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月に移住した私たちは何に困り、どう解決する? 「Project LoM!」発表会レポート

2021年07月14日 17時00分更新

最優秀賞は「放射線で色が変わるウェディングドレス」

 全8チームの中から最優秀賞に選出された、神戸Aチームによるプロジェクト「放射線で色が変わるウェディングドレス」を紹介しよう。

 同チームは、もしも人が月に移住した場合、人々は地下で生活をしているというプロジェクトの“前提条件”を挙げた。月面には放射線を防ぐ遮蔽物になるものが存在せず、放射線量は1日およそ1.3mSvに及ぶ=宇宙服を着ていたとしても、月面で生活できるのは2ヵ月半程度が限界であることが、その理由である。併せて、架空のターゲット像として「星 結花」という人物を設定。星 結花さんは、星を見るのが好きで、ロマンチックな結婚式を挙げることを夢見る、婚姻関係にある恋人を持つ22歳の女性だ。

神戸Aチームがターゲットとして人物像(ペルソナ)を考えた星 結花さんのプロフィール

 神戸Aチームが、月面移住時に人々の健康課題になると想定したのが、密閉空間での生活によるストレスや、「人生一度切りの結婚式を、地下で挙げるのはイヤだけど、地上(月面)で挙げるのも難しい」というジレンマによるストレス。つまり、星 結花さんは星を見るのが好きで、ロマンチックな結婚式を挙げたいと考えているのに、健康面に配慮すれば、それは難しくなる。だが、月面に長期の移住をすることになれば、「月での結婚式」が必要になる。この状態を解決しようというのが、プロジェクトの趣旨である。

 そこで彼らが課題へのアプローチとして考えたのは、「月面に放射線をカットする亜鉛ガラスのドームを作り、放射線をカットする衣服を着用する」こと、「結婚式の時間を2時間半にとどめる」こと、「月面に届く放射線量が減少する時期を選ぶこと」の3つだ。

月面には放射線を遮るものがない。亜鉛ガラスのドームを建築すれば、宇宙から星を眺められるようになる

 中でも、神戸Aチームがフォーカスしたのが、「放射線をカットする衣服」の部分。これをより具体的なアイディアに落とし込んだのが、「放射線で色が変わるウェディングドレス」である。亜鉛ガラスのドームと、放射線をカットする衣服の組み合わせによって、放射線量が人体に害を与えにくいレベルまで低下したとしても、「漠然とした不安が残るかもしれない」と同チームは説明。放射線を受けると模様が変色する衣服を着用することで、放射線を受けたことを可視化でき、同時に放射線を“おしゃれ”にも転用できるため、ストレス解消につながるのではないかというのが、主になるアイディアである。

神戸Aチームが制作したモックアップ。糸が変色するイメージを披露した

 神戸Aチームはプレゼンに際して、実際の利用を想定したモックアップも作成。ドレスの生地にはゴム布を使い、タートルネック型/長袖で物理的な防被曝性能を高めている。また、生地には温度によって色が変わる「サーモクロミック顔料」を使用した繊維を用い、その内側に、通電によって温度を上昇させるマイクロワイヤーを組み込むことで、放射線センサーが放射線を感知した際に、糸が変色するという仕組みも披露した(モックアップでは、繊維をLEDに、放射線センサーを温度湿度センサーに置き換えている)。

タートルネックの長袖という形状で、首と腕への被曝量を低減させるアイディアも盛り込まれている

 さらに神戸Aチームは、このアイディアは地上での熱中症対策にも転用できると説明。温度センサーを使い、体温を感知するリストバンドにすることで、熱中症の発症水準まで体温が高まった場合に、リストバンドの模様の色が変わる仕組みを作れると話した。ターゲットは障害などによって温度を感じにくい人や、熱中症での搬送件数が多い65歳以上の高齢者、体温の管理が難しい乳幼児だ。

地上への転用アイディアとして、温度変化で変色し、熱中症対策に役立てられるリストバンドも考案した

JAXA鈴木氏「システムまで作り込んでいて素晴らしい」

 審査員の鈴木 圭子氏(JAXA 宇宙教育センター)は神戸Aチームの発表について、「ウェディングドレスは本来、キリスト教の結婚式での正装で、神様の前で着る神聖な衣装という意味がありました。襟元が詰まっていて、長袖がその正式な形ですが、放射線を防ぐことを目的とした今回のアイディアが、その形式とピッタリ合っているのが、面白いと感じました。放射線を受けた際に、どういうシステムで色が変わるのかまで作り込んでいて、素晴らしい発表でした」とコメント。

 また地上での転用アイディアについても、「毎年、悲惨な事故が起きている熱中症の対策になるアイディア。早く実用化して、少しでも悲劇をなくすことに役立ててほしいです」と話した。

審査員特別賞には、ホログラムによるペットの映像で、宇宙でアニマルセラピーを実現させようという京都Cチームのプロジェクトが選ばれた

 今回の発表会では最優秀賞のほか、「宇宙兄弟」特別賞、JAXA特別賞、審査員長特別賞、優秀賞も設けられ、「宇宙兄弟」特別賞には食用3Dプリンターと“匂い”や地球上の景色を滑走的に体感できるヘッドマウントディスプレーを組み合わせ、地球での食事を再現するという千葉Aチームのプロジェクト、JAXA特別賞にはユーザーの尿の成分をガンの早期発見に役立てるという池袋Dチームのプロジェクト、審査員特別賞にはホログラムによるペットの映像で、宇宙でアニマルセラピーを実現させようという京都Cチームのプロジェクトが、それぞれ選出された。

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