多くの試合が無観客となりながら、コロナ渦の夏を熱く盛り上げた「東京2020オリンピック」。大会をテクノロジー面で支えたスポンサーの1社が中国発のグローバルクラウドベンダーであるアリババクラウドだ。アリババクラウドのオリンピックでの実績を振り返るとともに、日本での展開を予定している映像処理IoTのサービスについて聞いた。
オリンピック史上初のクラウド採用 動画配信やメディア対応まで
アリババクラウドは国際オリンピック委員会(IOC)と契約を結んだ14社の「ワールドワイドオリンピックパートナー」のうちの1社。2028年のロサンゼルスオリンピックまで、「クラウドサービス」と「ECサービスプラットフォーム」のカテゴリで優先的にサービス提供を行なう資格を持つ。開催が1年遅れた東京2020でも10以上のプロジェクトを展開しており、大会の円滑な運営に大きく寄与している。
まずはオリンピックの動画配信を手がけるオリンピック放送機構(OBS)向けの「OBSクラウド」だ。アリババクラウド インテリジェンスビジネスグループ ビジネスデベロップメントディレクターの新妻 晋氏は、「従来だったら、イチからサーバーを調達する必要があるのですが、今回は弊社のクラウドで配信を提供しました」とのこと。リオに比べてメモリの利用量は3割減少し、コンテンツの制作が3割増加したという。無観客での試合・演技が多かった今回、われわれが視聴者としてオリンピックの動画配信を楽しめたのも、アリババクラウドのおかげだったわけだ。
また、若い世代の観客を惹きつけるべく、オリンピック選手や競技情報を継続的に提供するインターネット放送局「オリンピックチャンネル」もアリババクラウド上で運営されている。「膨大なデータを扱いながら、コストパフォーマンスを出せるようにしたり、グローバルからのアクセスに対しても高画質・低遅延で配信できるようにするためのテクノロジーを提供しています」(新妻氏)とのこと。また、記者会見の視聴やダウンロードが可能な「プレスカンファレンス・オン・クラウド」は、メディアの動きが制限されたコロナ禍で特に大きなメリットを得られたサービスだ。
このようにアリババクラウドがスポーツイベントに注力する理由は、どこにあるのだろうか? 新妻氏は、「われわれは中国の企業ですが、日本はもちろん、米国や欧州などグローバルにビジネスを展開しています。その点で、オリンピックのようなワールドワイドのイベントのスポンサーになるというのは、われわれのテクノロジーを世界の方に知ってもらうために、とても良い機会だと思っています」と語る。
あのテニスの試合の時間変更にアリババクラウドのセンサーあり
さらに今回はメディア関係者向けにウェアラブルデバイスの「Alibaba Cloud Pin」も活用された。「記者がピン同士をタッチすると、事前に登録されたSNSや連絡先を簡単に交換できます。登録者数が増えるとランキングが上がるみたいなゲーム的な要素も入っています」と新妻氏は語る。
こうしたアリババクラウドのIoTテクノロジーは、熱中症対策にも用いられた。同社が開発したデバイスを大会スタッフの耳に装着すると、体温や心拍数が計測され、スマートフォンで確認できる。さらにコントロールセンターにも表示されるので、リスクが高くなった場合は現場の責任者が休息をとらせたり、水分補給するといったオペレーションに活かせる。
さらに、競技会場の14カ所には暑さ指数(WBGT)メーターが用意され、気温や湿度、日照量、輻射熱などの暑さ指数が観測された。各会場がどの程度暑くなっているのかリアルタイムに可視化されるため、競技が可能な状態なのかを運営委員会がデータで把握できる。「ジョコビッチ選手も暑さに苦言を呈した有明のテニス会場は、観客席だけではなく、審判台の後ろにも備え付けられました。この結果、本来難しい試合の開始時間の変更も実現しました」と新妻氏は振り返る。
こうしたソリューションの多くは、アリババクラウドのメンバーのみならず、さまざまなパートナーとの連携で実現されている。「たとえば、短距離走で走者のスピードを可視化できる『アスリートトラッキング』においてはインテルのAI技術とわれわれのプラットフォームとの組み合わせで実現されています。今回は日本企業とのコラボレーションで実現されたソリューションも多いです」(新妻氏)。
しかもクラウドサービスのカテゴリだからといって、海外でオペレーションしていたわけではない。「日本からヘッドクオーターのある中国が近いという利点もあって、コロナ禍で人数は数十名にしぼりましたが、来日して東京でオペレーションさせていただきました」(新妻氏)とのことで、実際に汗をかいたという。
「万物検索」を実現するアリババならではのAI
