「国土交通省のオープンデータ3D都市モデル「Project PLATEAU(プラトー)」で横浜の課題解決を考える」レポート
PLATEAUの強みはオープンデータ 国交省のオープンデータ3D都市モデル活用法
2021年10月4日、スタートアップ成長支援拠点YOXO BOXにてセミナーイベント「国土交通省のオープンデータ3D都市モデル「Project PLATEAU(プラトー)」で横浜の課題解決を考える」がオンラインで開催された。国土交通省が中心となり、民間事業者の力も借りながら、国内約50都市の3D都市モデル整備を目指しているプロジェクト「プラトー」は、3D都市モデルに様々なデータを組み合わせることで、新しいビジネスの創出、地域の課題解決の活用に期待されている。
今回は、国土交通省のProject ”PLATEAU”チーム内山裕弥氏や、横浜など地域を舞台に活躍する株式会社plan-Aの相澤毅代表取締役をゲストにプラトーの活用方法を考えるディスカッションが展開された。
第1部は内山氏によるプラトーの解説と最新状況の紹介、第2部はプラトーをこう使いたい、活用トークディスカッション、最後に質疑応答というタイムテーブルで実施された。
PLATEAUとは?
国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐 内山裕弥氏が、動画を見せながら「Map the New World.」について紹介。PLATEAUは、国土交通省が進めている、まちづくりのデジタルトランスフォーメーション(UDX)推進事業であり、DXを使って今までできなかった課題解決をすることを目的としているプロジェクト。3D都市モデルの整備とユースケースの開発、利用促進を図ることで、全体最適・市民参加型・機動的なまちづくりの実現を目指している。
Project PLATEAUの価値としては、市町村が持っている二次元データと定期的に行っている航空データを活用し、加工して3D都市モデルという新たな付加価値を生み出しているということが挙げられる。また、データ整備段階から「こんなことができる」というユースケース開発を同時進行し、エコシステムを構築。真のオープンデータを実現するためにデータ仕様を公開し、データを触る方々が触りやすい開かれたデータ利用環境の構築を目指している。昨年、札幌市や横浜市、金沢市など、全国56都市1万平方キロメートルの3D都市モデルを整備。Googleアースと違い、建物1棟1棟のスケールから、都市全体のスケールまで統合可能という唯一の性質を持っていることを、資料とともに紹介。PLATEAUのユースケースとしては「物流のドローンフライトシミュレーション」「バーチャル空間における新たな都市体験」「災害シミュレーションによるリスク分析」など、無限の使い方があるという。
横浜の3D都市モデルを使ったクイーンズスクエアの人流モニタリングは、コロナ対策・密度コントロールやマーケティングに活用。サーバー上に3D都市モデルを置いて、そこに人流データをリアルタイムで表示し、携帯で見られるというのは、ありそうでなかったソリューションで、おそらく世界発だという。PLATEAUを利用したサービスやアプリケーションはさまざま登場している。PLATEAUの成果物はlibrariesとして公開しており、「3D都市モデルの導入ガイダンス」をはじめ、エンジニア向けの「作業手順書」や「ユースケース開発マニュアル」などがあるので、一度のぞいてみてはいかがだろうか。今後は、データ整備の効率化・高度化、ユースケースの拡充によるスマートシティの社会実装に引き続き、取り組んでいく。
「PLATEAUをこう使いたい!」活用トークディスカッション
続いて、第2部のトークディスカッションでは、Code for YOKOKOHAMA代表 小林 巌生氏と株式会社plan-A 代表取締役、プロジェクトデザイナーの相澤 毅氏が加わり、闊達な議論を展開した。
「Code for YOKOKOHAMA」は横浜を拠点にシビックテックという活動を行なっているボランティア団体。シビックテックはITスキルを備えた市民による社会貢献活動の総称で、何かしらのデジタル技術持っている市民が集まって、そのスキルを地元のために生かしていくことを目的としている。東京都のコロナ対策サイトは、シビックテックの活動で作られたものだ。現在もサイトの改善などはシビックテックが担っている。「Code for YOKOKOHAMA」は2015年から活動を開始。勉強会やイベントの企画、横浜市他団体との連携事業、横浜市へのIT施策の提言やアドバイスを行っている。今日のテーマにも関わってくる「3D年モデル可視化勉強会」も不定期で開催し、学生を中心にUnityというソフトウェアを使いながら横浜の都市モデルをどうやって使って行けばいいかを検討。また、横浜市国際局が設置した国際PR拠点のためのVRコンテンツを制作しており、この中でもPLATEAUが使えるのではないかという検討も始まっているという。
株式会社plan-Aは、「YOXO BOX」の事業の運営をつかさどっているコンソーシアムの一員であり、不動産開発や町づくりや企業との新規事業開発を一緒に進めるプロジェクトデザインを担っている。3月に公開した横浜市産業特性調査報告の内容を紹介。「都市と農地の地理的距離の近さは強みのひとつ」「港北エリアや金沢産業団地内に中小規模の事業者が集積」「R&D施設や研究所の従事者はつくば市に次いで多い」といった特性を見ると、横浜にさまざまなビジネスチャンスがあることが分かる。
最初に相澤氏から「PLATEAUは使いたいが、横浜市産業特性調査報告のデータを作れる人も実はとても少ない。一部の人だけでなく広く知ってもらうためのビジュアライズの方法があるのではないか」という提言があった。内山氏は「PLATEAUはCG的なものなのではないかと思われがち。実は2D-GISだったものを3次元化している。地理空間に紐づいてさまざまなデータを集めて解析するもの。PLATEAUのデータ企画を使うと、いろいろなデータを集積することが簡単にできるようになる。相澤さんが集められたデータを建物単位で集めて関内エリアを分析することも可能。それを3次元的にビジュアライズすることで分かりやすく可視化することは、PLATEAUの本流的な使い方」と回答。小林氏は「高さ情報を扱えるようになったのがPLATEAUの面白いところ。自治体が出しているハザードマップが3Dなら自分の家がどこまで浸水するのかが明確になり、VRのゴーグルで見ればよりリアルな可視化が可能になる」と、具体的な活用方法が生み出されている途中だという意見を述べた。
PLATEAUの強みはオープンデータであること
直感的に分かることはPLATEAUの強みであるが「3次元的な使い方にこだわる必要はない」と内山氏。シビックテックの活動においてPLATEAUを歓迎すべきポイントは、「誰でも使えるオープンデータであること」だという。これまで、2次元の地図は国土地理院が提供していたものがあったが、3次元で品質が保証されたオープンデータは世の中に存在していなかった。内山氏は「オープンデータが好きな人に、PLATEAUをいじってもらって遊んでみてほしい。そうするといろいろなものが生まれてくるのでは?」と話す。
「新しいプラットフォームができて、遊びながら試すことができたら裾野が広がるというのはwelcomeな話」と相澤氏。しかし、PLATEAUの「CityGML」は国際標準化されているが、日本ではまだ拡がっていないことから、課題も多かったと内山氏。しかし、エンジニアの方の適応力が高いことから、ここ半年くらいで状況が変わってきているという。
Code for YOKOKOHAMAでPLATEAUを活用した動き
小林氏は「学生が卒業の課題作成にPLATEAUを使って何ができるかを考える勉強会に参加している」と話す。3Dのソフトはたくさんあり、各社が自分たちのフォーマットを持っている。それぞれの変換がいろいろなやり方があるので、ここでつまずく人が多いという。「PLATEAUの規格で統一してもらって、そこから使いたい人がコンバートしていけばいい」と内山氏。小林氏も「PLATEAUは公共のためのデータである、というところからスタートしているので、より標準的なオープンなフォーマットになっている」と述べた。
PLATEAUが抱える課題
内山氏の考える今後の課題は、コアなエンジニア層ではない、一般的なITエンジニアにリーチするためにどうしていけばいいか。「まさにシビックテック的な課題」だという。もう少しPLATEAUのデータを扱える人の裾野が広がっていかないと「みんなの生活が良くなったよね」という段階までにはもう少し時間がかかるだろう。相澤氏は「横浜においてエンジニアのパイを増やすことが重要。エンジニアとITスキルがない一般市民の間に立って、つなげていく仕掛けが必要だと強く感じた」と話す。小林氏も「技術が好きな人が集まっていると“おたく”的な活動になりがち。自分たちが楽しんで、難しく考えたり、難しく始めたりしているだけなく、外とつないでいくことをやっていかなければならない」と相澤氏と同調している。
横浜市産業特性データ×PLATEAU
司会のガチ鈴木氏から「横浜市産業特性データの中でPLATEAUを掛け合わせることによって課題解決の発見の手助けになる、ビジネス的にこのように組み立てていこうという動きを作っていきたい。新しいプレイヤーを増やせるという特徴的なデータ領域は?」という質問があった。
「従業員がどこで働いていて、事業所がどこに何個あるのかというのは建物に紐づいているデータ。建物単位で落とし込めば、PLATEAUで分析できる。経済の盛り上がり方などを一定のアルゴリズムで可視化することも可能」と内山氏。実はエンタメ的な要素は重要で、昨年「PLATEAU Hack Challenge 2021」でグランプリを獲得したのは「3D都市モデル化した日本の国土をゴジラが破壊する」というものだったそう。「東京でどれくらいの被害が出るのかをシミュレーションしたもの。ゴジラはキャッチ―で使っただけで、いわば災害のメタファー。建物の建築年などの情報に対して、どれくらいの被害が出るのかをシミュレーションして、我々がやってほしいことをやってくれた。入りは大事なので、面白いなというところから関心をもってほしい」と内山氏。人流シミュレーションにPLATEAUを掛け合わせると、5年後のエリアの衰退なども予測することが可能に。シミュレーションは未来予測。このままいくと、どういうところに町の課題があるのか、解決のための施策をシナリオ化することもできるようになる。
質疑応答
「今度の対象となる整備都市はどのように決めていくのか」という質問には、内山氏が「公募します」と回答。自治体が「こういうことに使いたいので、データを作りたい」と計画書を提出して、審査を行う。今年度は石川県加賀市でカーボンニュートラル実験をやっており、脱炭素街づくりを行うためのエビデンスを提供するため、町全体で太陽光パネルを何枚置けるか、年間の発電容量を計算しているという。「地方におけるデジタル活用について」という質問に対しては、「それこそが本来のPLATEAUの使い方。地方部でのソリューション開発に力を入れている」と回答。防災や空き家問題などの課題に対して、市町村の担当者がどのようにそのデータを使って解決していくのか、という部分に入り込んでやっていきたいと内山氏。「PLATEAUは、街づくりや自動運転、カーボンニュートラル、エンタメコンテンツなどには利用されているが、まだ我々が目をつけていない分野で使ってもらって拡げてもらえたら」という思いを述べて、セミナーイベントは終了した。
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