評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
チック・コリアの6年ぶりのソロ・ライヴ・アルバム。モーツァルト、モンク、ジョビン、スティーヴィー・ワンダー、そして自身のオリジナルまで、西洋音楽とジャズ、POPSの作曲家の系譜を探求した。「2つの曲を並べて弾くのがとても面白いです。まずはモーツァルト、つぎにガーシュウイン。この2つはとても合います」とのMCで始まり、ピアノの音を観客に歌わせるという芸の音からは、まるで今、聴いている自分が、その場に立ち会っているような臨場感を感じる。
そして始まるチック・コリアのモーツァルトのへ長調ソナタの第2楽章「2.Mozart: Piano Sonata in F, KV332」は、メジャーの燦めきとマイナー部の哀しみの感情対比がダイナミックだ。後半は少しジャズ風に崩す。対比として次ぎに演奏されたガーシュウイン「3.Someone To Watch Over Me」は、チック・コリアの本領が発揮されたジャジイな雰囲気を満喫できる。
音もたいへんよい。3つの会場で録音されているが、会場により音のキャラクターが少し違うのが面白い。アメリカ合衆国フロリダ州クリアウォーターのキャピトル・シアターは、響きも多いが直接音が主体で透明感があり、ひじょうにクリヤー(2018年8月17日)。パリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトンは、きらきらとした輝きが、チック・コリアのピアニズムをより深く演出する(2018年4月26日)。ベルリンのアポステル・パウルス教会はピアノの尖鋭さと教会ならではの深い響きが両立している。ピアノの立ち上がり/立ち下がりが鋭い(2018年4月28日)。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Concord Jazz、e-onkyo music
『シャコンヌ』
チェロ・クァルテットK,、安田謙一郎、藤村俊介、宮坂拡志、木越洋
冒頭からテンション感に溢れた合奏だ。4つのチェロの重音の衝撃は、「シャコンヌ」のようにニ短調の悲愴的な和音で始まる場合はならおさらだ。ライナーに「同門ゆえの統一された奏法が醸し出す響きは圧巻」とあるが、まさにこの指摘どおりのコンセプト的にも、奏法的にも同じ方向へ向かう奏者だからこその、音楽的な充実感、緻密さに感動。
録音もマイスターミュージックらしく、倍音の響きの豊かさと直接音の明瞭さが両立した素晴らしいもの。「9. J.S.バッハ G線上のアリア」は、さまざまな編曲があるが(マイスターミュージックにも同曲だけの多種演奏を収めたアルバムもある)、チェロだけの響きは深く、心に染みいる。ベースの低音、ハーモニーも中音、旋律の高音を出せるチェロだからこそ、成り立つ合奏だ。横浜みなとみらいホールで2020年3月10日、11日にPyramixで録音。
FLAC:96kHz/24bit、192kHz/24bit、384kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit、192kHz/24bit、384kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music
『ベートーヴェン: ヴァイオリン協奏曲』
ダニエル・ロザコヴィッチ、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ワレリー・ゲルギエフ
ドイツグラモフォンのベートーヴェン記念年のヴァイオリン協奏曲新録音は、ダニエル・ロザコヴィッチ。2001年ストックホルム生まれ、8歳で公式デビュー、15歳でDGと専属契約を結んだ天才ヴァイオリニストだ。これが3番目のアルバム。
ライジングスターのベートーヴェンのバックにゲルギエフ/ミュンヘンフィルを充てるとは、これ以上考えられない最高のプロデュースだ。ゲルギエフを相手に一歩も引かない若者のベートーヴェンは見事、喝采もの。19年12月の最新録音だけあり、音質も素晴らしい。オーケストラの拡がり、質感が実にクリヤーに聴け、センターに位置したヴァイオリンの音がホール一杯に拡がる様は感動的。オーケストラも豊かな奥行きを持つ。オーケストラもヴァイオリンも演奏の様子が極めて明瞭に聴けると同時に、ソノリティの拡がり、深みも同時に味わえる。2019年12月、ミュンヘンのガスタイクホールで録音。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon(DG)、e-onkyo music
『This Dream Of You』
Diana Krall
ダイアナ・クラールの3年ぶりのソロ・アルバム。ダイアナ・クラールはフレーズに込める感情の濃さでは、あまたの歌手を圧倒的に凌ぐ。この未公開音源アルバムでは、そんな悶えるような感情感がたっぷり聴ける。
