活用頂きました。そんな時、インフラがなかなか復旧しないエリアに、アイ・ミーブを持っていったら、住民の方から『この電力を取り出せたらいいのに』というアイデアを頂いて。会社としてもお客様に喜んで頂くために、いち早くその仕組みを作ろうということで『MiEV power BOX』(ミーブ パワーボックス)という、電力を取り出せる外部給電装置を開発しました」
――素早い対応で素晴らしい。災害時協力協定の締結はいつでしょうか?
味岡「ミーブ パワーボックスをリリースした年の2012年9月に、初めての災害時協力協定を京都府等と一緒に締結したのです。でも、それきりで終わってしまって、その後の展開にはつながりませんでした。
そのおよそ1年後に、さらに電力を簡単に取り出せるようにするために、アウトランダーPHEVには、AC100Vのコンセントを付けました。発電と蓄電ができて簡単に電力を取り出せる、足回りも強い。非常に災害救援に向いている車ということで、それ以降、熊本地震、九州北部豪雨、西日本豪雨、北海道胆振東部地震、令和元年房総半島台風など、各地で災害が起きる度に派遣しました」
――特に停電は早く復旧して欲しいですよね
味岡「令和元年房総半島台風の際は、停電が発生した地域に12台のアウトランダーPHEVを派遣していたのですが、実際に支援活動を行なうとなると、手当たり次第に電話するしかありませんでした。まず電話がつながらないし、相手方も忙しいので電話を取れなかったのです。
連絡先は都道府県、避難所運営は市町村になるので、まずそこで連携に時間がかかる。そうなると電動車を送り込む頃には停電が復旧していることも多い。足代わりで使うにも役立つ車ではあるのですけれど」
―― では、一番必要な時に間に合わない!?
味岡「そうなのです。電源として活用されないのは、弊社内でも何とかしたいというのがありまして。そういった中で以前、2012年に京都府と結んでいた災害時協力協定が注目されて、この仕組みを広げたらいいのでは? というアイデアが新入社員から上がりました。それが全国展開されることになって、2019年8月の発表につながったのです。
我々の協定は三者で締結するのですけれども、それもやはり、過去の支援の経験を生かしながら作り上げたものです。事前に協定を締結していることで、互いに連絡を取りやすい関係ができており、自治体さんにも非常に喜ばれる協定となっています」
新型コロナワクチンの輸送にPHEVが活躍
2019年に『DENDOコミュニティサポートプログラム』をスタートさせた三菱自動車。自治体をサポートするシステムを構築したところ、2020年に新型コロナ問題が発生した。その渦中にPHEVは、意外な支援をすることになる。
――コロナ禍やワクチン接種に関して必要とされた支援活動とその影響は?
峯金「新型コロナのワクチン接種支援という活動が、このプログラムの枠を広げようと思ったきっかけになりました。
まず災害時協力協定を結んでいくに当たって、いろいろな自治体の災害対策担当の方とお話しする機会が非常に増えたのです。ワクチンの接種支援は、そういう方々の『実はこんなことに困っている』という声から始まった活動になります。
最初に支援したのは港区の巡回接種です。実は港区内でも、お年寄りや持病をお持ちの方など、接種会場に行けない方が結構いらっしゃった。接種は5月ぐらいから本格化したと思いますが、気温がどんどん高くなるという状況の中で、新型コロナワクチンはどうしても冷やさないといけない」
――特にファイザーですね
峯金「はい。接種会場は何とか冷凍庫を確保したものの、巡回接種は後回しになってしまう。なかなかそこまで準備が追い付かない。でも、どうしてもワクチンを冷やしながら運んで接種しなきゃいけない状況でした。
そんな時、事前に災害時協力協定を結んでいたことで、アウトランダーPHEVの特徴を理解して下さっていた港区の方から相談を受けたのです」
――巡回接種以外の需要もありましたか?
峯金「いくつかの接種会場で停電が発生したこともあり、電動車は、そういった場合の電源確保にも使えるよね、という話も出てきました」
――冷凍庫の電源を入れ忘れた、コンセントが外れていてワクチンを無駄にしたという話も聞きましたね。電源の必要性はコロナ禍でも重要だったと。他にもコロナ禍があったがために気付いた、PHEVの特徴や想定外の活用法はありましたか?
