週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ロボットによる接客で真珠のネックレスを買う時代は来るか

2021年08月26日 08時00分更新

サイバーエージェントの研究開発組織「AI Lab」と大阪大学大学院基礎工学研究科の先端知能システム共同研究講座、スタートアップ企業のPRENOが実証実験を実施した

自動販売機でアクセサリーが買える?

 アクセサリーを購入したいと考えたとき、どこで買うのが一般的だろうか。

 高額なものであれば宝飾店や百貨店の宝飾コーナーになるだろうが、もう少し一般的な、庶民にも手が届く範囲のアクセサリーであればどうか。おそらくは、いわゆるファッションビルや、雑貨屋、目当てのブランドの路面店といった選択肢が一般的だと思う。

 では、自動販売機で、飲み物を買うかのようにアクセサリーが買えるとしたら、いかがだろう。しかも、ロボットが接客をしてくれるとしたら?

真珠のネックレス、おひとついかがですか?

 サイバーエージェントの研究開発組織「AI Lab」と大阪大学大学院基礎工学研究科の先端知能システム共同研究講座、スタートアップ企業のPRENOが協業で、遠隔接客ロボットの実証実験を実施した。

 舞台は渋谷の商業施設「RAYARD MIYASHITA PARK」だ。実証実験の趣旨は、サイバーエージェントと大阪大学が共同で研究開発を進める遠隔接客ロボットが、PRENOによる大型モニター付きDX自動販売機へ誘導や、商品購入時の案内、接客をサポートすることで、来店客の利用促進につながるかどうかを調べるというもの。具体的には、遠隔接客ロボットの設置の有無によって、利用者数と購入者数に変化が現れるかを調査した。

PRENOによる大型モニター付きDX自動販売機

 実証実験から日が浅く、まだ結果は明かされていないものの、遠隔接客ロボットによる接客と、大型モニター付きDX自動販売機の使用感を見学する機会を得たので、その模様をレポートしたい。

 PRENOの大型モニター付きDX自動販売機は、前面に大型ディスプレーをそなえ、商品のプロモーション動画を流すサイネージ機能と、商品購入時の自動販売機のUIが自在に切り替わる仕組み。大出力のスピーカーを内蔵しているため、広大な商業施設に設置した場合でも、視覚だけでなく、音でその存在をアピールできる。前面上部にはAIカメラを内蔵しており、利用者の属性データも取得している。

AIカメラとスピーカーを内蔵する

 同社はこれまでにも、化粧品メーカーなどに向け、フルオーダーメイドで自動販売機を制作しているが、今回設置しているのは、PRENOが自社で仕入れから製品化までを手がける真珠を使ったアクセサリーのブランド「PEARLS(ペルル)」の自動販売機だ。

 価格帯は1980円から1万3200円ほど。7月末からRAYARD MIYASHITA PARKに常設しており、人との接触を減らしながら、手軽に真珠のアクセサリーが購入できるとして、注目を集めている。

 PRENOの代表取締役 肥沼 芳明氏は「従来の接客は、どうしても『勘』に頼る部分が大きい。高額商品の購入に、体験価値を付加することも私たちの狙いだが、購買行動をデータ化し、データの視点から接客の平均化や効率化を追求したい。人には感情があるので、どうしても接客シーンで嫌な思いをするお客様も出てくる。そういった不平等を解消するのも、私たちのミッション」と話す。

支払いはキャッシュレス仕様。主要なQRコード決済などが使える

 DXの分野を手がける企業ながら、アパレルのブランドも自社で手がけてしまうとは驚きだが、PRENOは、購買行動における顧客体験とOMO(Online Merges with Offline)をかけ合わせ、そこで得たデータを、次の商品開発に活かしていくというビジネスモデルを提案している。

自動販売機の脇にショーケースも設置されていて、来店者は、サンプルを見ながら商品が選べる

 協業する他社の商品だけでなく、自社で仕入れからプロデュースまでを手がけるブランドを持つことで、製造の段階まで踏み込んだ、より純度の高いデータを得るという狙いもあるのだろう。

商品は、取り出し口から箱で出てくる

ロボットが人が話すような抑揚を持っていると親しみやすい

 ブランド、それを販売するための自動販売機、販促のためのプロモーションビデオなど、非接触・無人での商品販売にまつわるすべてを作れてしまうという強みを持つのがPRENOという企業だが、そこに、さらに遠隔接客ロボットを組み合わせることの意義や効果を探るのが、今回の実験の趣旨と言える。

 遠隔接客ロボットは、大阪大学大学院基礎工学研究科の先端知能システム共同研究講座の石黒 浩氏が研究を進めている分野のひとつで、2021年の2月からは、内閣府主導の「ムーンショット型共生開発事業」の採択を受け、複数の実証実験を進めている。

 今回設置されたロボットは、AIによるボットではなく、遠隔地のオペレーターがカメラを通じて顧客の様子を把握し、話しかけるという仕様。無人というよりも、遠隔から接客をすることに焦点を置いている。

 オペレーターの声は、ロボットのスピーカーを通じて顧客に届くが、「ロボットっぽい声」にリアルタイムで加工されるため、「ロボットが話しているような声なのに、人間的な抑揚を持っているので親しみやすい」という不思議な現象が起きていた。

ロボットによる接客のイメージ

 大型モニター付きDX自動販売機の前方に設置された遠隔接客ロボットにはカメラが内蔵されており、ロボットのオペレーターは、カメラを通じて自動販売機の前で立ち止まる人々や、そばを通り過ぎる人に話しかける。

 接客の様子を見ていると、遠隔接客ロボットは「今日はお買い物ですか?」「ここにはよく来るんですか?」といった問いかけからスタートし、自動販売機の使い方を案内したり、商品の特徴を説明したりする。その上で、ユーザーが特定の商品に興味を持てば、「買うときは、下のボタンを押してカートに入れてから、決済へ進んでくださいね〜」といった具合に、あくまでもソフトに購入をうながす。

 筆者は接客業に関わったことがないため、顧客目線になるが、想像するに、アクセサリーなど趣味性が強い商品の接客においては、単に自然な会話の中でうまく購入までの流れを作っていくというだけでなく、顧客の購入時の体験の質を向上させることも求められるのではないだろうか。

 つまり、「このお店に来てよかった」とか「この店員さんに接客してもらって楽しかった」「自分にぴったりな商品を選んでもらえて嬉しかった」と顧客に感じてもらい、「買いたいと思って買ってもらう」状態を作るといったことである。

 この目線で見ると、ロボットによる接客はなんとなく味気がなさそうにも思えるが、実はそんなこともないと感じられた。重要なのは会話の内容であって、知りたいことが知れて、スムーズに購入までの流れを作ってもらえると、むしろ意識が商品にフォーカスするため、ある種の心地よさも感じられる。

タブレットも用意され、オペレーター側で画面を切り替えながら、説明の補助的に使う

 これが、AIによるチャットボットなどを用いた短調で平坦な接客で、毎回「その質問にはお答えできません」「会計に移ってください」といった決まりきったセリフが返ってきたとしたら、「やはり接客は人でないとつまらない」と感じると思う。だが不思議なもので「直接対面するインターフェースとしてはロボットだが、中身は人である」という状態では、中身の人の側に意識が向くのか、話している相手がロボットであるかどうかをあまり気にしないで、会話ができたのだ。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります