スタートアップ5社のピッチ「JID Product Pitch 2021」 レポート
コスメのDX自販機など、非接触の新しい生活様式を見すえた新サービスが続々
ASCIIは2021年3月19日、X-Techカンファレンス「JAPAN INNOVATION DAY 2021」を開催。ASCII STARTUPが推すスタートアップが登壇した「JID Product Pitch 2021」が、東京都港区の赤坂インターシティコンファレンスで開かれた。
会場出展予定の60社から、「非接触の新しい生活様式」「他社とのコラボレーションで新しい価値を生み出す」――の2つの基準で厳選された5社がプレゼンテーションした。
審査の結果、最優秀賞には、DX自動販売機を製造・販売する株式会社PRENO(プレノ)が選ばれた
審査員は、リモート参加の中村雅春氏(TIS株式会社 インキュベーションセンター主査)と、会場の矢澤麻里子氏(YAZAWA VENTURES Founder and CEO)、高田育昌氏(株式会社PR TIMES 営業本部アライアンス担当マネージャー)、鈴木亮久氏(ASCII編集部/ASCII STARTUP)の4人。
プレゼンテーションでは、株式会社SandBox(サンドボックス)、マジックアイ株式会社、PRENO、株式会社Insight Tech(インサイトテック)、株式会社I'mbesideyou(アイムビサイドユー)が登壇した。
SandBox:脳波による感情分析と視線推定AI「ノウミー」
企業向けユーザー調査サービス「ノウミー」を展開するSandBox(サンドボックス)は、脳科学(ブレインテック)で感情分析する「ノウミーリサーチ」と、ヒトの視線を推定するAI(人工知能)「ノウミーマップ」の2つを提供している。
ノウミーリサーチは、脳波計をつけて「注意」「共感」「恐怖」「興味」「飽き」「ストレス」「高揚」などのデータを取得する。ノウミーマップは、人の視線で意識を推測するAIだが、アイトラッキングなどの特殊な機器は不要だ。脳の活動と視線の活動を学習データとして取り込んだシステムで完結する。分析対象の動画や静止画を用意すれば、ヒートマップ形式で算出した分析結果を示す。
YouTubeのサムネイルを改善してクリック率が30%向上した事例もあるという。食品や消費財の商品パッケージや広告で、どの部分にどのタイミングで興味を持ったかを計測することも可能だ。そのほかにも、アプリのUI/UXや離脱ポイント、ストーリー分岐、人事の適性検査、コールセンターの改善などに活用できる。
同社は、2020年に東京都品川区主催「第10回ビジネス創造コンテスト」でソニー株式会社から表彰され、「Microsoft for Startups」に採択されて支援を受けている。
マジックアイ:高速・低遅延・小型の3Dセンサー「Invertible Light」
2番目は、マジックアイ 技術担当の佐々木和也氏が登壇した。同社は、超高速で超低遅延、超小型な3Dセンシング技術「Invertible Light(インバーチブルライト)」のライセンスビジネスを展開する。主要特許は取得済みで、「3000本以上のレーザーを照射して一気に測るショットガンのようなもの。特殊なセンサーや半導体を使わず極めて軽量なアルゴリズム(計算手法)の画像解析ソフトフェアだけで実現した」と説明する。
振動するスピーカーやメトロノームの動きを最大600fps(コマ/秒)の3次元画像で再現したデモ動画で、リアルタイムで低遅延だと示した。さらに動画で顔の動きの認識を紹介。これは自動車を運転するドライバーのモニタリングに応用できる。人の指の動きに追随して動くデモで佐々木氏は「カメラに一番近い点をトラックしているだけ。ポストコロナ時代の非接触UIに向いている」とした。
Invertible Lightは、レーザーもカメラも既存製品を使用。Windows PCやLinux、Android、シングルボードコンピューターのRaspberry Piなどさまざまなプラットフォームで動作する。「生活空間が自動化するDX(デジタル革新)で高速、低遅延のセンサーが多数必要になる。カスタムメイドの3次元センサーを自由に作れる3次元センサーの民主革命だ」と述べた。超小型モデル「MKE-ILT001 Developers Kit」を2021年第2四半期以降に販売する。
