上質に仕上げたダリの音、お手本のようなバランスの良さ
MENUET SEは、MENUETの伝統と音を受け継ぎ、熟成したモデルで、その音も昔ながらのダリの魅力である、艶やかな中高音と量感豊かな低音を受け継いでいる。こう書くと古いスピーカーの音を連想しがちだが、その熟成の度合いが凄い。ボーカル曲を聴くと、明るめの色調とも感じるくらいの明瞭な再現だ。だが、決してブライトな音調というわけではない。明るめだが明るすぎない、その絶妙なバランスがいい。
声の再現やディテール、表現力も実に豊かだ。音場は広々としてスケール感も立派だが、昔の音場型と呼ばれるタイプのようにボーカルまで奥に引っ込んでしまうようなことがない。ボーカルは一歩前に出たようにしっかりと立つ。音場は広く深いのに、音像の実体感もしっかりとしている。どんな曲を聴いていても、相反する要素を実にバランスよく両立させていることに気付く。
もう少し詳しく紹介すると、女性ボーカルの質感などは実になめらかで、艶やかさを感じるちょっとした色づけを感じるがそれがほんのごくわずかで、高域のキツさを感じるようなことはない。金管楽器の輝かしい音色も鮮烈だし、弦楽器の高域の伸びも実にスムーズ。全体的にはむしろ穏やかといえるくらいスムーズな高域だ。これが、明るめだが明るすぎないと表現した理由。
低音域についても、コンパクトなサイズで、ウーファーの口径も115mmと小さめだが、小型スピーカーとは思えない堂々とした鳴り方をする。最低域の伸びはさすがに限界があるが、音楽再生の帯域は十分にカバーしており、シンセサイザーの重低音とか爆音映画の轟音を聴こうとしない限り、大きな不満はない。小型で低音が出るというと、特定の帯域だけ増強された感じがあったり、量感は豊かだが少々緩い感触になりやすい。しかし、MENUET SEは低音の再現も“ちょうどいい”。ベースやコントラバスの胴鳴りを伴った低音を聴くと、低音の感触はむしろタイトで、音階まで明瞭に描く。それでいて胴鳴りのリッチな感触もしっかりと出るのだ。この絶妙なバランスの良さには感心を通り越して、凄さを感じてしまった。ハイエンドスピーカーの世界というと大げさかもしれないが、あらゆる要素を十分に兼ね備え、それでいてほんのわずか、かつての高性能ではなく聴いて楽しい音を感じさせる味付けが絶妙なのだ。まさしく長い時間をかけて熟成された味わいなのかもしれいない。
雄大でありながらも緻密、忠実でありながらも聴き心地がよい
楽曲別のインプレッション:
第一章 地球
ヤマト2199の戦いの後の甦った青く美しい地球を思わせるイントロからはじまり、不穏な影の出現を思わせるメロディーを交えたイントロの後、ヤマト発進を思わせるメロディーが始まる。音の粒立ちのよい再現で、ステージ全体を明るく照らしたように明瞭だ。楽器の配置が整然と再現され、個々の楽器の音も忠実だ。明るいキャラクターというと、そうした個性は無色に近く、不穏なイントロや、悲愴な決意のもとに出撃することを思わせる、哀しげなヤマト主題歌なども沈んだ曲調をよく描いている。実に丁寧できめ細やかな再現だ。一転して後半は雄壮なメロディーで艦隊の出撃やヤマトの旅立ちを描くが、行進曲のようなフレーズもキビキビと歯切れ良く鳴らすし、音に厚みがあってスケール感のある演奏になる。
これをB&W 607(この連載のリファレンススピーカー)で聴くと、音はより明瞭で情報量も豊かだが、やや硬さを感じてしまう。序盤の不穏なムードはちょっと冷静な表現になるし、後半の勇壮なメロディーはより力強く鳴る。低音の力感や最低域の伸びはわずかに607が優秀とも思えるが、引き締まった低音で朗々とした響きの豊かさは足りない。そのせいもあって、力強くパワフルな音を出すキャラクターを感じるし、高性能な反面、小粒な印象になってしまう。
第二章 テレサ
テレサのテーマを中心とした構成で、弦の音は実になめらかで艶もある。弦を擦る感じと胴鳴りの響きが絶妙にブレンドされ、情感にあふれた音だ。ハープの優雅な音色と響きもいい。華やかになりすぎない上質な音色を楽しめる。中盤からベースやドラムスが加わり、オーケストラとはひと味違う曲へ変わっていくが、ベースもよく弾むし、ドラムスのリズムも力強い。B&W 607の場合、弦楽器のなめらかのフレーズもちょっと磨きすぎたかのような感じになる。こちらも優しいメロディーの感触はきちんと伝わるが、真面目さや正確さの方が印象に残る。ドラムはアタックの力強さやキレの良さをしっかりと出すが、響きの豊かさはやや不足気味。全体にロマンチックなメロディーで構成されていることもあり、どうしても情感よりも個々の音の鮮明さが印象的な音になる。
第三章 白色彗星
重みのある曲調で白色彗星のテーマが鳴る。メロディーはオルガンに近い音色で、次第にアナログシンセサイザーの音に切り替わっていく。オルガンからシンセサイザーへのメロディーの受け渡しがよくわかるし、シンセサイザーのやや尖った感触の音色もよく出る。そして今度はエレキギターで演奏。チョーキングを多用したギターソロの音色も実にリアルで情感も見事。個人的にも一番気に入っている演奏で、パイプオルガンのイメージで重厚に鳴るイメージのある楽曲を、エッジの聴いたロック調で、重厚でありながらさらに尖った印象を感じさせる編曲もいい。そんな攻めたメロディーを切れ味も十分、エレキ楽器の人工的な響きも生々しく再現し、実に聴き応えのある演奏になっている。
B&W 607もロック調の演奏の迫力やパワー感はしっかりと出ている。音場も広いし、スケール感もしっかりと出る。ドラムスの鳴り方など低音はパワフルなのだが、それでいて雄大さはやや劣る。今回はB&W 607がちょっと可哀想なくらいに差が付いてしまうのだが、MENUET SEの後だと、どうしても小粒な印象を感じてしまう。
第六章 鬩ぎ合う力
戦闘場面での曲で構成された曲だ。だが、決して勇ましいだけの曲とはせず、悲愴な決意をにじませた重々しい曲でスタートする。この曲に限らないが、宮川彬良のアレンジはなかなかに知的で、誰もが覚えているフレーズにアクセントのように原曲にはない音を足して、印象を一変させたり、新しい魅力を加えたりしている。そういう曲の構成や聴きどころを教えてくれるような鳴り方をする。ちょっと感覚的な表現になってしまうが、単に個々の音を正確かつ明瞭に再現するだけではこの感じにはならないと思う。ガトランティス艦隊の攻撃のテーマは一転して雄壮で激しい。ドラムスの連打もドロドロとせずに切れ味よく鳴る。曲調の変化に自在に対応する表情の豊かさは見事なものだ。音場の広さと奥行きもあって、スケールは雄大。
B&W607は曲を構成する音の再現や正確さは同等と言えるのだが、たくさんの音が重なって厚みを出す感じが足りない。ドラムスの深く沈みこむような鳴り方は立派だ。これだけ低音が充実していて音の厚みが足りないのも不思議な感じだが、おそらくは中域の密度感に差があるような感じだ。607の中域はニュートラルな再現で、MENUET SEの方が中域を強調したバランスとも思うが、しかし感覚的にはMENUET SEの方が自然だと感じてしまう。このあたりが絶妙なバランスの良さなのかもしれない。
カーテンコール
最後の曲で、「真っ赤なスカーフ」のフレーズをつぎつぎに変奏しながら演奏していく。マーチ風のアレンジもあれば、バラード調、昭和の歌謡曲風と、実に多彩なアレンジで表情豊かな演奏になっている。この曲に関してはまさに「MENUET SEよ、お前ヤマト好きだろ? しかも「さらば〜」も「ヤマト2」も「2199」も知ってるベテランのファンだろ?」と問いたくなるくらいに聴かせどころをわかっている音を出す。編曲の違いの妙、高らかに歌い上げるトランペットの哀愁、昭和のムードがよく伝わる管弦楽器のゴージャス感。“ちょうどいい”を超えて、まさに「これだ!」と言いたくなるような音だ。感覚的な表現ばかりで伝わりにくいかもしれないが、この感性に響く鳴り方を客観的に分析して言い表すのが難しい。絶妙なバランスの良さと、古き良き“Good Reproduction”の感触を持った聴き心地のよい音がその理由だと言い表すので精一杯だ。
B&W 607も十分に優秀なスピーカーだ。正確とか真面目な傾向はあるが、十分に曲の情感も伝えてくるし、低音の再生能力や絶対的な音数の多さでは上回っていると思う。しかし、曲を聴いていて胸がドキドキするとか、高揚する感じに差を感じてしまう。才気に溢れた若者がヨボヨボのおじいさんに腕力でも技術でも太刀打ちできない感じだ。607もその系統を振り返ればそれなりの歴史を重ねたモデルなのだが、それは進化というイメージ。MENUET SEは伝統をきちんと継承しながら現代的に熟成を深めてきた音であると感じる。
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