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「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」に選出された名古屋市の取り組み

急速な成長を見せる名古屋市のスタートアップエコシステム

2022年01月28日 11時00分更新

 自動車産業を中心にモノづくり企業が集積する愛知県名古屋市は、堅調な経済圏ゆえにスタートアップ創出にはやや後れをとっていたが、ここ数年で急速な盛り上がりを見せている。2020年7月には「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」に愛知・名古屋・浜松地区が認定され、その高い地場力を生かしてスタートアップ支援に大きく力を入れている。名古屋市経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援室の鷲見敏雄室長に現在の取り組みについてお話を伺った。

名古屋市経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援室の鷲見敏雄室長

グローバル製造業の集積を強みにディープテックのユニコーンを育成

 以前の名古屋市は堅調な既存企業へ人材が集まりやすく、東京や大阪に都市に比べてスタートアップの動きがあまり目立たなかった。しかし、自動車産業におけるCASEやMaaSといった産業構造の大きな転換期を迎える中で、5年程前からスタートアップの機運が一気に高まってきている。

 名古屋・浜松地域のスタートアップのカギとなるのがディープテックだ。もともと自動車産業では年間数兆円もの研究開発を行なっており、研究開発型の企業が多く存在する。名古屋大学・名古屋工業大学からは、モノづくりと関係の深いモビリティや素材、バイオ、ヘルスケアといったディープテックを活かしたスタートアップが着実に生まれてきている。

 グローバル拠点都市を推進する「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」は、中部経済連合会、名古屋大学、愛知県・名古屋市を中心に157の組織で構成された「Aichi-Nagoya Startup Ecosystem Consortium」と、浜松市スタートアップ戦略推進協議会が連携したものだ。

 拠点都市としての方向性は、1)人材、2)オープンイノベーション、3)グローバル化、4)ファイナンス支援の4つ。名古屋は他の拠点都市に比べて特にグローバル企業が多く、オープンイノベーションで組むことはスタートアップにとって海外展開への強力な後押しになる。起業とオープンイノベーションを促進し、資金調達を適切に支援することで、10年間で5社の以上のユニコーン創出を目指す。

中部経済連合会、名古屋大学、名古屋市が連携する「Aichi-Nagoya Startup Ecosystem Consortium」

 拠点都市全体としての取り組みのひとつがJ-Startupプログラムの地域版「J-STARTUP CENTRAL」。事業会社や投資家とのマッチングや中部圏のラジオやテレビ、ウェブを通じたPR、実証実験などの支援を実施。海外展開を目指すスタートアップについては内閣府のアクセラレーションプログラムへ推薦している。また、2021年度から新たに始めたサポーター制度は、地域内外の企業がスタートアップに対し、独自の優遇サポートを提供する仕組みで、現在、サポーター企業を募集中だ。

サポーター制度

地域から海外まで企業や人材の交流を促進

 オープンイノベーションを成功させるため、名古屋市が特に力を入れているのが交流とマッチングだ。事業会社とのマッチング・事業創出プログラム「NAGOYA Movement」を2020年からスタート。まず、事業会社側に共創に必要なノウハウを身につけてもらうためのプログラムを実施し、体制を整えてからスタートアップとのマッチングが行なわれる。

 2020年度は事業会社として、イビデン株式会社、新日本法規出版株式会社、東邦ガス、株式会社、東邦テクノロジー株式会社、株式会社日本高熱工業社の5社が参加し、スタートアップ62社が面談。そのなかから10件以上のプロジェクトが立ち上がり、2021年8月には、第1号事業として、東邦ガスと株式会社LINKのコラボによる新しい介護サービス「ミタスケア」が生まれている。

事業会社側のトレーニングから始めるマッチングプログラム「NAGOYA Movement」

 2019年には起業や事業創出を目指す人の交流を促進する場として「NAGOYA INNOVATOR’S GARAGE」と「なごのキャンパス」を設置。NAGOYA INNOVATOR’S GARAGEは中経連と連携し、人材育成と交流を重視したプログラムが実施されている。なごのキャンパスは、旧那古野小学校をリノベーションしたインキュベーション施設で、オフィスとしても登記が可能だ。このほか、市内に点在する複数のコワーキングスペースを結び付ける役割として「Nagoya Innovation Gateway」を設置。コミュニティマネージャーの勉強会などを定期開催し、利用者へ情報発信することで交流の活性化を図っている。

イノベーション拠点「NAGOYA INNOVATOR’S GARAGE」

 海外展開への支援施策としては、愛知県と連携し、あいち・なごや海外連携アクセラレーション事業「BEYOND」プログラムSを実施。アメリカ・シリコンバレー、中国・深圳を中心に海外展開を目指すスタートアップを対象としたプログラムで、個別メンタリング、海外の展示会やピッチへの参加支援、海外企業とのマッチングの機会を提供している。

 また、米ボストン発の「Venture Café」と連携したプログラム「NAGOYA CONNÉCT」をなごのキャンパスで月1回開催するなど、海外のイノベーターとの交流にも力を入れている。

小学生から社会人までのアントレプレナー教育プログラム

 もともと名古屋市は教育意識が高く、メルカリの山田進太郎氏やVOYAGE GROUPの宇佐美進典氏など名古屋出身の有能な経営者は多い。しかし、ほとんどの学生は大企業志向が強く、アントレプレナーシップは低めだ。地元の大学発ベンチャーの創出を促進するため、2016年に東海地区の大学が運営する起業家育成プログラム「Tongarliプロジェクト」がスタート。名古屋大学を中心に10を超える大学が加盟し、アントレプレナー教育を実施している。

 名古屋市では、大学に入る前の子どもたちの起業家マインドを醸造するため、小学生向けのゲームを通じて経済の仕組みを学ぶ「小学生起業家たまご塾」、中学生向けにはアプリ制作等を通してITビジネスの起業を体験するプログラムなどを実施。2021年からは、「高校生スタートアップ創出促進事業」として、著名な起業家の講演会、実際にビジネスをつくり起業を疑似体験する「スタートアップ・ユースキャンプ」を行なっている。

 社会人向けには、AIやIoT技術を学びながら事業を創出するプログラム「NAGOYA BOOST 10000」が用意されており、アントレプレナーコースとイントレプレナーコースに分かれて、最新技術の活用から事業創出までが学べる。前述の株式会社LINKは、2018年度のプログラムの中で事業を創出したスタートアップだ。

 加えて、グローバルマインド育成を目的とした新しいプログラムとして2021年度から「GLOW Tech Nagoya」をスタート。講義型のセミナーだけでなく、現在シリコンバレーで活躍している講師陣とオンラインでつないで交流することで、生きた経験を学ぶ機会を提供している。

NAGOYA BOOST 10000

 これだけ多くの支援事業を一気に進めるには、かなりの予算規模になる。名古屋は大都市とはいえ、さすがに一自治体だけでは難しい。まず中経連が先導する形で地域一体となって動いてきたことが大きな予算獲得につながったそうだ。

「自動車や製造業の時代から新しい産業へと変わってきていることを肌で感じ始めてきており、とくに若い世代の意識は大きく変わりつつあります。」と鷲見氏。

 社会人向けのプログラムには大企業の従業員も参加しており、スピンオフベンチャーも期待できそうだ。5年間の取り組みからスタートアップの数は増えてきている。次は、グローバル展開を促し、ユニコーンの育成に力を入れていくことが課題だ。

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