味岡「特徴は2つあります。ひとつは移動巡回車両として走りながら給電できるという点。もうひとつは自動発電です。バッテリー残量が減ってきたら、自動的にガソリンエンジンを回して発電できる。
それが役に立ったのがワクチン接種支援です。平塚市の接種会場のうち、公民館は使える電力量が限られていまして、夏場の接種会場に冷房をかけたくても、スポットクーラーをいくつか同時につけるとブレーカーが落ちてしまう。ワクチンを打ちに来る方々のクーラー分の電力は何とか賄えても、朝から晩まで灼熱地獄の中で働く医療スタッフの分まで回らない。
お医者さんから『これじゃコロナになる前に熱中症で倒れる、何とかして!』という声が、平塚市のワクチン担当者に入ったのです。そこで、その担当者から『そうだ三菱さん、災害じゃないけど助けてもらえませんか?』と問い合わせがありまして」
――コロナも言わば災害ですよね
味岡「本当に、その暑さを何とかしたいという一心でした。当時、早く決裁が下りて、すぐに支援に行けることになり、スポットクーラーを動かす電源としてご活用頂いたのですが、やはり一番大きいメリットは、エンジンで発電できることですね。これがEVだと、限られた人員の中で接種を行なっているので、担当の方も車を充電する時間すらなかったですから。
アウトランダーPHEVなら、ガソリンを満タンにしておけば、理論上は100kWh以上の電力が作れる。ガソリンスタンドに行く頻度も減りますし、いちいち充電しに行く必要がないので非常に良いと、夏場はずっと使って頂きました。お医者さんも全くストレスなく、生き返ったような感じで乗り越えられたと。
平塚市では、もともと過酷な状況で接種せざるを得なかったので、会場を小さな施設に縮小して、接種者も絞って長い期間でやるつもりでした。すぐに打てない方が出ても仕方がない、と諦めていたらしいのです。でも弊社から電動車を支援できたことによって、オンスケジュールで接種できたことをとても喜んで頂けて、まさに社会貢献だなと思いましたね」
――夏の大規模接種になると、会場自体に電源がたまたま十分あればいいけど、その公民館のように困っていたケースも多かったでしょうね
味岡「そうですね。平塚市とは災害時協力協定を締結していたので、弊社の連絡先と車の使い方がすぐに分かったのも大きかったのかな、と」
――他の自治体ではいかがでしたか?
味岡「ワクチン接種支援は、港区の事例がひとつできた後は、自社工場が立地している自治体さんにお声掛けさせて頂きました」
峯金「平塚市の事例は、先方からのご依頼で始めたことですが、他のケースでは弊社の関連施設がある市区町村にお声掛けして、『こういうニーズはありませんか』『こういうことで困っていませんか?』と積極的に聞きに行くと、やはり『困っている』ということで支援させて頂きました」
――新型コロナ関連では、いくつの自治体に派遣されたのですか?
峯金「平塚市を含めて、9つの自治体へ10台派遣しました」
プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」4つの強み
――先ほどもお話に出ましたが、三菱自動車PHEVの強みや特徴を改めて教えてください
柳平「大きく分けると4つあります。まずひとつめは、何と言ってもスイッチ1個で1500Wまで給電できること。コンセントが車内に付いているので、誰でも簡単に使えます。1500Wだと、意外と何でも使えるんですよ。
災害時はスマホを何十台と充電できるし、ドライヤーや炊飯器など消費電力の大きい家電にも給電できる。まさに災害時にもってこいの車なのです」
――災害時は大容量がありがたいですね
柳平「私は岩手出身で、東日本大震災当時はまだ地元におりましたので、1500Wの電力があれば、どれだけ救われるかということが分かります。その実感をいつもご説明するようにしています。
また2つめになりますが、V2H(Vehicle to Home)という、車両に蓄えた電力を家で使う仕組みを使い、専用機器とつなげば、家全体の電気を賄うことができるんです」
柳平「2021年12月に発売になった新型アウトランダーPHEVなら、満充電、ガソリン満タンの状態でV2H機器を介して、一般家庭の最大およそ12日分の電力を賄える。これ1台さえあれば、たいていの停電は乗り切れます」
――12日間とは、スゴいですね!
味岡「停電は長くても1週間と言われていますので、災害時の電力確保としては十分な量ですね」
――もしかして、いわゆる市販の発電機より三菱の車の方が優秀なのでは?
柳平「断然、優秀です! 発電機はまず、すごく音がうるさいですよね。例えば自宅で持っていても、夜間に使ったら騒音トラブルの原因になったりなど」
――お祭りなどでないと使えないような
柳平「発電機はメンテナンスも必要ですし、場所も選びます。自治体さんでも結構備蓄されていますが、アウトランダーPHEVの話をすると、費用さえあればこっちの方がずっといいよね、という話になりますね」
味岡「発電機は、普段使わずにいる場合が多いので、古くなったオイルの交換などメンテナンス費用が馬鹿にならないということは実際、自治体さんからもよく聞きます。車ならば定期でメンテナンスがありますので」
――ハイブリッド車は、バッテリーの重さが弱みだと聞いたことがありますが、その対策については?
