週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

〈前編〉ITジャーナリスト高橋暁子とマカフィー執行役員青木大知が語る

子どもとオンライン授業の理想と現実

2020年10月23日 11時00分更新

学校設備よりも教師のリテラシー向上を

―― 青木さんのお子さんはいかがでしたか?

マカフィー青木 公立の小学4年生ですが、ここ数ヵ月の推移を見ていると、先生たちの負担が増えてしまったのかなという感触があります。

 というのも、「オンラインで多人数相手に発表する」という行為は、テクニックと経験が必要だからです。「学力が異なる30人前後を、相手の様子を見ながら適宜教える」というのが先生たちの持つスキルだと思いますが、オンラインである程度一方的に情報を発信する場合は、環境やコンテンツ準備の方法からして別スキルなのです。それをITの専門家ではない学校の先生たちに求めてしまうのはかなり負担が大きいのではと。

 そして重要なのは、オンライン授業が満足に実施できなかったことで「日本はITの後進国だ」とあらためて確認できてしまったことでしょう。リテラシーが足りていないので、運営・運用についてのディスカッションも進んでいません。このまま下手に設備を整えてしまうと大変なことになるのではと危惧しています。

 また、ヨーロッパや北米の同僚たちと話していると、やはり彼らの子どもたちのほうがリテラシーは高いと感じます。子どもがMacで授業を受けているのでプレゼンテーションソフトのKeynoteの使い方は(マカフィーに勤めている)親よりも上手い、とか。学校側も同様で、カリキュラムからテスト、宿題の出し方まで含め、オンラインで授業を進められることが前提になっています。海外は自粛でなく外出禁止令が出ていたので、よりオンラインありきの情勢だったこともありますが。

 先日の高橋さんの記事で、パソコンを持っている高校生は22%という話を読んで再認識したことがあります。これは編集の方ともよく話題にしているのですが、「海外(特に北米)のほうが家にあるデバイスって多いよね」と。これはつまり、大人が使う分のほかに、子ども用のデバイスも別に揃えていることを示しています。

 ただ、学校とのやりとりが一部オンラインになったことは前進だと思います。私の子どもが通う学校の場合、これまでは電話ですら欠席連絡NGで、道を歩いている同級生に連絡帳を渡すしか方法がなかったんです。今回やっと家庭と学校がスマホでもつながったというのは、今さらかもしれないけれど、親としては助かった部分ですね。

学校再開後はICTの活用を予定する学校は多いが……

―― 在宅勤務が増えて、本格的にオンライン授業が始まると、当然帯域を圧迫するわけで、まともに授業ができるのかという懸念があります。

高橋 Wi-Fiもパソコンもないので、スマホで大学のオンライン講義を受けたという方は多いようです。大学によっては使っていない教室を「自宅にWi-Fiがない学生用」に開放したという話もあります。

―― 感染拡大防止のためにオンライン講義に切り替えた大学が、教室を開放している……。

高橋 まともに受講できない学生が思いのほか多かったようで。また、オンラインでの双方向のやり取りは無理だろうということで、オンデマンドにしたり、資料を配付する形にしたりと、さまざまなパターンがあったようです。

 そして先生側は、どこまで理解したのか不安になり、それを確認しようと課題を多く出したがる心理になるようです。しかもそれがすべての講義で起きているので、大学生は苦境に陥っているようです。

マカフィー青木 マカフィーの従業員たちは日頃からさまざまなトレーニングを受けているのですが、内容がグローバル仕様なのでもっぱらオンラインラーニング。どこでも同じ教育内容が受けられるわけです。同じように、これから徐々に大学は「どこにあるか?」ではなく「何をどう教えるか?」という質が選択基準になっていくのでは。

―― これから子どもが減っていくなかで、オンライン対応の遅れは学校の存続に直結するかもしれませんね。

マカフィー青木 大学も観光地同様、外国人(留学生)からの収入が大きいと聞きます。ニューノーマル以後、留学生が減って存続できなくなる大学もあるでしょうし、回りまわって地元経済にも影響を及ぼしかねません。どうやってお客さんである学生を楽しませるか、集めるか、そういったことが重要になるでしょう。さらに受験も変化していくでしょうね。

高橋 オンライン受験という話も出てきていますよ。

―― こないだ某大学の大学院で初のオンライン入試があったそうです。オンライン会議システム越しに一対一で話し合いながら実施するらしいのですが、途中で回線が切れるとその間にカンニングされる恐れがあるので、事前に試験時間分、各学生宅の回線が途切れないかチェックして、途切れてしまう人は別の場所で受けてもらうよう調整したそうです。

青木 なるほど。

―― さらにそこまでやっても不可抗力で回線が切れてしまう可能性があるので、予備の試験問題を本物の試験問題の何倍も作ったとか。曰く、とんでもない手間がかかっているけれど、今はこのやり方しか思いつかない、と。翻って、小中高のオンライン試験状況はいかがでしょうか? たとえばClassiには試験実施機能は搭載されていないのですか。

高橋 今そこまでは対応できていませんね。そのように試験や評価付けなどは課題になっていると先生たちからお伺いしています。特に実体験が必須の教科は厳しいようです。実際、私の子どもの学校では今期、体育の成績が付かなかったんです。「成績なし」でした。

―― 通知表に書いてあるんですか?

高橋 国語、算数、理科、社会などは全部数字で評価が付いていたんですよ。音楽と体育は成績なしでした。音楽も歌ったり、楽器を弾いたりが感染拡大防止の観点からほとんどできなかったため、評価できなかったのでしょうね。あと生活の「整理整頓ができる~」みたいな項目も評価ありませんでしたね。ここに落ち着くまで現場は相当苦慮されたと思います。最近まで大学ではほとんど対面授業が行われず、実技・実験・演習などもほぼできなかったようです。

―― 実習が必須の教科は確かに判定できないし、十分に学べているのかも心配になりますね。

 ではいったん休憩を挟みましょう。後編では、お子さんたちも無関係ではいられない「ネットでの誹謗中傷」「コロナ禍で利用時間が増えたスマホのセキュリティ」についてご意見お聞きしたいと思います。ありがとうございました。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう