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地方で起業するのは東京よりも有利? 不利?

起業家と投資家が語る、地方スタートアップを取り巻く現実

2020年11月18日 09時00分更新

 東京で働くか、地方で働くかというのは、多くの人が直面する選択だろう。また起業を考えている人にとっては、より重要な問題となるに違いない。

 最近では地方での起業を選ぶ人が増えてきたが、そこにはどのようなメリット・デメリットがあるのか。広島で起業した株式会社ウーオ 代表取締役 板倉 一智氏と、ウーオに出資しているベンチャーキャピタルであるライフタイムベンチャーズ 代表パートナー木村 亮介氏を招いて「地方スタートアップの課題と可能性」と題したパネルディスカッションがNoMaps2020にて行われた。モデレーターを務めたのは、株式会社POLAR SHORTCUT 代表取締役CEO 大久保 徳彦氏だ。

スタートアップと投資家が出会い、
出資に至るまでの実際の経緯とは

 大久保氏からの最初の問いかけは、もともと東京で仕事をされていた板倉氏が、なぜ広島で起業しようと思ったのか。地方で起業することでハンデを感じることは何かというものだった。これに対して板倉氏は、起業に際して、どこにいれば何ができて何かできないのかという部分を自分なりに噛み砕いて考え、自分がやりたいことは地方でもできるのではないかという思いに至ったという。

「集まってくる情報や人の多さでは東京にかないませんが、地方だからできることもあると思いました。そこで、妻の実家である広島で起業することにしました」(板倉氏)

 地方で起業したことで感じるハンデについては、何をハンデと考えるかによると返答。ハンデがわかっていて、自分の中に解決策を見出せていれば問題ないとの見解だ。

 続いて大久保氏は、ウーオへの最初の出資者であるライフタイムベンチャーズの木村氏に、板倉氏との出会いについて尋ねた。

「スタートアップのピッチコンテストが、板倉さんとの最初の出会いでした。とても広い会場だったのですが、すぐに板倉さんのところに行き、名刺交換させていただきました」(木村氏)

 木村氏が感銘を受けたのには理由があった。木村氏は広島県の出身で、子どもの頃には家族で山陽地方、山陰地方を旅したという。そのとき、おいしい海の幸が安く食べられることが印象に残った。余計な儲けを追わない良い人たちだから安く売っているのかとも思ったが、実態はそうではなかったと、板倉氏のピッチでわかったのだ。

 どんなに美味しい魚を獲っても、それを評価してくれる人に出会わなければ、安く売るほかない。つまり、もっと高く売れるマーケットと漁師を結ぶ流通網がなかったのだ。そして、それを変えていきたいと語ったのが、ウーオの板倉氏だった。

「東京より何倍も美味しい魚が獲れることはわかっています。ものはいいのだから、流通が活性化する仕組みをつくれば事業としての将来性も見える。そう思いました」(木村)

 続いて大久保氏は、投資家が入る前と後でスタートアップのステージはどう変わったのかと板倉氏に聞いた。板倉氏は、当初ひとりでウーオを切り盛りしていた。そこに出資者として木村氏が加わったことで、チーム作りに取りかかることができたと答えた。

「出資していただくだけではなく、経営者のひとりとして伴走してもらったという印象が強く残っています。業界の課題解決について木村さんが携わってくれたおかげで、事業の解像度を高めることができました」(板倉氏)

株式会社ウーオ 代表取締役 板倉 一智氏

地方から始まるべきストーリーを持つなら、
地方で起業するメリットが大きい

 続いて、投資家から地方のスタートアップはどう見えているのか、という話題に移った。出資先が東京の企業であれば、身近で一緒に動きやすい。その辺りを含めて、ベンチャーキャピタルは地方スタートアップの支援をどのように捉えているのか。木村氏はこの問いかけに、ふたつの段階に分けて答えた。ひとつは出資前、出会って事業について知り、投資を決めるまでの過程。もうひとつは出資後だ。

 木村氏自身は、地方スタートアップを支援したくないということはなく、かといって特別に地方スタートアップを応援するということもない、ニュートラルな立場。地方スタートアップが東京の企業より劣るとも思っていないが、投資家に出会いやすくカジュアルに相談できる空気が強いのは東京だ。投資家との出会いについては、起業家側、投資家側お互いに課題があるようだ。

「一方で、シードステージのスタートアップが賃料の高い東京にオフィスを持ち、激戦区で人材獲得競争をするのがいいのかどうか、という思いはあります。むしろ地方で起業し、創業メンバーもその地域で一番情熱的な方々でそろえた方がいい場合もあると思います」(木村氏)

 出資後については、ウーオとは毎週ビデオ会議で定例ミーティングを持つなど、距離を超えて密な関係を築いているとのこと。しかし難点がない訳ではない。

「出資先の借り入れ支援などもするのですが、そのときに東京エリアで懇意にしている担当者を紹介できません。銀行の担当者にはそれぞれ管轄があるので、その地方の担当者を紹介してもらわなければなりません。また、採用に関してもビデオ通話で面接することになり、見極めが難しいですね」(木村氏)

ライフタイムベンチャーズ 代表パートナー木村 亮介氏

 人材の話題を引き取った大久保氏は、地方における経営人材不足などの課題はないのか、尋ねた。

 対して木村氏は、東京の会社と同じようなビジネスモデルやプロダクトを地方で展開しようと思ったら、不利な場合が多いかもしれないと答えた。しかし採用において東京で不利な立場に立たされるかどうかは、事業領域にもよるようだ。

「ウーオもそうですが、地方から始まるべきストーリーがある会社というのはあると思います。逆にそういう企業は東京にはありません。会社の成り立ちからして違うので、その領域に興味をもっている方には比べるべくもなく刺さるところがあるはずです」(木村氏)

 Uターン、Iターン、Jターン人材へのアプローチも重要だと続ける木村氏。地元や縁のある地方に移って就職するとしたら、スタートアップしかないと考えるリーダークラスの人材がいる。そういう人たちはWantedlyなどのSNSでその地方のスタートアップを一通りチェックするのだという。そういう野心的な人材に自分の会社を選んでんもらえるよう努力していれば、差別化は自然とできてくる。

「地元はもともと別の場所で、東京に出てきて働いているという方は一定数いらっしゃいます。そのような方が結婚やキャリアチェンジのタイミングで地方に目を向けるというのは、独特な転職動機だとは思いますが、そのときに自社を知ってもらえるよう打席に立ち続けることが大切です」(木村氏)

東京と地方、最も大きな違いは「人」を取り巻く諸問題

 話題は、「地方発スタートアップの課題と可能性」の核心へと進む。地方で起業することのメリットや課題を、それぞれの目から語ってもらった。

 先に話題を振られた木村氏は、地方で起業するメリットについて、地方から始まったほうがミッションに力が入る事業領域は少なくないと切り出した。また人材についても、一定規模以上の都市であれば、大学や高専があり、東京と遜色ないポテンシャルを持った人材が眠っていると言う。しかし、事業をスケールしていくために必要な”最初のひとり”を見つけるのが難しいことはデメリットとして挙げられるだろう。

「実際にはその地方にもいるはずですが、Wantedlyに投稿して待っていれば次々に声をかけてもらえる、なんてことはありません。自分たちらしいやり方で探す必要があります。そういう意味で、地方にコミュニティが生まれることが重要な課題だと感じています」(木村氏)

 板倉氏は起業家としての視点から、メリットとデメリットを語るうえで重要なのは人、金、情報の3点であり、首都圏に比べて地方都市の弱い部分でもあると述べた。その中でも金、情報はある程度補う方法があるものの、人との出会いにおいては東京など大都市との違いを感じているようだった。

「最終的には地方で起業することの課題は人だと感じています。木村さんのように出資してくださる方もそうですが、しっかりと接点を作ってコミュニケーションを取ることでなんとかクリアできていますが、人材採用などでも地方ならではの難しさを感じています」(板倉氏)

 地方ならではの面白い取り組みがあるということが、ブレイクスルーの一端になるのではないかと板倉氏は続ける。その面白さを、ポテンシャルを持つ人材にどのように伝えていくか、それが次の課題となりそうだ。

株式会社POLAR SHORTCUT 代表取締役CEO 大久保 徳彦氏

「近年、スタートアップ推進拠点都市を掲げる自治体も増えています。地方におけるスタートアップエコシステムづくりや、行政からの支援について感じることがあれば教えてください」(大久保氏)

 このように問われた板倉氏は、広島は県知事を含めてイノベーションに前のめりであり、組織として応援していく姿勢を取っているので非常にやりやすい環境だと答えた。行政側の取り組みを評価した上で、もう一歩進めていくためにはスタートアップの事業についてより深い理解が必要だと語った。

「私たちの事業の中身を、もう少し高い解像度で理解していただいたうえで、お互いのイノベーションを推進できたらより良くなると思っています」(板倉氏)

 同じ話題について木村氏は、ふたつのことをリクエストした。ひとつは、もっと個の力で戦って欲しいということ。スタートアップであれ大企業であれ、オープンイノベーションを成功させているところでは、組織ではなく個人の名前が周知されているという。

「地方では行政の担当者も地域の方々も含めて、上の顔をうかがう文化が根強く残っています。それよりも、自分自身はどう思っているのかという話をして欲しいし、SNSでも個人の名前でもっと発信してほしいですね」(木村氏)

 ふたつ目は、若者を軽視しないでほしいということ。上を立てる文化のような形で、地方では若者を軽視する文化があると木村氏は指摘する。東京では大学生起業家を応援すると表明しているベンチャーキャピタルや、若者を応援する連続起業家もいる。そのような環境が地方では得られないと感じているようだ。

「若さは若さだけで魅力だと、まっすぐに応援することが、生まれ育った街で起業していく方が増えて行くきかっけになると思います」(木村氏)

地方で起業することのメリットを最大限活かして、強みに変えていく

 最後は、北海道起業家やスタートアップエコシステムを支援する行政関係者、地方での起業を検討している人に向けて、板倉氏、木村氏からメッセージをもらった。

「東京と比べると欠けている部分はあるけれど、地方で起業することのメリットもあるはずなので、そこをしっかり活かして、圧倒的に強いポイントを作ってください。地方でも東京でも同じですが、そもそもなぜ自分が起業したのかというきっかけや経緯を忘れることなく、他責にせず走り続けてください」(板倉氏)

「東京のベンチャーキャピタルということで身構える方が結構いらっしゃいますが、創業前からカジュアルに相談に乗ります。新型コロナウイルス感染対策で、Web会議でも失礼とは言われない雰囲気もできていますので、お気軽にご連絡ください」(木村氏)

 それぞれの視点から、後に続くひとたちに向けてエールが送られた。これらを受けて最後に大久保氏は、次のように締めくくった。

「北海道の起業家にとってすごく参考になるお話を聞けたと思います。まだ起業していない方も含めて、北海道でチャレンジする人が増えていったらいいなと思っています」(大久保氏)

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