峯金「おっしゃる通り、バッテリーが大き過ぎると車がどんどん重くなっていき、結果的に効率が落ちるという問題が出てきます。でもそれこそが、弊社が最適解としてプラグインハイブリッド車をご提案する理由のひとつなのです。EVで大きな車両ですと、80kWh、100kWhという大容量のバッテリーを積んで非常に重く、コストも掛かるところが、新型アウトランダーのバッテリーは20kWh。CO2を出さないEV走行だけでも、日常使いなら十分持つ程度のバッテリー容量で、1回の充電で80km以上走れるようになっています」
味岡「バッテリーは車体下部に敷き詰めてありますので、低重心化により非常に安定性もいいんです」
柳平「“走り”については、もうひとつ、我が社が誇る4輪制御技術による力強く安定した走行性も魅力です」
――安定した走行性が、3つめの強み。電動車全振りだと、バッテリーがどうしても大きくなるから、ガソリンエンジンとのハイブリッドがベストなのかな
柳平「4つめは大きなラゲッジスペースです。災害時には、たくさんの支援物資を避難所や福祉施設などに運ばなきゃいけないですよね。そういった支援物資を載せて、プラス悪路も走れて、家全体に給電もできる。電力が尽きても、またその場で発電できて、ちゃんと帰ってこられる。これこそがアウトランダー最大の強みです」
電動車のパイオニア・三菱自動車は災害をどう考える?
――PHEVが生まれた、そのベースには三菱独自の企業文化がある?
味岡「もともとEVの開発は、50年以上も前から行なっています。後はモータースポーツで培ってきた、我々の技術の結集がPHEVにつながっていると思います」
――電動車のパイオニアとして、地震、津波、水害や台風の被災地やコロナワクチン接種において、多くの自治体をサポートされてきましたが、災害全般への対応についての考えは?
峯金「大きく2つあるのかなと思います。ひとつめは『DENDOコミュニティサポートプログラム』の支援について災害時協力協定を結んでいますが、これを有事の際に、しっかりと実行できるということが、まず必要です。
ただ、そうはいっても、我々の支援にも限界があるとも同時に思っておりまして。やはり我々が目指すところは、災害時に強みを発揮できる電動車を世の中に普及、拡大していくこと。それによって、国土強靭化につながっていくのではないかと。
そのためには災害時だけでなく、平常時に『電動車が災害に役に立つ』と普及していく活動に力を入れていきたいと考えています。具体的には防災訓練などに参加して、広く一般の方にも知ってもらう。知識を身につけることで、いざという時に電動車が使えると覚えて頂くことが、全体として災害への対応になってくるのではないかと思います」
味岡「昨今、カーボン・ニュートラルが盛んに言われていますが、三菱のPHEVは当然適応していて、電源確保という点で役に立つのはもちろん、かなりエコな車なのです。高速道路ではエンジンも回して走る場面もあるのですが、それは電力だけよりもエネルギー効率が良いから。お客様が意識しなくても、日常は自然由来のエネルギーによるEV走行や、災害時にはガソリンを使った発電もして、安心安全を確保することができます」
エンタメや医療の現場へも。PHEVの広がる可能性
“どこでも電源”アウトランダーPHEVの活躍の場は、被災地への災害支援だけに留まらない。エンターテインメントの現場にも、その可能性を広げつつある。2020年には、 特務機関NERVを運営するゲヒルン、三菱自動車、スカパーJSATが災害による長期停電や通信網途絶に備えて「防災情報配信サービスの継続」と「近隣自治体への支援」を目的とする災害対策車「特務機関NERV制式 電源供給・衛星通信車両 5LA-GG3W(改)」を共同製作した。また、2021年には丸の内のイルミネーションで社会実験も行なっている。
――2020年の「特務機関NERV」とのコラボ、とてもワクワクしましたね
味岡「これは、また別の部門が制作に携わっていたものですが、エヴァンゲリオンゆかりの箱根町との協定締結の際には、DENDOプロジェクトもご一緒させて頂くこととなりました」
――エヴァの聖地が、何ともタイミングばっちり
味岡「箱根町さんもぜひに!ということで、通常の協定の仕組みとは異なりますが、合同締結式を行ないました。締結式における給電デモンストレーションの際には、アウトランダーPHEVからWi-Fiを飛ばして、ゲヒルンさんが通信の実験を行ないましたが、スマホの電波が弱いところでも、Wi-Fi通信によってしっかりつながることには我々も驚きました」
――最近では丸の内のライトアップも?
味岡「2021年は、12月2日~8日の7日間、『Marunouchi Street Park 2021 Winter』にて、アウトランダーPHEVの給電機能で、クリスマスツリーの点灯の実証実験を行ないました。ライトアップイベントは、自治体さん主催のイベントなどでも広く行なっています。」
――可能性は無限大ですね。最後に、今後の展望や予定を
味岡「『DENDOコミュニティサポートプログラム』 を立ち上げた時には、2022年度までに全国47都道府県の自治体と協定を締結するという目標を掲げて活動してきました。2021年12月現在で36都道府県・163の自治体と締結(※)しています。
例えば、ある県内の1市町村で締結したとします。すると地元メディアが取り上げて下さって、その記事を読んだ近隣の市町村から問い合わせが来て、ウチとも締結して欲しいという形で、輪が広がっていきました」
※ 系列販売会社と自治体・二者間の締結は除く
――2022年度には全国制覇できそうな勢いですね
味岡「現在も、その目標に向けて活動してはいますが、この取り組みは、社会のニーズに応じてずっとやっていく必要がある活動と考えています。我々も始めた時には、電動車を災害時に電源として活用する目的で締結を進めていたのですけども、先ほどの新型コロナワクチン接種の件のように、医療現場から新たなご依頼も頂いています。
川崎市からは、人工呼吸器の専用外部バッテリーに給電できないか? という話があり、検証に参加してご協力させて頂きました。PHEVから外部バッテリーに給電して、その外部バッテリーを人工呼吸器に接続した際に正常に稼働するかどうかの実験ですね。これまで自動車メーカー側としては、絶対に医療機器を接続してはいけないという共通の認識、触れてはいけないタブーのようなものがあったんですよ。
ただ在宅医療されている方は、停電になった時に人工呼吸器が動かないと、本当に命に関わってきます。実際に他の自治体では、停電が起きたために亡くなられた方もいらっしゃるようです。そのために、バッテリーを大量に車中へ積み込んで、いつ起こるか分からない災害に怯えておられる方の話も聞いていますし。これについては『医療的ケア児者への発災時の電源確保事業』の開始ということで、川崎市が2021年7月に公式発表しています」
――外部バッテリーへの給電という形で、医療の分野でも貢献できる可能性を持つことが分かったのですね
味岡「自治体からご提案を頂く中で、PHEVの電源としての価値は、もっともっと広がるだろうと思います」
峯金「川崎市で行なった時は、医療機器メーカーさん2社もご協力下さって、人工呼吸器を提供して頂きました。しかし、当初は通常のコンセントから取った電源以外で試すことは、メーカーとして保証ができない、と言われましたね。ですが災害時に限っては、やはり人命が大事だということで一転、協力して行ないましょうと。
保証という観点からでは難しいのですが、業界同士が歩み寄らないと進まないのも事実なので。今回の検証では、使用した人工呼吸器の外部バッテリーへの給電であったため、検証に踏み切りましたが、まだ医療機器へ直接接続することはできません。一般的な人工呼吸器への対応が広まるためには、これからもっと実証実験を重ねていくことが必要です」
――もちろん慎重に進めないといけないけど、トライアルしなければ明日へつながらない
峯金「世の中に広めていくためには、業界同士もそうですが、自動車メーカーなら日本自動車工業会のような大きい組織が動かないと、なかなか前には進まない。なので我々としては、そういったところへのご提案や働きかけをしていこうと考えています」
味岡「コミュニケーションを取る中で、自治体さんから『こういうことはできないの?』という声を頂いて、三菱のPHEVがモビリティを通じて、世の中のお役に立てると分かりました。従来は走行時の価値にしか焦点が当たらなかった車が、給電という機能によって停止時の価値も生まれましたし。社会に貢献できることは、我々自身も非常にやりがいを感じていますね」
開発を始めてからおよそ50年。電動車の先駆者である三菱自動車は、ラリーで培ってきた4駆技術との融合で、最高峰のプラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」を誕生させた。悪路もモノともしないタフな走りと、ガソリンエンジンとの併用で最大12日間、無給油で一般家庭一軒の電力を賄えるという、業界No.1を誇る給電パフォーマンスは秀逸。それは災害時だけではなく、さまざまなシーンへと活躍の場を拡大しつつある。
CO2削減=カーボン・ニュートラルが叫ばれる時代、イギリスでは2022年から新築の建物全てにEV充電器の設置が義務化されるなど、EV車への注目と需要は世界的にも高まる一方だ。しかし災害時では、電力の安定供給は困難を極める。普段はEV走行で、危機に直面した際はガソリンエンジンで発電もできるPHEVは、まさに現代のスーパーユーティリティーカー。自治体はもちろん、一般家庭へ普及していけば、いざ災害に見舞われた時も近隣で助け合える、より安心して暮らせる世の中になっていくだろう。
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