PRENO:高価格商品を非対面で販売するDX自販機
3番目は、高価格商品を非対面で販売するDX自動販売機を製造・販売するPRENOの肥沼芳明・代表取締役が登場した。同社のDX自動販売機は、幅95.7センチ、高さ190センチ、奥行き92センチで価格は350万円。冷蔵・冷凍完備で60ワットの電源とWi-Fi環境で動作する。東京・渋谷の商業施設「ミヤシタパーク」に1ヵ月の期間限定で「真珠の自販機」を置いて話題となった。
複数商品を選択できるECサイトのような購買体験を自販機タッチパネルで実現した。クレジットカードやQR決済の「PayPay」など国内外約15種のキャッシュレス決済に対応。「ラフォーレ原宿」や「渋谷スクランブルスクエア」ではコスメを2週間販売し、店員不在でも商品が売れた実績がある。画面には抗菌フィルムを張って、「非接触でも豊かな購買体験を提供するウィズコロナ時代の販売チャネル」と肥沼氏は訴えた。大画面のサイネージで広告も掲示できる。
AIカメラが判断して「あなたは太っているからダイエットコークを」と提案するような「対話型自販機」に育て、人を介さずに楽しい購入体験を提供したいという。既に店員に頼まなくてもラッピングする機能を備えている。これまでは商業施設が中心だったが、駅やスポーツジム、映画館のほか福岡など地方にも展開していきたいという。
Insight Tech:自然言語処理で「顧客の声」分析
4番目は、Insight Techで営業担当の西園博文氏が登壇。ユーザーから集めた「VOC(Voice of Customer)」やアンケート等のテキストデータから、優先課題と解決のヒントを見つけるダッシュボードサービス「アイタスクラウド」を説明した。
最先端の自然言語処理技術「アイタス」は、文章解析の3つのAIエンジンがあり、「意見タグAI」がフレーズ単位で意見を抜き出し、「可視化AI」が同じ意味合いの意見をグルーピング。「感情分類AI」が抽出した意見をネガティブかポジティブかニュートラルかを判定し、グルーピングされた意見の「量」と感情の「質」の2軸で優先課題を特定する。
グルーピングは同社運営の「不満買い取りセンター」が保有する大量の「不満」を学習したAIで類義語ごとにクラスターを作成する。ダッシュボードで意見の全体像が分かり、特定期間のモニタリングや、原文参照機能で気になる意見の深掘りができる。
I'mbesideyou:Zoom会議の集中度や喜怒哀楽を解析
ピッチの最後は、I'mbesideyouの神谷渉三・代表取締役社長。同社は、NTTデータの動画AIの専門家3人と、特許庁のワーキンググループ委員を務めていた弁理士1人で2020年6月に起業した。ビデオ会議システム「Zoom」で一人一人の表情や顔の向き、視線、音声から集中度や喜怒哀楽などを総合的に解析するサービスを提供する。
導入例として、Zoomを使ったオンライン家庭教師サービスのケースを紹介。前日の全国のオンライン授業から「生徒の表情がすごくよくなった」「生徒が全然話せていない」「志望校を下げろと講師がNGワードを言った」などのレポートが毎日届く。共有すべき良い事例と、個別に注意喚起すべき悪い事例が示されるので、コミュニケーションを改善して授業の質向上に役立てられる。
動画解析で84%の解約予知検知に成功し、「7万時間の動画解析でAIは育ち続けている」と神谷氏は説明した。オンラインの教育のほかセールス、ヘルス、「1on1ミーティング」など人事部門から受注する。オンラインコミュニケーションに特化して、表情と視線、音声を統合解析する「マルチモーダルAI」として世界153ヵ国で47件の国際特許を出願した。
2020年には、シンガポールで7500社のスタートアップが参加したグローバルピッチコンペでトップ20社に選ばれた実績がある。インドや中国などへの展開を進め、日本では教育で10億円、教育以外で100億円、グローバル展開で1000億円を売り上げ、コロナ時代の新しいグローバルプラットフォームを目指している。
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