ついにトヨタが本気を見せた!?
突如EVのフルラインナップを公開
トヨタが驚きの記者会見を実施した。12月14日の「バッテリーEV戦略に関する説明会」だ。
その内容を簡単に言えば、“これから本格的にEVをやる”という宣言だったのだ。先だって発表した、スバルと共同開発したEV「bZ4X」を皮切りに、ミディアムクラスのSUV、コンパクトSUV、ミディアムセダン、3列シートも可能なラージSUVのEVを展開。さらにレクサスはEV中心のブランドへ変化するという。
具体的には、2030年までに30車種のEVを投入。それは、トヨタの乗用車やレクサスだけでなく、商用車までを含む、いわゆるフルラインになるという。
そして2030年までにEVの年間販売350万台を目指すと宣言したのだ。
その内訳は、トヨタが250万台、レクサスが100万台だ。このとき、欧州、北米、中国の販売はEVが100%になる。さらに、2035年にはグローバルでEV販売100%を目指すという。
発表会場には、「bZ4X」をベースとしたEVコンセプトを5車種、レクサスが4車種、さらに未来のトヨタEVとして7車種、合計16台ものEVコンセプトを並べたのだ。そこには、セダンやSUVだけでなく、スーパースポーツからピックアップトラック、商用のマイクロカーや商用バンまでが含まれる。まさにフルラインナップという内容であった。
ここで驚くのは350万台という数字だ。現在のトヨタの年間販売台数は年間約1000万台で、そのうちEVはほぼゼロと言っていい状況だ。それを、わずか10年弱で350万台にまで伸ばすという。ちなみに、世界最大のEVメーカーと言われるテスラでさえ、2020年の販売は50万台ほど。今年は2倍ペースで売れているというが、それでも100万台にすぎない。エンジン車中心のマツダとスバルの年間販売台数は、どちらも100~150万台であるから、トヨタが目指す350万台というのは、その2社をあわせた数よりも上。
わずか10年弱で、テスラの3.5倍、マツダとスバルを足した数より上のEVを販売しようというのだ。
しかも、これは掛け声だけの目標ではない。トヨタは350万台を基準として、2030年までに研究開発・設備に巨額な投資をするという。その額、4兆円。そのうち2兆円が電池への投資となる。「年間350万台EV販売」にかけるトヨタの本気度が見える投資額と言えるだろう。
しかし、年間350万台、4兆円の投資に驚いて「これまでEVに消極的だったトヨタが、一気にEVへ舵を切った」と勘違いしてはならない。
今回の発表は、「トヨタのEVシフト宣言」ではないのだ。
どういうことかと言えば、年間350万台という数は膨大ではあるが、年間1000万台メーカーであるトヨタにとっては、全体の35%に過ぎない。残りの65%はエンジンを積んだ、エンジン車、ハイブリッドなどとなるのだ。さらに投資で言えば、EVの4兆円と同額を、ハイブリッドやプラグイン・ハイブリッド、FCV(燃料電池車)にも投資するという。
もともとトヨタの戦略は「全方位」を基本としている。EVもやれば、エンジン車もハイブリッドも、水素で走るFCVも、すべてやるというわけだ。また、トヨタという自動車メーカーの特徴は、グローバル市場に向けてフルラインナップを販売するというのが特徴だ。欧州や北米、中国といった大マーケットだけでなく、ASEANや中東、南米、アフリカなど、世界170ヵ国以上。まさに世界中で商売をしている。車種もコンパクトカーからSUV、商用車まで、さまざま。つまり、世界中にいろいろな顧客を持っている。市場ごとに自然環境も違えば、経済環境も異なる。EVが普及しつつある市場もあれば、逆にエンジン車でないと困るという市場もある。さらには南米のようにバイオエタノールという、カーボンニュートラルに近い燃料がすでに普及している市場もある。
そうした、多様な市場に対応するには、EVシフトではなく、全方位な姿勢で臨まねばならぬというわけだ。
「カーボンニュートラルのカギを握るのがエネルギーです。現時点では、地域によってエネルギー事情は大きく異なります。だからこそトヨタは各国、各地域のいかなる状況、いかなるニーズにも対応し、カーボンニュートラルの多様な選択肢をご提供したいと思っております。どれを選ぶか。それを決めるのは、私たちではなく各地域の市場であり、お客様です。どうしてここまでして選択肢を残すのか。経営的な話で言うなら、選択と集中をしたほうが効率的かもしれません。しかし私は、未来を予測することよりも変化にすぐ対応できることが大切だと考えております。だからこそ、正解への道筋がはっきりするまで、お客様の選択肢を残し続けたいと考えています」とトヨタの豊田章男社長は説明する。
「選択するのはお客様」であり、「トヨタは選択肢を残すためにEVも用意する」というわけだ。そして、お客がEVを選ぶようであれば、「迅速にEVを品ぞろえするよ」というのが今回の説明会の骨子であった。
必要なモノを、必要な時に、必要なだけ用意する「ジャスト・イン・タイム」。これはトヨタの十八番の生産方式のこと。EVも、そうしたジャスト・イン・タイムで臨むということなのだ。
撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY
スポーツカーからSUV、セダンや超小型車まで!
発表されたEVたち
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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