「ソーシャルイノベーション ウイーク2020」最終イベント
スタートアップのために自治体ができること グローバル拠点都市のキーパーソンたちが語る
“ソーシャルデザイン”をテーマにした国内最大級の都市フェス「ソーシャルイノベーション ウイーク2020」最後のイベントが11月12日に行われた。内閣府からグローバル拠点都市(東京、中部、関西、福岡)と推進拠点都市(札幌、仙台、広島、北九州)に認定を受けた各都市のキーパーソンが「スタートアップのために自治体ができること」というテーマのもと、渋谷ストリームホールに登壇し、それぞれの都市の施策や課題、連携の可能性についてトークセッションを実施した。
内閣府オープンイノベーション担当・企画官の石井さんによる進行で掲げられた最初のテーマは「コミットするコミュニティの作り方」だ。
まずは福岡市。福岡では地域で声をあげる人がいて、そういう人たちが自然と広がり、いつのまにかコミュニティが生まれたとのこと。大切にしたのは「入りやすく、抜けやすい」というゆるいコミュニティ作り。さらに若い世代の人たちが入りやすい場作りも意識した。これには仙台市でも同様で、圧倒的な経営者の成功譚を示すのではなく、「スタートアップを自分でもやれそう」という雰囲気にすることを大切にしたそうで、起業家応援イベント「sendai for startups」では2013年当初80人だったコミュニティが、今では約1000人、オンラインを入れると約3000人にまで増加した。
札幌市では次の社会・未来を創るためのコンベンション「NoMaps(ノーマップス)」や起業家の短期育成プログラム「オープンネットワークラボ北海道」、スタートアップと社会をつなぐプロジェクト「STARTUP CITY SAPPORO」というプロジェクトを展開し、民間ベースでスタートアップコミュニティが生まれ始めている。浜松市においてはベンチャー起業家コミュニティ「Hamamatsu Venture Tribe」を立ち上げ、そのなかでも成長志向の強いスタートアップの5社が自分たちだけでコミュニティ「Hamamatsu Venture Tribe」を立ち上げた。成功体験や失敗体験を共有したり、独自のイベントを開催したり、スタートアップコミュニティーを盛り上げているのだとか。
ここで、石井さんが浜松市のファンドサポート事業について触れた。浜松市が自治体レベルでベンチャーキャピタルを引き寄せ、これまで融資中心であった資金調達に投資という新しい文化を見出し、今やベンチャーキャピタルの注目を集めていることが伝えられた。
続いてのテーマは「研究機関や企業、大学との連携」。
福岡市ではエンジニアのためのコミュニティ「Engineer Cafe(エンジニアカフェ)」があり、いずれ企業家コミュニティとの交流を目指していることが告げられた。
国の研究所の3分の1が集積し、研究従事者が2万人を超えるつくば市では今年の2月にコンソーシアムを作り、研究者とスタートアップの交流を図っている。研究者がお酒を飲みながら気軽に情報交換できる「サイエンスビアバー」を作り、研究者だけでなく、経営者も集まるようなコミュニティ作りを展開。実際にJAXAのOBがつくばの超小型人工衛星のスタートアップに入社するといった動きがあったそうだ。さらに「研究成果を社会実装する、社会に生かすという点では、企業家と研究者の思いは一致する」と石井さんが語り、「結構そういうケースは日本中に埋もれているのでは?」とつくば市の高瀬さんが仮説を披露した。
横浜・みなとみらいではひとつの仕掛けとしてイベントをきっかけに大企業同士の連携を進めているという。その1つが、富士ゼロックスのエンジニアが有志で始め、今では4日間で6000人の来場者を誇る「横浜ガジェットまつり」だ。3年前から横浜市も参加し、資生堂や京急、京セラなどの参画企業も増加した。このイベントをきっかけに、スタートアップ企業が生まれてきているという。
名古屋市では「Venture Café Tokyo(ベンチャーカフェ東京)」と連携し、7月にノベーション促進・交流プログラム「NAGOYA CONNÉCT」を展開。オンラインが加速する昨今の時流を受けて、海外とのつながりも生まれ始めている。
大学との連携としては、東海地区9大学による起業家育成プロジェクト「Tongali(トンガリ)」が紹介された。学生に対してアントレプレナー教育を行なうことによって、外部と連携する環境が生まれているのだそうだ。さらに名古屋市では名古屋大学発ベンチャーとして「OICX(オイックス)ピッチ)」というピッチイベントを今年から開催。さらに中部圏全体へと展開させ、新たな交流を目指している。一方、東京渋谷では東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学、早稲田大学、東京都市大学、東京藝術大学の6つの大学と連携するコミュニティ「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」において、社会課題にそった新たなベンチャー創出に向けて進めている。
3つ目のテーマは「新しい技術やサービスを社会実装するための実証実験」。「社会実装していく上で重要なプレーヤーこそ自治体」と話す石井さん。そのなかでもうまくやっているのは神戸だという。神戸市の特徴としては、国内外問わず、無料でアクセラレーションプログラムを提供していることにある。さらに「Urban Innovation KOBE」においてもスタートアップを囲い込むのではなく、実証実験において各地域と連携する水平展開が望ましいと考えているのだ。実証できればそのまま調達する、つまりトライアル発注の制度を使い進めている。同じくUrban Innovationを取り入れている仙台はどうだろう。成功事例を取り入れることで課題解決のスピードを上げたいとの思いでUrban Innovationを導入。やはり実証実験において他地域との連携を進めたい考えだ。
<4つ目のテーマとなるグローバル展開について、福岡市にあるスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」のインキュベーションマネージャーを務める株式会社サイノウ代表取締役CEO、村上純志さんが事例を挙げて語った。福岡市においては世界十数ヵ国とMOU(合意文書)を結び、各拠点から福岡でスタートアップ事業を立ち上げたのち、各拠点に戻り展開してもらう流れを作っている。特に力を入れているのは国際金融だそうだ。
神戸市では今年の11月6日にUNOPS(国際連合プロジェクトサービス機関)ができたことで、世界中の国連が抱えている課題にスタートアップの技術を提供することを目指している。海外へチャレンジできるチャンスが新たに増えたこととなる。
さて、最後は「地域の情報の活かし方」というテーマだ。それぞれの地域の特徴や強みはもちろんだが、それぞれの地域が最後に口にしたのは「他地域と連携」であった。象徴する言葉としてつくば市の高瀬さんの言葉を引用しよう。
「今後において、認定された拠点間の連携が重要になってくるんじゃないかと思っています。実際、福岡のスタートアップの企業さんがつくばと神戸で実証実験をしているんですね。つくばだけで何かをするのではなくて、他の場所でも実証実験ができて、ビジネスは渋谷でするとか、その連携がより大事になってくる。日本全国でスタンド・バイ・スタートアップスができるような環境になればいいいなと思っています。」
グローバル拠点都、進拠点都市が今後、どのように連携し、どのようなスタートアップが生まれるのか?それぞれの地域の展開が楽しみだ。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります