東京大学生産技術研究所は、植物などの廃棄食材を利用した完全植物性新素材を2021年5月25日に発表した。不可食部を含む廃棄食材からコンクリートの4倍近い曲げ強度をもつ新素材になり、建材としてだけでなく、原料となった野菜や果物の匂いや味を残すこともでき、新しい食品としての可能性も秘めている。そんなリリースを見て、極めて完成度の高いディストピア飯だと感じたので、それを実食すべく、東京大学生産技術研究所人間・社会系部門持続性建設材料工学准教授 酒井雄也氏を取材した。
家庭でも楽しめる完全植物性新素材
酒井雄也氏の研究分野はコンクリートであり、2020年にはセメント不要の植物性コンクリートを発表している。セメントの代わりに木材だけでなく、落ち葉や野菜なども資源として利用でき、コンクリートがれきや廃木材の有効利用手段になるものだ。次世代コンクリートの研究も進めており、今回の新素材製造技術は、その過程で生まれた。コンクリートがれきを使用しない植物と木材の粉末から製造した建材を試していた際、ふと食べてみたところ、意外とイケたことが発端だという。
食品廃棄物は、いわゆる食品ロスと、野菜や果実の皮、種、芯、骨、うろこなど食用にできない不可食部の2つ。環境省の試算によると、不可食部の約5割は肥料や飼料として活用されるも、残り4割は焼却、もしくは埋め立てされているのが現状だ。その不可食部の有効利用する手段が、近年、注目を集めている。いくつかピックアップしてみると、東京工業大学 原亨和氏の協力を得てフタムラ化学はコーヒー粕からマンノース抽出する技術を開発、NIMSはタラのゼラチンから医療用接着シートやウニの殻を使った人工骨の開発を進めているほか、民間からは柿の種を焙煎したコーヒーなども生まれている。
完全植物性新素材は、原料をフリーズドライし、それを粉砕してから加熱成形するだけとシンプル。Amazonやモノタロウなどで5万円ほどから入手できる熱プレス機があればご家庭でも楽しめるそうだ。原料によって異なるが、100度前後、圧力20MPa前後が基本だという。そんな製造方法ながら、原料によってはコンクリートの4倍近い曲げ強度が発現する。メカニズムは2021年6月時点では不明だが、食物繊維が多い原料ほど曲げ強度が高くなっているため、熱圧縮成形時の熱で糖類が軟化し、圧力により糖類が流動して隙間を埋めることで強度が発現しているのではないかと見ているそうだ。また食物繊維が少ない原料に、食物繊維の多い原料を加えて成形すると、強度が高くなることもわかっているとのこと。
実際に新素材に触れてみると、建材らしい硬さと音がした。水にさらされると軟化が進むため、耐水処理を加えることで建材として機能性を持たせることが可能だという。製造時点で匂いや味を残すこともでき、また長期間維持されるため、使い終わったあとは熱処理などをして食べるといったことも視野に入れている。植物性の撥水材料が登場すれば、使い捨ての容器の代わりになるかもしれないわけだ。なお匂いは2年ほど残っている。
オススメのマンゴー味とニンジン味を実食
というわけで、実食。できたてホヤホヤの新素材をいただくことになった。用意されたのは、研究を進める町田氏オススメのマンゴーとニンジン。調味料などを加えなくても匂いや味がわかりやすく、また食べやすいとのことだ。
見た目は、SF映画やアニメなどで馴染み深いキューブ状の食糧的だ。マンゴーのフィールとしては、ちょっと粉っぽいがちゃんと匂いと味がして美味しく、元の食材の風味が残っている。硬さは唾液で緩和されるため、はじめはちょっと固いくらいで、森永のラムネに近い。建材とは思えないほどだ。ニンジンはどうだろう。凝縮したニンジンそのもので、やや薄味。また駄菓子屋にあった10円の超薄味クッキーや、子供の頃に土塀に激突して口腔内に入った土塀のかけらなども脳裏をよぎった。「メイドインアビス」において登場する行動食4号的ともいえる。作中では「壁の味がする」と評されているが、それに近い。見た目と食感、味ともに説得力に溢れるディストピア飯であり、正直なところテンションが高まった。
調味料を加えても強度を維持できることも確認済みであり、また複数の材料でも成形可能で、必要な栄養素とカロリーを得られるキューブ状の食べ物の可能性がある。そのままかじってもいいし、お湯に溶かしてもいいと使い勝手も良い。大根で成形した場合、凝縮されているぶん辛みがスゴイのだが、鍋に溶かせば大根おろしの代わりにもなるそうだ。飴を食べている食感に近いとのこと。
今後も建材としての研究を進めて行くそうだ。上記しているように建材としてだけでなく、食品としての可能性もあり、企業からの問い合わせもあり、おやつやお土産、または非常食として店頭に並ぶ日がくるかもしれない。
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