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高齢者にとってはLINEよりZoomのほうが簡単!?

スマートシティ化に不可欠な「住民の合意形成」を実現するには?

2021年01月27日 11時00分更新

一足早くスマートシティ化に向かう加古川市

小泉 はい。そうした蓄積やノウハウがあり、2000年前後には400人を超える市民が集まって総合計画を役所と一緒に検討したりしています。これは、すでに市民参加が進んでいるアメリカの先進自治体の事例に匹敵する規模です。

 かつて我々が行なったICTシステムの実験は、上記のような土壌の上で動いていました。十分に市民側の意識・準備が整っており、またICTリテラシーが高い方もいる地域だったこともあって、15年ほど前の取り組みでありながら上手くいったのかなと思っています。

 ですから、三鷹市のような背景を持っていない街でいきなり始めても、上手くいくかと言えばそれは難しいでしょう。

 ちなみに、現在イノラボさんが進めている「参加型Webプラットフォームを利用した市民参加の街づくり」に関しては、兵庫県加古川市が先行事例として挙げられると思います。

 加古川市は、市長がスマートシティ化に積極的なのですが、大きなポイントが1つあります。それは、かつて犯罪が多いといったことから、若い人の流出が起きていたのです。

 市長はこの課題に対応すべく市内に見守りカメラを設置したのですが、その際に市民としっかり合意形成をしたという経緯があります。地域ごとに会合を開いてプライベートの問題や子どもの安全のためにどこに設置すべきなのかなど相談しながら決めていき、カメラで撮られた映像情報をどう使うのか政策を決定して条例を作り、その条例の下でカメラを設置したのです。

―― これはずいぶん大掛かりなサービスですね。

小泉 加古川市のDecidim試用が順調である理由は、やはり「行政があれだけのカメラを設置することに対して市民に了解を得る」という経験があったからこそだと思います。三鷹市のような長年の経験がなくても、1つブレイクスルーできれば、Decidimを運用した行政と市民の対話もできなくはないのかなと。

森田 カメラ設置は、Googleによるトロントの事例でも住民の懸念として最も大きかった点です。安全とプライバシーは相反するところがありますので、どちらを取るかは論点としてよく出てきます。スマートシティを進める上で必ずぶち当たる壁だと思うので、加古川市の事例は興味深いですね。

対立意見を合意形成を導くためのテクニックがある!?

小泉 ポイントは、感情的にならず議論できるかどうかです。議論をスムーズに導くための条件やテクニックはいくつかありますので、冷静に進めることを前提にすればよいのでは。

森田 プラットフォームだけがあって「あとは勝手に議論してください」という形ではなく、ファシリテーションを担う人材が必要なのですね。自治体職員か外部の専門家なのかは別として。

小泉 そこが大事なところだと思います。異なる意見を持つ人たちが話し合いを進める際には、守るべき「協議の条件」があります。これは長年の研究の結果、ある程度整理されています。

紛争解決の現場から見いだされた「協議の条件」

 たとえば話し合いを進めていく際には、創造的な問題解決が不可欠です。特に対立点をプラスに捉えるのが大事なところで、異なる立場を包含できる創造的な解決案をみんなで探り、上手くそれを見つけることができれば、みんなが勝者になれます。対立している意見のどちらかが勝つのではなく、両方勝つ方法はないか、と。

 こういった「協議の条件」を、少なくともファシリテーターは理解しておく必要がありますし、本当に重要なポイントだけは参加者にも押さえていただいてから参加してもらうことは必要な手順かもしれませんね。

森田 なるほど……論点を明確化するためには、参加者それぞれの背景情報を公開した上で、あえてポジショントークをさせることも大事なのですね。

小泉 はい。ポジショントークが単純なポジショントークにならないのが面白いのです。最初はそれぞれ遠い位置にポジショニングしていた人たちに情報を与えたり、検討する条件を変えてあげたりすることで、そうした人たちのポジションがだんだん変化することが起こるわけです。

 ですから「いかにポジショニングの変更を促していくか?」が合意形成の大きなポイントになります。

森田 非常に勉強になります。

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