週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

〈前編〉アニメの門DUO 石田美紀氏×まつもとあつし対談

なぜ女性が少年を演じるのか?【アニメと声優のメディア史】

2021年08月21日 18時00分更新

『アニメと声優のメディア史 なぜ女性が少年を演じるのか』の著者、新潟大学の石田美紀教授との対談を前後編でお届けする

「声変わり」が理由ではなかった!?

 月2回、専門家の皆さんをお招きし、アニメ作品の見どころやコンテンツ業界の話題をわかりやすくお伝えする「アニメの門DUO」。今回は「なぜ女性が少年を演じるのか?【アニメと声優のメディア史】」がテーマ。新潟大学 石田美紀教授をゲストにお迎えしてお届け。ナビゲーターはまつもとあつし。

まつもと 石田さんは、2020年末にご著書『アニメと声優のメディア史 なぜ女性が少年を演じるのか』を上梓されています。今日はこの本の内容にも触れながら、我々が知っているようでじつは知らなかった声優というお仕事について理解を深めていこうと思っております。

 まず、石田さんは京都大学大学院で学ばれていたと伺いました。

石田 はい。京都大学で映画・映像研究をずっとやっていました。ただ子どものときからアニメにも慣れ親しんで育ってきた人間なので、水が流れるようにアニメ研究に取り組みました。現在は、新潟大学経済科学部で視聴覚文化論を教えています。

 アニメ研究は、視覚的な側面については蓄積があります。しかしアニメでは声や音響が非常に大きな表現力を持っていますし、今のアニメの人気を支えているのは声優さんと言っても過言ではないと考えています。

 ですので、それについて勉強したいな、自分で考えたいなと思ったのが、ご紹介いただいた本を著わす第一歩になっています。

■Amazon.co.jpで購入

まつもと アニメの研究というのは、日本よりも海外のほうが盛んという印象があります。

石田 もちろん日本でも研究が進んでいますが、日本語で研究発表される数より、英語、スペイン語、中国語での研究が圧倒的に多いです。特に英語がものすごく多いですね。ですので、アニメというと日本のもの、という印象が大きいかもしれませんが、英語圏で発表される研究が非常に多く、声優研究も増えています。

まつもと それではさっそく、ご著書の内容についてお伺いします。

 僕が『面白いなあ』と思ったのが「戦後民主化と声優の果たした役割」という項目です。最近、NHKのドラマ『なつぞら』『エール』で戦後のアニメやラジオを取り上げることが偶然にも続きました。このことからいわゆる「アニメ声優の期初」をひも解いていくことが、この本の大事なアプローチかなと思いました。なぜそこから掘り下げていこうと考えたのでしょう?

石田 アニメ作品で、女性声優さんが少年役を演じるのはごくごく当たり前ですよね。私も最初は疑問にも思っていなかったんです。でも「これ、いつからなんだろう?」「なんでなんだろう?」というのが、最初の素朴な疑問で。

 「なぜ女性声優が少年を演じますか?」と尋ねてみると、多くの人は「男の子は変声期がくる」と回答します。確かに、長いシリーズになったら男の子は声変わりするし、成人された方に子どもの声は厳しい。私もそういう理解でした。でも海外に行くと、たとえば日本では女性声優さんがやっておられる役を男性声優さんがやっているんですよね。

まつもと 男性の、たとえば子役だったら男の子が演じているのですか?

石田 男の子もですが、成人した男性が演じているパターンもそんなに珍しくないんです。それで考えていったら、「長い間」というところがちょっとヒントかなと思って。

 日本のアニメって「連続もの」なんですよね。テレビシリーズで、毎回新作が発表される。1本あたりは30分と短いですが、それを成り立たせるのに子どもが演じられない事情があるのではないかと思ったんです。

 最初の30分ものの連続テレビアニメと言われている『鉄腕アトム』では、女性の清水マリさんがアトムを演じていました。でも『アトム』以前にもたくさんの女性声優さんが少年役を演じられているんですよ。

 では誰が女の人にやらせようという発想を持ったのか? と思って、その前の時代を調べていったんですね。で、そうすると「吹き替え」が出てくるわけですね。

まつもと これについても、NHKの朝ドラで厚く取り上げられていたところですよね。そしてご提示いただいた資料にも、燦然と輝く野沢雅子さんが登場します(笑)

石田 そうですね。野沢さんは男の子の役でプロデューサーに呼ばれたと語っておられます。この当時は生放送だったし「子どもにそういう難しい仕事はできないんだ」と説明されたというお話があったんです。

 そして『生放送といえばテレビの前にラジオがあったんじゃないか?』と考えました。そこでまた時代をさかのぼっていったんです。洋画や海外テレビ番組の吹き替えがテレビ放送される前に、NHKで「人形劇」が生放送されていて、そこでも女性声優が男の子の役をやっていたことがわかりました。

 NHKのラジオはどうだったんだろうと思ってさらに調べていくと、連続ラジオドラマに行き着きました。そしてそれを日本に持ち込んだのはGHQだってことがわかったんですね。

まつもと でも、戦中もラジオドラマや朗読劇的なものは放送されていたのではないですか?

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事