コロナ禍がいまだ治まらない昨今、リモート環境でのスムーズなコミュニケーションは事業遂行にクリティカルな意味を持っている。特に多言語環境でのディスコミュニケーションは、背景にある文化的な違いも相まって、チームに致命的な影響を及ぼすことがある。
株式会社キアラが開発・販売するのは、ビジネスチャットツールSlack上で動く自動翻訳チャットボット"Kiara"。商社の海外赴任時における仕事上のパーソナルペインから得た着想で、グローバルビジネスを加速するツール"Kiara"をプロデュースする株式会社キアラの代表取締役の石井大輔氏に話を伺った。
Slackでの多言語コミュニケーションを支援する"Kiara"
"Kiara"は、同時接続数が1200万人を超えるビジネスチャットツールSlack上で動く自動翻訳チャットボットだ。
Slackを使い慣れた人なら1分もかからずにインストールが完了する。インストール後、チャンネルにチャットボットの@Kiaraを招待し、使用する言語を指定するだけで、各人が入力したメッセージに対して設定された各言語で翻訳してくれる。いわば翻訳専門のアシスタントがチャンネルに常駐しているようなものだ。翻訳速度も十分早く、思考を妨げられることもない。
対応する言語も100種以上あり、1つのチャンネルにいくつでも登録ができる。使わなくなった言語を削除することも簡単で、Slackの中でポップアップウィンドウを出して操作がワンストップでできる。そういった使いやすさにこだわったと石井氏は強調する。
石井氏は機械学習AIのコミュニティー「Team AI」を2016年から運営している。"Kiara"はそこからの知見と、石井氏自身がサラリーマン時代に体験した個人的な苦労から着想を得て開発を行ったものだ。
「大手商社のアパレル部門に所属し、イタリアのミラノ市に駐在していました。そこでは毎日200通を超えるメールが来て、1日7~8時間は翻訳に費やすなど本当に消耗してしまった。本来ならお客さんとの商談に費やしたい時間を翻訳にとられてしまった。
自分で会社を立ち上げてコンサルティングを行うようになった後、IT業界やアカデミアなどにも同じような悩みを持っている方が大勢いることに気付きました。そこでミラノ時代の苦労を思い出し、"Kiara"を開発しようと思いたったのです」
最初は無料でSlackのアプリストアに掲載したが、それを使ったユーザーから、「頼むからお金を払わせてほしい。無料だといつかなくなってしまうと困る」と言われたことが事業化につながったという。
「例えばベトナムでオフショアの開発を行っている会社で"Kiara"を使っていただいている。ベトナムのエンジニアと日本の担当者がともに不慣れな英語でコミュニケーションを取っていたが、今では企業の枠を超えたコミュニケーションに利用していただいている。また、オープンソースやコロナウィルス関連のハッカソンでも使っていただいていて、Slack上で世界中をつなぐコミュニケーションツールになっている」
各種コミュニケーションプラットフォームでの拡大目指す
"Kiara"はSlack向けのアプリとして開発されたが、当初Slack社とのビジネス上の関係はなかったそうだ。しかし"Kiara"のリリース後にコンタクトを取ったところ、タイミングよく2019年4月のSlack社のグローバルカンファレンス直前に同社CEOスチュワート・バターフィールド氏に時間をもらってピッチを行うことができた。ちょうどSlack社もアプリのエコシステムを拡げようとしているところで、キアラ社も人脈などを拡大することができたと石井氏。
「(今後の成長に関しては)Slack以外のコミュニケーションプラットフォームも考えています。例えばMicrosoft Teamsもそうだし、GmailやOutlookなどのEメールも。コミュニケーションにおける様々なボトルネックを解消していきたい。また弊社は自然言語処理のAIベンチャーだが、Text to Speechなど翻訳以外の自然言語処理の分野にも手を拡げていきたいと考えている」
2020年8月に発表された6000万円の資金調達では開発チームを増強。6人のメンバーは、タンザニア人、バングラデシュ人、アメリカ人などで、タイムゾーンも4つあるグローバルな開発組織が立ち上がったという。
またキアラ社は翌9月にポーランドの音声認識サービスAudiorifyを買収した。立ち上がって間もないITベンチャーによる海外企業M&Aだが、商社勤務時代にそのような事例を見てきた石井氏にとって、驚くにはあたらないことのようだ。
「商社勤務時代に間近で見た海外大手アパレルにおけるM&Aによる成長や変化にインスパイアされています。これは私のスキルの一つでもあるので、良い意味で株主にも説明できて確実にベネフィットがあるというところは積極的に仕掛けていきたいです」
「弊社の最大の強みはTeam AIという8000人のコミュニティメンバーがバックにいるというところ。100人でも200人でも機械学習の最先端の人が来てくれる会社を作れる。そこにチャレンジしていきたい」
同社はAI技術の研究・開発で世界に飛び出し、グローバルのコミュニケーションをよりつなげることを目指すという。
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