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DXのカギを握るのはCX

《会わない・触れない》、コロナ禍下の《制約》がイノベーションを生む

2020年11月18日 09時00分更新

コミュニケーション技術をとりまくテーマは多岐にわたる

Web会議とソフトウェアキーボード

 教育庁の「東京未来ファクトリー」という都内の高校(工業・工芸・科学技術高校)の生徒たちを対象にしたイベントのお手伝いをさせていただいているのだが、先週、米Niantic アジア担当副社長の川島優志さんに課外授業的なお話をしていただいた。モノやサービスを作っていくときのお話だったのだが、そのなかで、コミュニケーション技術についてこんな部分があった。

 「iPhoneが最初に出たときにソフトウェアキーボードなんか使い物にならないと言った人がいたけどいまはこんなに使っている。同じように、いまZOOMやGoogle MeetなどのWeb会議では伝わらないという人がいるけどこっちが当たり前になるんじゃないか?」

 かならずしもこの言葉どおりではないのだが、「ソフトウェアキーボードが使いものにならず普及しない」と力説した人の名前まで具体的にあげて紹介してくれた(もちろん、その人が間違っていたとあげつらっているのではなく業界で成功している人すら予測できなかった)。これって、

・UI(ユーザーインターフェイス)のどれが定着するかの議論は理屈だけではいかない
・世の中には潮流というものがあり1つの技術のよしあしより次の時代を決めることがある

 ということだったのだと思う(潮流についてはあくまで私の解釈だが後述)。高校生たちに向かって「先のことなんて分からないんだからいまやれることを全力でやるのがよい」ということと、「とはいえ世の中はこっちに向かって流れているというのは見ておいたほうがよい」、という2つのことを伝えてくれたように感じた(高校生より読み切れていなかったらすいません)。

 私のいるコンテンツ業界では、ちょうど「リアルの会議」「Web会議」と似たような関係のできごとをごく最近経験したばかりだ。それは、「紙の本」「電子書籍」の関係である。紙の本(あるいは本棚や書店なども含む)に、電子書籍にない価値があるのは明らかだ。しかし、電子書籍がもたらす価値ははかり知れないのもまた事実である。

 『IT Doesn't Matter』(『もはやITに戦略的価値はない』)で知られるニコラス・G・カーが、グーグルの《ブック検索》のエンジニアに「著作権を無視してガンガン本をスキャンするなんてひどいと思わないのか?」と言ったら「人間が読むためにスキャンしているのではない」と応えたそうだ。いまでは、「AIに使えるからそんなもんでしょう」と昼休みの会話でもあしらわれそうなエピソードだが、2003年頃ならピューリッツァー賞作家も驚いたのだろう。本は電子化されたことで、まったく別の価値が見いだされたわけだ。

 ソフトウェアキーボードも電子書籍も、Blackberyなどの物理的なキーボードや紙の本よりも不便だし劣った部分がある。ある人は、「何の本を読んでいるかわからないので、空港の飛行機待ちのときにそれをきっかけに話かけることができない」と言っていた。しかし、そうして失われるものよりも《潮流》のほうに押し流されて世の中がかわっていくことが多いのだ。その潮流とはGAFAが作り出してその上に立っているものの総称と言ってよいものだ(GAFAMと言わなかったのはマイクロソフトはしつこく追い付いてくる立場なので)。

 仮に、日本における「DX」(デジタルトランスフォーメーション)が、GAFAにやられたので対抗しなければならないというのが基底としてあるのだとしたら、相手は《潮流》であって業務やビジネスの変革とかそいういうことではないということがポイントだと思う。それによってこそ、失われるよりも余りある価値を誰よりも先に掘り起こすことができる。次々と発見があるからGAFAも頑張っているのだ。

 それでは、ニューノーマル時代のコミュニケーション技術において掘り起こされる《お宝》とはなんなのか? そういえば、川島優志さんは、「制限がイノベーションの母」とも高校生たちに訴えていた。Web会議に限らず《会わない・触れない時代》のコミュニケーションで失われた、あるいは制限されたものとは? あるいは生じたトラブルとは? コロナ禍下のいまがチャンスだよというわけだ。

コミュニケーション技術の最先端で見えてきたこと

 生身の人間の触れる技術のこれからを予測するのは難しいというわけだが、コロナ禍下の生活も10カ月を経過して、そのヒントは見えてきているはずだ。11月19日(木)13:00から「ニュー・ノーマル時代のコミュニケーション:CXが主導するDXの可能性と課題」というパネルでモデレーターをさせていただくことになった(11月18日~20日で開催中の「Digital Content Expo 2020 ONLINE」のなかのプログラム)。

 これには、実際にコロナ後の時代のコミュニケーションに使われる技術・サービスに直接たずさわっておられるavatarin株式会社代表取締役CEOの深堀昂氏、Spatial Systems, Inc.のCo-founderでCPOのJinha Lee 氏にご登壇いただく。実際に、ロボットやアバターやバーチャル空間のコミュケーション技術を駆使して顧客とも対話されているお二方のお話しは、サービス、マケーティング、教育分野などでも参考になると思う。

 さらに、経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課長の高木美香氏、東京大学 先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏にも登壇していただく。高木氏には、まさにDXにおけるこの領域の重要性、稲見氏には、身体性とデジタルに関する豊富な知見をもとに、それぞれ政策・学識の立場から議論していただく予定だ。

 なお、同日にはまさに最新のデジタルコンテンツやメディア技術を発信するプロジェクト「Innovative Technologies (I-Tech)」の採択技術の発表も行われる。視聴には申し込みが必要とのこと(パネルディスカッションほかの申し込みは >>コチラ より)。

◆関連リンク

Digital Content Expo 2020 ONLINE:https://www.dcexpo.jp/
同コンファレンス:https://online.dcexpo.jp/seminar/
Innovative Technologies (I-Tech)2020:https://www.dcexpo.jp/itech2020

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667
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