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PLATEAU Business Challenge 2021レポート

車窓AR・巨大VTuber・ビル風発電……3D都市モデルPLATEAUを活用したビジネスモデルを披露

2021年07月21日 17時30分更新

 国土交通省が進める「Project ”PLATEAU”(プラトー)」では2020年度に引き続き、2021年度にも参加型イベントを開催。6月26日、27日の2日間で「PLATEAU Business Challenge 2021」と題し、3D都市モデルを活用したビジネスアイデアを競った。新型コロナ感染症拡大防止の観点から参加人数は30名強に絞られたが、ITから建設業、スタートアップなど各業種からマーケター・エンジニア・デザイナー、さらには学生参加も含め幅広いメンバーが集まった。

PLATEAUを活用した新しいビジネスモデルを8チームで競う

 PLATEAUではこれまでアイデアソン、ハッカソンを実施してきたが、今回はそれらに続くイベントとして、Business Challengeと題し、3D都市モデルをビジネスに活用するアイデアが競われた。会場は、国内最大級のイノベーションセンターであり、多くのスタートアップやイノベーション・新規事業部門が入居する東京虎ノ門のCIC Tokyo。各所に消毒液や換気のためのサーキュレーターが配置され、新型コロナ感染症への対策を万全にしたうえでの開催だ。

 前回のアイデアソン、ハッカソンと大きく雰囲気を変えたのは、参加者の属性だ。ビジネスアイデアを競うという側面からか、エンジニアのみならずマーケターやデザイナーが多く参加。イベント冒頭、それぞれ持ち寄ったアイデアを1分で説明し、参加者同士で投票を実施。上位に選ばれた8チームが作られた。この即席のチームで、2日間でビジネスアイデアを練り込んでいく。2日目の夕方に各チームの発表を行ない、Coral Capitalの西村 賢氏、アクセンチュアの藤井 篤之氏、そして国土交通省でPLATEAUのプロジェクトを指揮する内山 裕弥氏の3名が審査を行なう。

 3D都市モデルの活用アイデアを行なった1分プレゼンで多くの共感を得たチーム編成は以下のとおり。事前のアイデアでは、バリアフリー、AR活用、災害対策、といったものが多かった。
 

チーム名 作品名
建設業のジレンマ PLATEAU for BIM Connection
Nice Guys リアル店舗連動型インフルエンサーARライブコマース
ムササビ ビル風発電ステーション
Our Sky トーキョースターゲイザー
車窓からAR 車窓からAR
LIVE AFTER 南海トラフ 得する防災
ココロノFURUSATO project 足あとでつながるKiseki
3D電波シミュレーター 3D電波シミュレーター

 チーム内で効率的に議論を進められるよう、司会進行を務めたNPO法人HMCNの元木 昭宏氏から進行の目安が伝えられた。「約1時間で、アイデアの可能性をどんどん広げて、発散させてみてください。次の1時間で、方向性を絞って収束させていきましょう。そのうえでメンタリングに臨めば、より有意義な意見をもらえるはずです」(元木氏)

 初日は株式会社エムスクエア・ラボ 代表取締役の加藤 百合子氏、株式会社セブン銀行 専務執行役員の松橋 正明氏、OGC CityGML仕様策定ワーキンググループ設立委員の石丸 伸裕氏がメンターとして会場入り。メンタリングに使える時間は、各チーム10分間。メンター3名を合わせても、外の視点から意見をもらえるのは30分だけだ。この時間をいかに有効に使えるかが、アイデアを練り上げて行くうえで重要なポイントになる。

 方向性が明確になっているチームでは、メンターに向けたアイデア説明が短時間にまとまり、メンターから意見をもらう時間を多く取れているようだった。たった10分間のやりとりだが、メンタリングを通じて思いを強くするチームも、方向性を修正するチームもあった。各チーム共通して見えたのは、マネタイズのアイデアに苦慮している様子だった。

各チームが2日間かけて煮詰めたアイデアを発表

 2日目の夕方、8つのチームは成果発表のときを迎えた。以下、審査員とのやり取りとともにそれぞれの発表内容を送る。

・建設業のジレンマ「PLATEAU for BIM Connection」

 建設業のジレンマチームが掲げたミッションは、PLATEAUとBIM(Building Information Modeling)を中核に建設業の労働生産性を向上させること。製造業はIT化・自動化を含む設備投資により労働生産性を高めてきたが、それに比べて建設業の労働生産性はここ数十年変わっていない。目下DXやデジタル化の恩恵を受けているのは、大手ゼネコンだけというのが実態だ。そこでPLATEAU Viewを拡張してBIMとつなげ、中小零細に開放し、契約情報を含めた建設データを蓄積する。目標とするのは、単一現場における利益ではなく、将来利活用できるデータを蓄積すること。国土交通省がデータホルダーであり競合がいないことを、優位性としてアピールした。

 藤井氏からビジネスモデルについて問われると、「利他の精神で長期的にデータを蓄積する活動と言えます。利活用可能なデータが蓄積されるまでは、国や自治体に後押ししてもらう必要があると考えています」と答えた。

・Nice Guys「リアル店舗連動型インフルエンサーARライブコマース」

 チームNice Guysの「リアル店舗連動型インフルエンサーARライブコマース」は、実際の街並みを背景にVTuberを登場させるサービスを提案した。スマホをかざすことで、実際の街並みに巨大なインフルエンサーが現れ、パフォーマンスを行なったり近隣のお店を紹介したりする。VR空間ではなく実際に現地に行かなければ楽しめないARコンテンツとすることで、ファン同士のつながりを生み出し、実店舗への送客にもつなげる。インフルエンサーへの投げ銭機能も実装し、広告、ライブ配信、選挙演説など様々な展開が考えられるという。  

 内山氏からの「リアルな場所に集合する必要があるとスケールに限度があるのではないか」という質問に対しては、登録者6万5000人のVTuberでもリアル会場でイベント参加者は300人強いたという例を挙げ、話題性を持たせれば現地でも同じ程度の規模で実現可能なのではないかと答えた。特定の場所で大勢が一方にスマホを向けて楽しんでいれば、通行人の目にも留まり、それまでつながりのなかったファンを得る可能性もある。

・ムササビ「ビル風発電ステーション」

 チームムササビは「ビル風発電ステーション」と題して、ビル風をシミュレートし、安定して強い風を得られるポイントを割り出して風力発電機を設置する仕組みを提案した。発電所から電力消費地までの送電ロスが60%近い従来型の発電に比べ、消費地近くでカーボンニュートラルな電力の地産地消が実現する。ビジネスターゲットとするのは、脱炭素を進めている不動産デベロッパーだ。発電した電力で電動アシスト自転車を充電したりするほか、災害時にはスマホの充電などの用途に開放する。将来はエリア内に大量の発電拠点を設け、マイクログリッドを構築するという壮大な未来も語られた。さらに、シミュレーションで割り出した風の通り道を、追い風を利用した長距離、高燃費のドローンハイウェイとして配送事業者に情報提供し、売上につなげることも考えているという。

 藤井氏は、「風を利用したり風車を設置したりすること自体、大きなリスクが伴うのではないか」と疑問を呈した。これに対して、既に実現している低振動、低騒音で事故の恐れも少ない発電機の紹介から、リスクを負う代わりに施設の維持管理費も収益に見込む案を返した。

・Our Sky「トーキョースターゲイザー」

 チームOur Skyが提案したのは、「トーキョースターゲイザー」というVR/ARアプリだ。星が見えないと言われる東京で、星空を楽しむためのサポートをする。天体現象をVRでシミュレーションし、自宅にいながら星空が見える場所が探せる。現地では、ARで星の位置を確認できる想定だという。天体ショーを集客に使えたり、リラクゼーションのひとつとして星を眺めることを組み入れたりするなどのサービス展開を考えているとのこと。

 星の写真を撮るのが趣味だという内山氏は、「東京で星が見えないのは建物があるからではなく光害があるからではないか」という疑問が投げられた。これに対して「星を見る楽しみを知ってもらい、東京でももっと星が見えるようにしたいと、天体ショーに合わせて照明を消すような流れを作るところまでやりたい」と意気込みを見せた。

・車窓からAR「車窓からAR」

 「車窓からAR」は、電車の窓をスクリーンとして活用することで、ARコンテンツを見せようというアイデアを披露。旅行体験を拡張したいという思いから、アニメやドラマの聖地巡礼の発展型としてアイデアを広げていったという。車窓をスクリーンとして使うことで、スマホをかざしたりARグラスをかけたりすることなくARコンテンツを楽しむことができ、非日常感や高い没入感を演出すると語った。現実の街並みを背景にアニメや映画のキャラクターが登場すれば、観光コンテンツの創出にもつながるだろう。

 西村氏は車窓をスクリーンとして背景にうまく組み合わせてARコンテンツを投影するための技術的な裏付けについて質問があったが、今回はメンバーにエンジニアがおらずその点は煮詰めることができなかったという。藤井氏からも電車の中にいる人の視点はバラバラなので見え方に差が出るのはないかと問われたが、「その点は自分たちも気になっており、上客が客席に着座してある程度視点を限定できる観光列車を想定している」と答えた。

・LIVE AFTER 南海トラフ「得する防災」

 「得する防災」をキーワードに避難所マップを提案したのが、チームLIVE AFTER 南海トラフだ。ハザードマップなどは主に官製で提供されているが、身近に活用されていない現実がある。アイデアのベースは、みんなが得するサービスにすれば普及が広がるのではという点だ。PLATEAUの都市モデルを使い、スタート地点とゴール地点を自由に設定して移動シミュレーションを繰り返せる防災コンテンツの提供を想定。ハザードマップのような色分けだけではなく、3Dモデルで浸水エリアなどを視覚的にわかりやすく訴える。このシミュレーションを定期的に実施する企業を、防災意識の高い企業として税制優遇を得られる仕組みにしたいと、行政を巻き込んだ提案になっていた。

 藤井氏は、企業が税制優遇ほしさに社員にとりあえずやらせるという悪徳ケースにはどう対応するのかと質問。「防災シミュレーションアプリは認知されにくいので、そこを無理矢理にでも浸透させることができればいいと考えています。既存のハザードマップの類いの最大の課題は、認知、浸透できていないということなので、それを乗り越えられれば十分です」と返した。

・ココロノFURUSATO project「足あとでつながるKiseki」

 アドレスホッパーと呼ばれる移住型の多拠点居住者の視点から、現実世界で作ったつながりをVR空間にも広げる仕組み「足あとでつながるKiseki」を提案。アドレスホッパーは住むという経験を通じて各地域につながりを持つが、次の場所に移ってしまったあとにまで関係性を継続するのは難しい。一方で地方自治体は移住を促進しているが、定住に至るまでには多くのハードルがある。そこでVR空間に都市のデジタルツインを作り、気になる場所やかつて住んでいた場所などを訪れることで関係人口を増やしていこうというのが主旨だ。軸となる機能は、VR空間に訪れた人の足あとを、現実空間にプロジェクションマッピングで映し出すこと。VR空間上で作られる興味関心の属性情報を使い、自分と同じ興味を持つ人がどの地点を訪れているのかを知り、新しい出会いを促す。

 西村氏から、盛りだくさんのアイデアだが2Dで十分なように思えるとの指摘を受けたが、「VR空間ではユーザーの視点情報も得られるため、その地点から見える何に興味を持ったのかということまでデータを得られる3Dのデジタルツインが必要」だと答えた。

・3D電波シミュレーター「3D電波シミュレーター」

 プレゼンテーションの作り込みでは、他のチームの追随を許さなかったと言って良いのが、チーム3D電波シミュレーターだ。ビジネス情報番組の体裁で動画を作り込み、機能やメリットをとてもわかりやすく紹介していた。サービス概要は、3Dマップ上に5Gの電波をシミュレートして表示し、Unity上で再現するというもの。ARで電波状況がわかるアプリを無償で配布し、アプリを通じてデータ収集も行い、シミュレーションデータの精度向上に役立てていく。

 3Dでシミュレーションする意義があるのかと藤井氏から質問を受けたが、「ドローンなど、電波を使う機器が立体的に動くようになっており、エリアだけで電波状況を把握できなくなっています。また、ビルによる電波の反射の影響なども計算できるので、2Dよりも3Dの方が優位です」と回答。西村氏からはマネタイズポイントについて問われたが、「4Gとは違い、5Gには企業や団体が設置するローカル5G基地局があります。どこに設置すれば目的のエリアをカバーできるのかシミュレーションして提案する、コンサルティング事業が可能です」と返した。

練りに練ったアイデアを競い合い、上位3チームが決定

 「PLATEAU Business Challenge 2021」での審査基準は、3D都市モデルのデータを活用できているか、ユースケースに新規性はあるか、3D都市モデルを使ったビジネスモデルとして有効性があるかの3点。上位3チームに、グランプリ10万円、準グランプリ3万円、審査員奨励賞2万円の賞金が授与される。賞典に協賛してくれたのは、三菱総合研究所アジア航測国際航業日建設計総合研究所の各社だ。最終的な各賞の受賞チームと審査員からのコメントは以下の通り。

グランプリ:車窓からAR「車窓からAR」

 「窓ガラスという、どこにでもあるものを活用して、背景映像とAR映像を組み合わせることでコンテンツを生み出せるという点に、大きな可能性を感じました。デジタルコンテンツとして観光資源を生み出せば、観光産業のデジタルトランスフォーメーションにもつながるでしょう。技術的な面でブラッシュアップを重ねていってください」(内山氏)

国土交通省 国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐 内山 裕弥氏

準グランプリ:ムササビ「ビル風発電ステーション」

 「データが集まれば集まるほどシミュレーションの精度が高まり、より効率的なメッシュができていくという仕組みがいいですね。規模が勝負になる面もあり、スタートアップには重い部分があるかもしれません。しかしいまは日本でもスタートアップで100億円程度の投資を集められるようになっているので、勝負できる可能性は十分にあると思います」(西村氏)

Coral Capital パートナー兼編集長 西村 賢氏

審査員奨励賞:Nice Guys「リアル店舗連動型インフルエンサーARライブコマース」

 「現地に行かなければ観ることのできないARイベントという発想が、非常に面白いと感じました。人気VTuberを観たくて集まって、みんなでスマートフォンをかざしてAR映像を観ながら投げ銭をする。その姿をぜひ見てみたいと思います。また、そこで生まれたお金が地域に還元されていくループもあり、街づくりの新しい形になりそうです」(藤井氏)

アクセンチュア株式会社 ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ スマートシティ領域担当 マネジング・ディレクター 藤井 篤之氏

 都市空間をデジタル化することで実現するビジネスモデルを競った、PLATEAU Business Challenge 2021。本イベントは、7月に開催される「PLATEAU Hack Challenge 2021」へとつながっている。今回煮詰めたアイデアをさらに深めるも良し、新たなアイデアを持ち込むも良し。Hack Challengeでは実際に動作するものを作り上げるところまでが求められるので、より具体的で面白いチャレンジになることだろう。

グランプリを獲得した「車窓からAR」チームの面々

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