自動車技術会開催の自動運転AIチャレンジが開催された
2020年も押し迫った12月12日、「第2回 自動運転AIチャレンジ」のオンライン表彰式が開催された。「自動運転AIチャレンジ」とは、自動車業界におけるAIやIT技術者の発掘・育成を目的に、公益法人自動車技術会が主催したイベントだ。2019年の第1回大会では、最終的に実車を使った決勝が開催されたが、コロナ禍となった2020年の第2回大会は、予選、決勝、そして表彰式までがオンラインでの実施となっている。
競技は、タイトルの通り、自動運転のプログラムを作成し、それをオンラインシミュレーターで動かして採点とする。予選として「認識部門」「制御部門」の2つの競技が用意され、そのどちらかに参加して上位となったチームが決勝に進むという流れだ。技術者の発掘・育成が目的なだけに、参加は誰でも自由で参加費もかからない。
「認識部門」の予選は、経済産業省主催で2019年11月~2020年3月にかけて実施された「第2回 AIエッジコンテスト」で、FPGAボード実装を実際に行ない、そこでの画像認識の処理性能を競うというもの。認識するのは「乗用車」「トラック」「歩行者」「自転車」「信号」「標識」の6つであった。この予選には、377人が参加。その中の3チームが決勝に進んでいる。
一方、もうひとつの予選となる「制御部門」は、自動運転システム用オープンソースソフトウェア「Autoware」を利用して、課題となったシナリオをクリアするプログラムのデキを競うという内容で、2020年3~4月にかけて実施された。課題は「前方を走る車との車間距離を維持するアクセル制御」「路肩の駐車車両の回避」「信号を認識して発進する」の3つ。こちらの予選には34チーム(70名)が参加。8チームが決勝進出となった。
決勝は市街地でのタイムアタック
決勝は、仮想の市街地における自動運転車によるフードデリバリーを想定しており、スタート地点から6つのシナリオをクリアしてゴールに向かうというもの。6つのシナリオは「道路を横切る歩行者と路上駐車車両の回避」「交差点で左側からくる車両を回避しての左折」「対向車を回避しての駐車場への左折」「駐車車両を回避した駐車場内の走行」「低速で走行する他車両への対応」「左右からくる直進車を回避しての交差点の直進」だ。最大速度30㎞/hを守りながら、他車両や歩行者、建造物などの衝突を回避しつつ、課題のシナリオをこなしてゴールを目指す。
ポイントとなるのは、この競技がタイムアタックということだ。つまり、丁寧に慎重にゆっくりと走っていては勝てないということ。そのため、いかにタイムをロスしないコース取りが重要となった。表彰式で公開された、エントラントのシミュレーションの走りを見ると、衝突ギリギリのような際どいコース取りも見受けられた。参加者からは「最も速く走れるコースを探すのに時間をかけた」などのコメントもあった。シミュレーション競技会ならではの走りと言えるだろう。
決勝の結果は、参加11チームのうち5チームが完走。1位が「gatti」の112.965秒、2位「Shallow Learners」が129.546秒、3位「tomo123」が149.997秒となった。
「gatti」のメンバーはNTTデータオートモビリジェンス研究所の坂本伸/宇井健一氏、「Shallow Learners」はトヨタ自動車の中川博憲/堀内義雅/郡山博輝氏、「tomo123」はサン電子の中垣友宏氏であった。NTTデータオートモビリジェンス研究所は、クルマ関係のソフトウェアの開発を行う企業だ。また、シミュレーションも得意とする。ある意味、エントラントとしては、もっとも力のあるチームだったのではないだろうか。また、2位となったのはトヨタの社員ではあるが、自動運転開発に関しては素人であり、社内の自主活動の一環として参加したという。また、サン電子の中垣氏も自動車とは関係のない部門で働いているという。オープンソースソフトウェアに関しても、まったくの素人で最初は設定だけでも苦労したとか。しかし、そんな彼らが上位に入賞したのだ。まさに、「技術者のすそ野を広げる」という、競技会本来の趣旨に則った内容となったと言えるだろう。
上位チームの走りは、「第2回 自動運転AIチャレンジ」の公式ホームページの表彰式の公開動画の中で見ることができる。今後は、こうした試みは、さらに注目度が高まることだろう。今日のある方は、ぜひともチェックしてみよう。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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