こうして実績を積んできたアリババクラウドの映像配信やIoTの技術を統合した映像処理IoTプラットフォームが「Link Visual」になる。さまざまなカメラやIoTゲートウェイからの画像データをクラウドに集約し、クラウド上のAIで分析。専用デバイスやアプリ、ホワイトボードなどで可視化するコンピュータービジョンのサービスだ。
個人的に注目したいのは、映像配信やIoTの仕組みよりも、多種多様なAIのアルゴリズムだ。AI活用の社会実装が進んでいる中国だけに、実現できるソリューションは群を抜いている。
たとえば、グローバルでも利用が進んでいる顔認識。同じ顔の写真を検索する場合も、画像だけではなく、さまざまな属性を加えた混合検索が可能だ。また、アルゴリズムで検出した画像に人間が判断を加えることで、高い精度を実現するプログレッシブ検索を実現する。動画に関しても、監視カメラで撮影したビデオから人やモノが映っている部分を抜き出し、圧縮することが可能。アリババクラウド インテリジェンスビジネスグループ ソリューションアーキテクトの薛東明氏は、「特定の目標を探すため、人手による監視も圧倒的に楽になる。警備会社やビルの管理はとても楽になります」と語る。
さらに顔だけではなく、動画の中から特定のモノを画像を検索することも可能だ。たとえば、青い傘や黄色い、ボーダーのシャツなどを動画から探すことができる。動画さえあれば、施設内のどこに忘れ物が落ちているかすぐわかるわけだ。当然、それらを身につけている人もピックアップできる。
今までこうしたモノの画像検索が難しかったのは、AIに学習させるモノのデータが多すぎたからだ。その点、アリババクラウドはECサイトであるTaobaoにおいて、日々膨大な商品データを蓄積している。「テナントが数万点の商品を日々登録してくれています。これはAIによってみれば教師データと同じ。しかも、グローバルでも中国製のモノが数多く流通しているので、人だけではなく、モノも検索できるんです」と薛氏は語る。「万物検索」という名前もまったく違和感がない。
アリババクラウドと連携すべきこれだけの理由
アリババクラウドの映像処理IoTプラットフォームを用いるメリットの1つは、幅広いエコシステム。薛氏は、「中国の監視カメラはコストパフォーマンスがよく、グローバルでもシェアが高い。多くのメーカーと相互接続性できるアリババクラウドは、他のクラウドに比べても競争優位性が強い」とのこと。中国ではLTE搭載の監視カメラも数多く市場に出回っているので、屋外に監視カメラを設置して、クラウドに直接動画データを流し込むようなソリューションも容易に実現できるという。
もちろん、日本のカメラメーカーにとっても同社の用意したSDKを使ってアリババクラウドとの接続性を確保すれば、中国市場でのサービス展開も容易になる。また、中国で圧倒的なシェアを誇るTmall(天猫)やTaobao(淘宝網)といったECサイトを運営するアリババは、協業しているベンダーにとっと有力な販売チャンネルであるのも間違いない。薛氏は、「デバイスも、クラウドも、動作が確認されているので、エンドユーザーはアプリケーションに専念できます」と語る。
映像処理IoTプラットフォームのユースケースも多種多様だ。B2Bであればビルや設備監視や災害対策などが挙げられる。薛氏によると、あるメーカーから相談を受けたのは、過電流を検知するためのアナログメーターの監視。今までは人手で監視していたが、メーターが赤く点滅したらアラートを挙げるといった具合に設定すれば、無人での監視が可能になるという。
また、小売系のユースケースとしては薬局での棚管理も監視カメラで効率化される一例だ。最近では薬局チェーンでも食品を販売しているが、消費期限が長く、商品が棚にある時間の長い薬と違って、野菜や果物は商品の足が短い。そのため、薬局が慣れていない棚を監視カメラで自動管理し、欠品したらいち早く発注すればよい。
B2Cのサービスでも活用方法はさまざまだ。たとえば、カメラ付きのドアフォンを玄関に設置し、訪問者の動画をスマホで受けられるようにしたり、掃除ロボットにカメラを搭載して自動走行するといったサービスは、すでに中国では実現済み。「リモートでペットの様子を見るサービスがあります。カメラから声も出せるので、仕事場からペットで話すこともできます」(薛氏)とのことで、日本でもさまざまなサービスに応用できそう。
グローバルでシェアの高いカメラとの相互接続性、アジア圏に強いクラウドとエコシステム、そして中国で実績の高い多彩なユースケースなど、アリババクラウドと連携することで、さまざまなメリットがある。ビジネスの展開先が中国でも、日本でも、映像を用いた監視やIoTソリューションを検討する日本企業は、アリババクラウドの動向に注視すべきだ。
(提供:アリババクラウド)
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