台風や地震など、自然災害が多発する日本においては、インフラ整備は欠かせない。一方で少子高齢化による人口減少は建設業界の担い手不足を招き、老朽化したインフラ補修すら思うように進まなくなりつつある。株式会社Polyuse(ポリウス)はこのような建設業界の課題解決に向けて、独自開発した建設用3Dプリンターを活用したソリューションの開発を進めている。
4月21日、同社は開発体制の強化や実証実験の実施に向けて、Coral Capital、STRIVE、池森ベンチャーサポート等を引受先とする総額8000万円資金調達を行なった。今回、独自の建設用3Dプリンターの開発によって、建設業界の課題解決を進めるポリウス代表の岩本 卓也氏と大岡 航氏に最新の開発状況について伺った。
建設用3Dプリンターで業界変革を目指す
パワーショベルやクレーンをはじめ、さまざまな建設機械が導入されている建設現場だが、実際は人力に依存した業界であり、ゆえに数多くの課題を抱えている。人材不足や労働環境からくる定着率の低さなどの影響は大きく、80以上の分野に分かれている専門知識の将来への引き継ぎも難しく、業界の継続性に懸念が生じる事態になってきている。
道路一つでも長さや傾き、土壌の違いにより使用する部材は千差万別で、機械化や量産化に向かない側面がある。結果的に個々の工程ごとに専門職が必須となり、職人の人材難が悪化するだけでなく、工期が間延びする結果になっているという。
2019年に設立されたポリウスは、このような慢性的な人材不足や高齢化、施工期間や販売管理費といったコスト増などの課題解決をテクノロジーの力によって目指している。具体的には、積層型の建設用3Dプリンターを現場に導入し、誰もがボタンひとつで必要な部材をその場で生成できるソリューション開発を進めており、現場作業負担の大幅に削減を狙っている。
まず取り組みを進めているのは、「集水桝」と呼ばれる建設現場で使用されている設備だ。街中に張り巡らされている側溝(排水溝)には水以外にもゴミや砂、落ち葉などが流れてくる。そのままにしておくとすぐに詰まってしまうので、機能維持のために泥や小石などを集めなくてはならない。このとき、傾斜がある場合や排水溝同士の接続具合などにより、設置される集水桝にはカスタム品が必要になる。現状では職人の技術によってその場で制作することになるが、複数の専門家が数日間にわたっての作業が求められるため、コスト増や工期の延長要因となっている。
ポリウスの建設用3Dプリンターは、サイズや形の異なる集水桝を複数同時に作成できる。現場にあわせた最適な集水桝を職人による手作業なしで準備できれば、工期が間延びすることもなく、人件費も大幅に削減できる。
2020年に実証実験も行なっており、工期やコストの課題解決に加えて、施工時間を夜間に設定できる可能性や、曲面の多い構造物の制作が容易な点など、人手に依らない現場作業への新たな期待が挙げられていたという。
現在、実験で得られた知見をベースに第2世代の3Dプリンターも開発中で、プリンティングスピードは16倍、運用に必要な人員も6分の1から10分の1程度になっている。
ポリウスが自社で開発しているのは、建設用3Dプリンターやそれを使うためのソフトウェアに加えて、3Dプリンターに使用するセメントや付加剤までおよぶ。素材を開発・製造しているメーカーとの協力体制も構築済みで、自社開発によるスピード感やノウハウ構築に余念がない。
「(特許といった知財はもちろん重要視しているが)建設用3Dプリンター自体の技術云々だけでなく、導入して使っていく際のオペレーションノウハウが大事だと思っている。利用のメリットを理解していただいて、全国にポリウスの建設用3Dプリンターが浸透していけば、先行メリットを確保できる。重要なのは建設業界・現場に建設用3Dプリンターを受け入れていただくことで、そうでなくては日本での普及はあり得ない」(岩本氏)
3Dプリンターの特性を考えれば、目に見えないインフラへの適用だけでなく、デザインが重要視されるエクステリアなどへの展開にも強みを発揮することが期待できる。
「海外にはデザイン性に優れたモニュメントやエクステリアを作っているメーカーがある。木で組む型枠によって造る構造物には、湾曲させられないなどのデザイン面での制約がある。だが建設用3Dプリンターには型枠が必要ないため、面白いデザインのオーダーメード構造物を製作するという方向性もある。これは従来のコストの10分の1で提供可能といった価格的なインパクトも含めて検討している」(大岡氏)
資金調達で開発体制を強化
上下水道や道路・港湾などの社会インフラは、地域社会の安心・安全を維持するために欠かすことができない。一方で少子高齢化や人口減少によって、インフラ整備の担い手である建設業界では、近い将来に経験者の大量離職が見込まれている。その解決のために労働環境の改革を目指した法制度の整備も進められており、ポリウスの事業展開は国策に則ったものということができる。
今回実施される資金調達では、VCに加えて実証実験において協力パートナーとなっていた中堅ゼネコンが入っている。これは、ポリウスが行なってきたコンソーシアム型の座組による共同研究・実証実験が、建設現場においても十分支持されるに値するものであったことを意味している。
現在開発中の第2世代建設用3Dプリンターを用いた実証実験も予定されており、調達した資金は研究開発及びさらなる開発体制の強化や環境整備に使われることになっている。
ハードやソフトは扱っているものの、現実の建設業者が抱える課題に寄り添い、その解決のためのテクノロジー開発という立ち位置がインタビュー中でもたびたび強調されていた。米国などに比べて、老朽化するインフラに対する我が国の投資はかなり小さい。ポリウスのソリューションがそのハンデを乗り越える手掛かりとなることを期待する。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります