次の考慮点は、アップルがワイヤレスに傾注しているということだ。現在アップルを支えているオーディオ機器といえば、完全ワイヤレスのAirPodsシリーズをはじめとしたBluetooth製品である。iPhoneは、Bluetooth接続時にAACまでしかサポートしていない。仮にハイレゾ配信したとしても、それを搬送することができない。
ただし、将来的にiOSが、LE Audioをサポートして、さらにLC3の上位コーデックで24bit/96kHz対応のLC3 Plusをサポートした時にはこの限りではなくなる。
また、HomePodなど、AirPlay機器の上限も48kHz/24bitであるため、ワイヤレスではハイレゾデータの搬送ができない。ただしこの場合でもCD品質ならば可能となる。
そして、SpotifyやAmazonとは異なり、アップルにはiPhoneの存在があるということだ。iPhoneはハイレゾ再生可能なのだろうか?
まず、スマートフォンがハイレゾ再生するための要素は大きく3つある。「再生アプリ」「OSの音声システム」「Audio CODEC IC」(ADCとDACの統合IC)だ。このうち、再生アプリとOSの音声システム(CoreAudio)についてはiPhoneとiPadともにハイレゾ対応が可能なのは明らかだ。Lightning端子から出力すれば、外部DACでハイレゾ再生ができるからだ。
そして、iPhoneが搭載しているAudio CODEC ICの型番はカスタムICのために不明なのだが、同様のタイプから類推はできる。アップルが採用しているのはシーラス・ロジックのICだが、同等品から類推するとハイレゾ再生は十分に可能であると考えられる。
つまり、実のところこれが謎でもあるのだが、iPhoneがハイレゾ再生できない理由は何もないのである。それもiPhone 5あたりのころからすでにそのはずなのだ。しかしながら、アップルではiPhoneについてはハイレゾ再生を表明してはいない。
こうしたいくつかの考慮点から、アップルが高音質配信に今すぐに飛びつく可能性は見えてこない。
かつてアップルがiPodやiTunesなどオーディオに興味を示していたのは、スティーブ・ジョブズ自身がオーディオマニアであり、音楽好きであったということが大きい。この連載の第6回で書いたのだが、ジョブズと親交のあったニール・ヤングとともにアップルは、もしかしたらハイレゾプレーヤーを先駆けていてもおかしくはなかった。しかしジョブズの急逝がアップルからオーディオへの情熱を取り去ってしまったように見える。
だが、今ではAirPods Maxのレビューでも書いたように、アップルにもまたオーディオについての熱意が戻ってきているように思える。そうしたアップルの高音質ストリーミングに対しての熱意を将来的に期待したいと思う。
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