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〈前編〉ITジャーナリスト高橋暁子とマカフィー執行役員青木大知が語る

子どもとオンライン授業の理想と現実

2020年10月23日 11時00分更新

ITジャーナリスト高橋暁子さん、そしてマカフィー執行役員 青木大知さんに、それぞれから見た「コロナ禍における学生生活とIT教育の実際」を語っていただいた

学生は大量のプリント課題と格闘して2020年前半を終えた

―― 新型コロナウイルスの感染拡大によって学校は臨時休校、ほどなくオンライン授業が推奨される事態となりました。同時に、Classiへの不正アクセスやサーバーダウン、学校・家庭のWi-Fi対応、教師・生徒双方のリテラシー不足をはじめさまざまな課題もみえたと思います。

 このような状況のなか、子どものインターネットの使い方も否応なく変わってきてしまうでしょう。そこでアフターコロナ、ニューノーマルにおける小中高生の(学校)生活についてトピックを挙げながらお二方にご意見お伺いします。まずは高橋暁子さんに、小中高生のオンライン授業の実情と課題を教えていただきたいと思います。

9割以上の公立校がオンライン授業実施できず

高橋 子ども側はデジタルネイティブということもあり、オンライン授業が始まると意外と乗り気で楽しんでいるようです。一方、学校側の対応は遅れています。特に公立ですね。準備が整ったのは学校が再開した6月頃だったこともあり、9割以上の公立校がオンライン授業(同時双方向型)を実施できていません。

 私の子どもの場合、自治体からはオンライン授業を実施する旨の連絡が届いたものの、蓋を開けてみれば一部の学校で短い動画を多少公開したのみ。私の子どもが通っている学校では、その動画公開さえありませんでした。

 知り合いの教員から、『学校側にオンライン授業を実施できる環境がない』『校内のフィルタリングが厳しくてテレビ会議サービスを利用できない』『(教員側にオンライン授業の)スキルやノウハウがなく、サポートもないので実施が難しい』といったお話を伺いました。

 また、『アンケートを取ったところ「少数ながらスマホやタブレット、パソコン、Wi-Fi環境などが整っていない家庭がある」という理由で実施されなかった』という話も聞いています。これは、日本の公立校は「生徒全員が受けられないものはやらない」という判断を下すためです。

 結果、新しく習う範囲にも関わらず「プリントを配って生徒に自主的に解かせる」という非常に無機質な対応になりました。さまざまな保護者とお子さんに、臨時休校中の感想を聞きましたが、家でやると苦痛で仕方がない、辛すぎて泣けてきたと。習ってもいないのにいきなりプリント問題を解かせるので保護者の負担が大きいし、子どももせっかく新しいことを学ぶのにただのプリントではまったく楽しくなかったそうです。

文部科学省「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について」より

―― 公立学校では、私たちが考えているような同時双方向型のオンライン授業は十分できていなかったということですね。

高橋 私立中学・高校でも4割いかなかったようです。やはり環境整備に課題があります。多くの公立学校が再開した6月以降も、週に1回の登校日に2時間授業を受けてオンライン授業は週に6コマしかないという私立中学もありました。全体として私学の対応が早かったことは確かですが、そもそも子どものパソコン所有率がG7で一番低いという「実績」は伊達じゃないな、と感じました。

―― 親戚の子どもが私立の中学校に通っていますが、オンライン授業はできていませんでした。週1回の登校と、あとはもっぱらプリント学習だったようです。

高橋 それらに加えて法律上、オンライン授業は標準時数――学校で1年間に実施する授業時間数――に入れられません。

 というのも、オンライン授業はリアルでのフォローがあって初めて標準時数としてカウントするという取り決めがあるためでして、『いくらオンラインで頑張ってもなあ……』と、非常に腰が重かったのです。もっとも、文科省からはこれを機にオンライン授業の一部を標準時数として認めることにしていきたい旨が発表されているのですが……(編註:その後デジタル改革担当相からも同様の発言があったものの、文科相はオンライン授業のカウントは考えていないと発言)。

 学校側も色々厳しい状況はあるのだろうなとは思うのですが、それが標準時数に入れられないとしても、生徒と先生のコミュニケーションに使うだけでもよいのでは、という感覚はありました。対して塾などは取り組みが素早かったので、あっという間に多くの塾がオンライン対応しまして、子どもたちも「授業がなくなるよりは良いよね!」と素直に受け入れられたようです。他の習い事、たとえばバレエや語学、楽器のレッスンをオンラインで受けることができて良かったという話も聞いています。

 文科省もオンラインで学べるシステムを今年、開発を始めるそうです。

―― あ、これから始めるんですね……。

高橋 はい。今年度中に実証研究をスタートさせ、早期に本格スタートするそうです。2023年度までを予定していた一人1台目標でパソコン・タブレットを配布を2020年度中に前倒しすることになりましたが、まだできていませんね。もしそれが間に合っていれば、ご家庭に配布することによってオンライン授業対応できたのではないかと思うので、ちょっと残念なところが浮き彫りになったというのはあるのかなと思います。

 ただ、多くのお子さんにとってオンライン授業は初めての体験で、非常に面白い、楽しめたという声は多かったですね。低年齢から始めることで地域格差、教育格差、親の年収などにによらず、学びたい子が学びたい場所で、自由に学べびたいものを学べるようになると私は思っていますので、個人的に発信しているところです。

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