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Apple Musicのロスレス化で露見してしまったこと

2021年05月25日 17時00分更新

空間オーディオのためにロスレス化が必要だった

 まず、今回の発表は従来のアップルの大きな方針転換にもなっている。アップルは「iTunes Music Store」のころから長い間、ハイレゾ/ロスレス形式での配信を拒んできた。ユーザーからの要望は大きかったのだが、結局実現しなかった。しかもアップルは「Apple Digital Masters」(旧名称Mastered for iTunes)のような、独特の配信/音源制作プロセスまで用意してロスレス配信を拒んできたのだ。

Apple Digital Mastersのサイト

 しかし、この方針を転換した。その大きな理由はやはり「同調圧力」がこの業界にも働くということなのだろう。業界最大手のSpotifyが先日「Spotify HiFi」という高音質配信を発表した。すでに高音質配信に取り組んでいる「Qobuz」や「TIDAL」ならば、マニアックなユーザーを対象したものと割り切れるが、Apple Musicの直接的な競合であるSpotifyまでがロスレス配信に踏み切ると決断した影響は大きいだろう。

 同調圧力という意味では、やはりストリーミング大手のAmazon Musicも即座に反応した。ハイレゾ/ロスレス配信を実施している「Amazon Music HD」プランの価格低減を発表したのだ(米国のみ)。これは高音質配信を追加料金なしで提供するというアップルの方針があったためだろう。業界は影響したりされたりして力の均衡を保っているということが改めて分かった点が興味深い。

 次に、立体音響のトレンドについてだ。実はここがロスレス化に踏み切るポイントでもあるだろう。

 以前、本連載で360 Reality Audioについて考察する記事を書いた。

 この記事の中で360 Reality Audioに対応するにはロスレス伝送が必要であると書いた。これは今回のApple Musicのロスレス化においてもキーになる。それはドルビーアトモスに対応するために伝送路内でデータの欠落があってはならないということだ。これはドルビーアトモスもオブジェクトベース・オーディオの一つであり、音楽の情報だけでなく、音源の位置や動きと言ったメタデータを音源内に含んでエンコードするためだ。このメタデータが伝送の途中で破壊されてしまっては困る。

編注:ここは、ドルビーアトモスがロスレスコーデックかロッシーコーデックかではなく、どちらの場合でも、配信や伝送経路の途中でデータの損失がなく、元のデータに復元できる(=ビット一致する)ことが求められるという主旨でロスレスという用語を使っています。(5月30日)

 つまり、Apple Musicのロスレス化というのは「高音質化」というよりもむしろ「ドルビーアトモスを通すための必須条件」だととらえている。そしてドルビーアトモスを通すことができれば、それをベースに、アップルの売りである空間オーディオ対応のコンテンツも配信可能となる。ちなみに、Amazon Musicはドルビーアトモス音源に加え、360 Reality Audio音源の配信も実施しており、そこへの「同調圧力」もあるかもしれない。

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