先進運転支援システム(ADAS)や自動走行車向けの物体認識ソフトウェア「SVNet」を開発する韓国のストラドビジョンは、2014年設立のAIスタートアップだ。
SVNetは、ディープラーニングを用いた物体認識ソフトウェアで、厳しい気象条件や照明が乏しい環境下でも、他の車両、車線、歩行者、動物、空き地、交通標識、照明などを検知・識別できる。現在、ドイツ・中国市場をはじめ9社のパートナーと提携し、世界中で1300万台以上の車両への搭載が予定されている。
自動運転業界の競合ひしめくなか、世界有数の自動車メーカーとの提携を着々と獲得している背景にあるのが同社の特許戦略だ。米国、中国、ヨーロッパ、日本といった自動車市場の主要国を中心に、広範なグローバルIPポートフォリオを積極的に構築している。米国では172の特許を出願、そのうち145件は特許権を取得。また日本と中国でそれぞれ147件、ヨーロッパで146件の特許を出願しており、日本では、147件のうち62件が特許を取得済みだ。
知財も含めてグローバル展開するスタートアップに、その意図を聞いてみた。
未来の新市場を見越して、広範囲な技術分野をカバー
同社のIPポートフォリオには、新しい市場開拓に向けた独自のディープラーニング技術が広範囲に押さえられている。市場固有の技術としては、自動車だけでなく、スマートフォンやドローン、非自動車の市場をも捉えているのが特徴だ。
自動車市場向けの出願には、最新のビッグデータ/AI技術、データ融合、生産性の向上、V2X対応アプリケーションが含まれる。非自動車市場向けの出願には、スマホ、軍事、監視、ドローン、およびロボット市場を対象としたものがあり、将来の事業拡大が想定されている。
特許の大部分は、自動運転車技術の最重要な分野である「埋め込み技術」と「状況認識技術」で構成され、ビッグデータ/AIテクノロジーに関連する特許、AIトレンドである自己学習の特許を申請しているほか、最新の米国特許ポートフォリオには、Over-the Air(OTA)テクノロジーの複数の特許が含まれる。
加えて、人工知能関連技術だけでなく、さまざまなドメイン/OEM要件、顧客のKPI、および内部データ処理に関連するコストを最小限に抑えて生産技術を強化する、といった生産性の向上に焦点を当てた広範なIPポートフォリオを構築しているのも特徴的だ。
日本の特許庁に出願された人工知能関連特許の内訳は下表のとおり。
人工知能のカテゴリーの内訳(日本)
CPC共通特許分類でのテクノロジーカテゴリー | CPC共通特許分類での詳細な技術カテゴリー | 取得済 | 申請中 | 合計 |
---|---|---|---|---|
人工知能 | 画像認識 | 62 | 73 | 135 |
ニューロエンジニアリングまたはニューロモーフィック・コンピューティング | 51 | 64 | 115 | |
機械学習 | 49 | 51 | 100 | |
知識表現 | 4 | 10 | 14 | |
合計 | 62 | 79 | 141 |
同社が出願した特許のうち、2021年3月15日までに特許庁が公開した特許は147件。そのうち、141件がCPC(共通特許分類)により人工知能に関連した特許に分類されている。
注目したいのは、個々の特許が複数の技術カテゴリーに属する点だ。単一の分類にとどまらず、権利範囲が広くカバーされている。これは、自動運転の要素技術のカテゴリーについても同様だ。
自動運転の要素技術のカテゴリーの内訳(日本)
CPC共通特許分類でのテクノロジーカテゴリー | CPC共通特許分類での詳細な技術カテゴリー | 取得済 | 申請中 | 合計 |
---|---|---|---|---|
自動運転関連技術 | 画像処理 | 62 | 70 | 132 |
カメラベースの知覚システム | 33 | 55 | 88 | |
プランニングと制御 | 10 | 31 | 41 | |
カメラHWシステム | 4 | 9 | 13 | |
レーダー装置 | 1 | 5 | 6 | |
LIDARシステム | 1 | 2 | 3 | |
合計 | 61 | 79 | 140 |
コア特許の保有がOEM契約やPoC契約の決定打に
同社が特許活動に力を入れるようになったのは2017年から。当時はまだ顧客数が量産プロジェクトで2件、PoC受注が10件程度、従業員数は50人、売上高は200万USドルほどだったという。
特許戦略を遂行するための知財体制として、社内ではCTOが特許全体のポートフォリオを構成、個別の技術内容はシニアエンジニアが資料を作成し、外部の弁理士に依頼している。
現在も、同社の技術開発ロードマップに基づいて、コア技術の特許取得を進めている。それらに基づくソフトウェアを使用してグローバルでの技術ライセンス事業を運営するために、特許は必要不可欠なものだという。実際、ドイツの自動車メーカーとのOEM量産プロジェクトの受注は、同社が保有している画像認識、ディープラーニング、機械学習の関連特許が決定打となった。また、日本やドイツのティア1メーカーとのPoCプロジェクト受注時にも、特許の保有が決め手となったそうだ。
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