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ライフサイエンス実験をAIとロボットで自動化・効率化

パソコン上が仮想ラボとなる世界の実現目指す、エピストラの挑戦

2021年02月05日 07時00分更新

ロボットとAIで自律的に研究が進む世界を目指す

 エピストラが最終的に目指すのは、実験をリアルに繰り返さなくても、ソフトウェア上で課題を見極め、誰でも再現ができるようにすることだ。AIを活用することでさまざまなパラメーターを試し、課題がどこにあるのかを見極めていく。リアルな実験に比べ、大幅なコスト削減、時間短縮が実現できる。

 さらにその先では、ロボットとの連携を行うことで、人手を介さず実験結果を再現し、検証可能な世界を目指している。

 「ロボット+AIによって、自律的に研究が回っていく世界を作ることが目標。これが実現できれば、効率的に新しい知見を手に入れていくことができるようになる。いわば、ラボを仮想化し、パソコン1台あれば研究が行なえるという世界を作ること」(小澤氏)

  有効な治療法のない難病である、加齢黄斑変性症の治療法として期待されたiPS細胞由来の網膜細胞は、ラボにおける分化誘導プロトコルの確立から、臨床に利用できるようになるまで2年近くかかっている。製品化するためには、同じ品質で、狙った細胞にしなければならないが、それを実現するまでに長い時間がかかっているのだ。この時間が短縮できれば、治療で恩恵を受ける人は増える。さらに、治療薬を作り出す時間が短くなれば、治療薬が安価になる可能性がある。

 ロボット+AIで自律的に研究が回る世界ができあがることで、ヘルスケア業界に大きなインパクトがあることが理解できたはずだ。

 「同じような取り組みとして、AIを活用した材料化学分野の新しい開発手法であるマテリアル・インフォマティクスがある。従来の新材料開発は、理論計算と実験を繰り返して実現するものだった。そこにIT分野のアルゴリズム活用手法を取り入れている。過去の実験やシミュレーションデータをもとに探索アルゴリズムを作り、新材料開発にかかる時間やコストを削減する。当社が行なっているのは、同じやり方をライフサイエンス分野に取り入れること」

適切なデータとドメイン知識を活用し、システマチックに問題を解く

 マテリアル・インフォマティクスもまだまだ新しい分野であるが、エピストラはそれをライフサイエンス分野で実現しようとしている。国内でも新しい分野ではあるが、実現までの道のりは容易ではなく、まずは「確実にできそうなことをビジネス、技術開発の両面で取り組んでいる最中」だという。

 たとえば、網膜再生医療技術の研究・開発に取り組む理化学研究所 高橋政代研究室との取り組みでは、従来2年かかっていた細胞の分化効率向上において、約半年に開発期間を短縮させた結果を出している。

 産業用ロボットを手掛ける株式会社安川電機とは、実験を行なう人型汎用ロボット「まほろ」で協力関係を持っている。さらに、別な企業とは細胞培養装置の培養パラメータの条件探索に、エピストラが持っているデータやノウハウを活用することで、探索にかかる時間を従来よりも20%短縮することに成功した。

 「これはいわゆる『最適化問題』。単純に試していけば誰でもできるが、見込みなしに考えられるデータすべてを試すことになると、時間と手間が膨大にかかる。適切なデータとドメイン知識を活用することで、システマチックに問題を解ける」(小澤氏)

 このデータとドメイン知識は、エピストラ自身が持っている場合もあるが、連携先のパートナーが持っている場合もある。さまざまな相手と連携することで、エピストラにはデータやノウハウがたまっていくことになり、システムの精度が上がることになる。

 「さまざまな相手がパートナーシップを組んでくれるのは、当社が持っているソフトウェアのアルゴリズムを評価していただいているから。我々のアルゴリズムを武器に、様々なパートナーと連携し、データやノウハウを蓄積しているのが現段階」

 ロボットやAIによって自律的に研究がまわる世界が実現すれば、人類はライフサイエンス分野における新しい知見を飛躍的に効率化して獲得できるようになる。その実現に向け、一歩ずつではあるが歩みが進んでいる。

 「今は完全自動化の手前、半自動化に取り組んでいるというのが正直なところ。実験の中での複雑な操作を自動化するような場合、たとえば培養ディッシュから細胞のかき取り操作をする場合、スクレーパーがかき取り面に均等に当たるようにするために、従来の治具ではなく新しい治具を作る必要が出てくる。そこにかかる時間とコストを考えると、今は、そこは人がやった方が早いということになる。そういった現実解も積み重ねながら、結果を出している段階」

 95点評価となっているものを100点評価に上げることは難しい。だが、現行で60点のものを80点にあげることはポイントさえ抑えていれば実現できる。これを継続しながら、データやノウハウをため、さらにシステムの精度を高めているという。

 パソコン上が研究室となる世界の実現までには、まだ少し時間はかかりそうだが、そこに向けた歩みは確実に進んでいる。

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