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デジタルツイン時代の自分コピーのススメ

自分を3Dスキャンして向う側の世界(仮想空間)で踊りまくろう!

私の全身スキャンの瞬間のようす。84台のカメラとより立体を正確にスキャンするためにプロジェクターが照射したようすも分かる。

ダンシングユニット=山田+遠藤 がデビュー

 あるとき、私の業界で「Palmの神様」(※1)として有名な山田達司さんが、自分が踊り続ける動画をポストしていた。

 「えっ、あの山田さんがダンス!!?」

 失礼ながらこの種のダンスとかディスコとかにそういうものに関して、私と同じぐらい無縁だと思う山田さんである! ところが、目をこすってよく見ると、山田さんが踊っているのはバーチャルな3D空間で、よく見ると本人もスキャンされて作られたリアルアバターなのだった。

 いまデジタルの世界の最も大きな潮流の1つが、世の中のあらゆるものを3Dでバーチャル空間に再現することである。3Dスキャンしたアバターは以前からあったから「いまなぜ?」と思われるかもしれないが、ちょっと考えただけでも盛り上がっている状況をいくつも上げることができる。

【デバイス】
 Oculus Quest2やPlayStation VRなど高性能で入手容易なヘッドセットが登場。スマホもiPhoneのAR Kit、LiDER搭載など空間認識に関係する機能が充実してきた。

【ソフトウェア】
 UnityUnreal Engineといった3D対応のゲームエンジン、オーサリングツールが進化。現実世界の取り込みでは、 フォトグラメトリで複数枚の写真からテクスチャーつきの3D画像が容易にできるようにもなった。

【インフラ】
 企業トレンドのDXの重要概念の1つがデジタルツイン。それを空間にまで広げたミラーワールドがWebを超えるパラダイムになるという意見もある。 国交省の3D都市モデル PLATEAU(※2)など省庁の動きも出てきた。

【サービス】
  VR ChatClusterHorizon Workroomsと、SNSやメタバース、会議はめずらしくない。ゲームやコンテンツもさることながら、eスポーツのVR観戦など、さまざまな形の文化ができてきている。

 個人的にはこうした事柄をAI技術が加速していくと見ている。ちなみに、山田さんは、「仮想空間でのアイデンティティに興味がある」とのこと。アバターは、まさにデジタルアイデンティティ(自己同一性)とオンラインアイデンティティ(ネット人格)の間を行ったり来たりするものです。

 など、ここのところとても興味を持っていた領域なので、すぐに山田さんに「ボクも踊ってみたいです! 一緒に踊ってください」とお願いしてしまった。すると、「いいですよ」と親切な返事をいただいたのだった。

銅像のようになった私の全身の3Dデータにカラーテクスチャ情報が加わってフルカラーの3Dアバターができあがる。

私の基板柄のネクタイ(キヤノンさんのかなり昔のノベルティ)も綺麗に再現されている。リグ(骨格)の入ったVRM形式のデータができあがった。

 ところが、踊るためには自分の3Dアバターが必要。そこで、「緩募、自分の3Dリアルアバターをつくりたいんですが」と自分のフェイスブックにポストしたところ、これまた仕事でお世話になっている株式会社エクシヴィ(※3)の社長でVR分野の第一人者、GOROmanこと近藤義仁さんからSUPER SCAN STUDIO(※4)の岸本慎也さんをご紹介いただいたのだった。同スタジオは、広告や美術品もスキャンする国内でも高品位なスキャンを行うところとのこと。

Unityに3Dスキャンデータを読み込ませてダンスのモーションで踊らせてもらった。自分がプログラムのオブジェクトとなりゲームのキャラクターになった気分。

踊り続ける3Dの山田さんと私。ダンスユニット=山田+遠藤と命名。無限に踊り続けることもできるキレっキレの踊りっぷりは動画をご覧あれ。

 やっぱり、理想はあなた自身が、VRヘッドセットをつけてVR空間で踊る自分のドッペルゲンガーと対面するってことなのだが。ここでは、私が、実際にどんなふうにスキャンされたのか? 3Dリアルアバターはどんなふうに仕上がったのか? そして、山田達司さんと一緒に踊るようすをビデオにしてもらったので、ぜひご覧いただきたい。

 よろしければ、完成した動画「ダンスユニット = 山田 + 遠藤 The 1st Stage」もご覧ください。

 

※1 Palmの神様。パーム(Palm)は1990年代に一世を風靡したPDA。山田達司さんは、そのPalm用の日本語環境を独自に開発提供して《神様》と称された。株式会社NTTデータ勤務。なお、山田さんのアバタは株式会社VRCでスキャンしていただいたものとのこと。
※2 国土交通省PLATEAU https://www.mlit.go.jp/plateau/
※3 株式会社エクシヴィ https://www.xvi.co.jp/
※4 SUPER SCAN STUDIO http://superscanstudio.com/

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667

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