「1.But Beautiful」 の冒頭「LOVE IS FUNNY OR IT'S SAD♪」には、深く心を打たれる。「3.Autumn In New York」の「Autumn In New York♪」を一言聴いただけで、秋のニューヨークの景色が、目の前に浮かぶ。音も素晴らしい。大きな音像のヴォーカルは、少しの息継ぎまでこと細かに、丁寧に捉え、鮮明で尖鋭だ。バックのピアノ、ベース、ドラムスも音像が立ち、実に明快。レコーディングはロサンゼルスのCapitol Recording Studios。エンジニアは巨匠が担当した。音の透明感、優れたセパレーション、そしてリズムの躍動感というアル・シュミットの音の美質が、100パーセント発揮されている。
これだけの充実したテイクがお蔵になっていた。今回、蔵出しのチャンスがあったことを、ファンは感謝しなければならない。
FLAC:44.1kHz/24bit、MQA:44.1kHz/24bit
Verve、e-onkyo music
『プレイバック・アット・ジャズ喫茶ベイシー』
ヴァリアス・アーティスト
あこがれの岩手県一関市の「ジャズ喫茶ベイシー」のJBLスピーカーの実際の音を録音し、ベイシーで聴く体験がハイレゾで、自宅で味わえるという超ユニークなアルバムだ。映画『ジャズ喫茶ベイシーSwiftyの譚詩(Ballad)』の撮影時の音源をハイレゾどマスタリングしたもの。 ベイシーのシステムは、ターンテーブルがLINN Sondek LP12、トーンアームがSME 3009 Series II improved、カートリッジがSHURE V15 Type III、プリアンプがJBL SG520、パワーアンプJBL SE400S、スピーカーがJBL 2220B×2(ウーファー)+JBL 375+537-512(ミッド)+JBL 075(トゥイター)。このスピーカーの再生音を、スピーカーの前に立てた、マイクNEUMANN U87×3、NEUMANN KM185×3の6本のマイクで拾い、ナグラのラインアンプを経由して、ProToolsに録音。
では偉容の音とはどうなのか。マスタリングを手掛けたSTUDIO Dedeの吉川昭仁氏に話を聞いた。前のダイアナ・クラールもマスタリングはSTUDIO Dedeだった。世界的に大活躍だ。
「映画なのでもともとは5.1チャンネルでしたが、マスタリング時に2ch化しました。収録時期がバラバラで、使用したソースが5.1チャンネル用マスターであったため、この作品を手掛けるにあたり、伝統的なベイシーで聴いているスピーカーからの迫力を感じられる音に作り込むことが必要だと感じました。もう一度ベイシーのスピーカーから鳴っている迫力が伝わるよう、まずリマスタリングという工程を踏みました。
そのリマスタリングを施した音を、DSDでは11.2Mのdffで取り込み、そこからWEISS社と共同で開発した当社オリジナルのサンプリングレート・コンバーターで2.8M dffにダウンコンバートし、1度もDXDを使用せずにDSDのプラットフォームだけで編集を行いました。CD用のPCMは、11.2Mからアナログに出し、アウトボードのみ使用して96kHz/32bitでCDに合ったレンジでもう一度マスタリングしています」。
ベイシーのアナログサウンドの雰囲気はよく伝わってくる。「10. ジャズ喫茶ベイシー ルームトーン」が無音で、空気の流れだけを聴くというのも、なかなかシュール。「ジャズ喫茶ベイシー」のファンにはたまらないだろう。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
『Lang Lang at the Movies』
Lang Lang
ラン・ランはここまでレパートリーが広いのかと、驚く映画音楽アルバムだ。自身が演奏で参加した「マリリン 7日間の恋」「カンフー・パンダ3」をはじめ、モリコーネの「ヘイトフル・エイト」、ハンス・ジマーの「グラディエーター」「マン・オブ・スティール」など近年の話題作から、「ティファニーで朝食を」「ウエスト・サイド物語」「マンハッタン」など名画の数々を弾く。
「2.Gladiator Rhapsody (From "Gladiator")」は、映画では闘技場シーンでの深い旋律が大オーケストラで堂々と奏される音楽だ。ラン・ランは、哀しみの感情を湛え、大きな起伏で、奏する。「007 死ぬのは奴らだ」から 「3.Live and Let Die」は、2CELLOSとの協演。曲芸的なラン・ランのピアノは、2CELLOSのある時は優しく、ある時は凶暴になるチェロサウンドと、華麗に融合する。
「7.Moon River (From "Breakfast at Tiffany's")」は、「21世紀のビリー・ホリディ」と呼ばれるフランスで活動いているベテランジャズシンガー、マデリン・ペルーとの協演。優しく、雰囲気の良いピアノに導かれ、マデリン・ペルーが味わいの深いヴォーカルを歌い出す。間奏はボトルネック奏法のエレクトリックギター。ヴォーカルと同じく、大きな音像でフューチャーしている。「9.Piano Sonata No. 11 in A Major, K. 331: III. Rondo alla turca」はまさに中国雑伎団的猛スピードだ。
相手が多く、さまざまなスタジオでレコーディングされているが、総じて録音の水準は高い。どれもゲストの音像はしっかりしている。
FLAC:44.1kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music
『Bruckner: Symphony No. 7』
Münchner Philharmoniker & Valery Gergiev
ゲルギエフ&ミュンヘン・フィルのリンツは聖フローリアン修道院でのブルックナー・ライヴ。ミュンヘン・フィル自主制作録音だ。今月はベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲もゲルギエフ・ミュンヘンフィルとの協演だったが、同じコンビネーションでも、音調は全然、違うのが面白い。ガスタイクホールで録音したベートーヴェンは高解像度でクリヤー、明晰。一方、聖フローリアン修道院でのブルックナーは量感が雄大で、パースペクティブが広大だ。比較的遠い距離からその間の濃密な空気を介して聴いている雰囲気だ。ブルックナーならでは悠々たる音の流れ、低音の量感、雄渾な調べが、ひしひしと迫って来る。2019年9月25-26日、リンツ、聖フローリアン修道院でのライヴ収録。
FLAC:96kHz/24bit、MQA Studio 96kHz/24bit
MUNCHNER PHILHARMONIKER GBR、e-onkyo music
『ベートーヴェン: 交響曲第7番、レオノーレ序曲第3番』
サイトウ・キネン・オーケストラ、小澤征爾
2016年の『セイジ・オザワ 松本フェスティバル』(OMF)でのライブ収録。サイトウ・キネン・オーケストラのユニバーサル・ミュージック作品のサウンドには、一貫して「明確・明晰」というキャラクターがある。細部までバランスよく解像し、低音重視のピラミッドサウンド、そして奥行きまで明瞭に見えるナチュラルな音場解像……という特徴は今回の録音でも不変だ。推進力の強い第1楽章、哀しみが引き摺る第2楽章、アクセントが強調される第3楽章、驚喜と乱舞の第4楽章……と、ベトヒチの魅力がたっぷり堪能できる。カップリングは2017年OMFのレオノーレ序曲第3番。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music
『Bach Parallels』
Makoto Nakura
演奏・名倉誠人/プロデュースとエンジニアリング・入交英雄のコンビの最新作品。かつて名倉氏のマリンバのライブ収録現場を訪れたことがあるが、その驚異的なテクニックと、音が大会場に拡がり、響きが渦巻くという体験は記憶に鮮明だ。今回は2チャンネル版を聴いたが、分厚い響きの中に、ビブラフォーンとマリンバが煌めくサウンドを発する様は、十分に昂奮的に聴けた。e-onkyo musicでは2チャンネル、2チャンネルMQA、5.1チャンネル( Auro-3Dを内包)、HPL……と、現行のすべてのフォーマットにてリリースされた。ミキシングはベルギーのAuro-3Dの開発スタジオ、ギャラクシー・スタジオで行った。2016年12月、 2019年9月、東京カテドラル大聖堂、2018年3月、軽井沢大賀ホールで録音。
FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit、MQA Studio:192kHz/24bit
5.1ch flac 96kHz/24bit、5.1ch WAV 96kHz/24bit、5.1ch Dolby HD 96kHz/24bit
Evosound、e-onkyo music
超レアなアナログ録音作品だ。ジャズの巨人、セロニアス・モンクの未発表ライブ音源だが、なんと録音したのは、高校の用務員(!)。1968年10月、カリフォルニア州のPalo Alto高校でのモンクのライブを、当校の用務員が録音したものである。そのオープンリールテープはライブを企画した当時の高校生の自宅の屋根裏で保管されていた。68年当時、赤井電機やナカミチの前身のFIDELAのオープンリールテープレコーダーが、PX経由でアメリカに多く渡っていたから、こんな奇跡も可能だった。高校所有のテープレコーダーかもしれない。そのテープが最近、発見された。完全未発表の全6曲だ。
「学校の用務員が録音したテープ」だから……と、あまり期待しないで聴いたが、凄くヴィヴットではないか。スネアのブラシの音が大きく聞こえ、サックスの低音が少し不足するなど楽器ごとのバランスが少し乱れるが、楽器の前に堂々と、ステレオのマイクを置いて録ったことが分かる生々しい鮮度感だ。演奏の質は、高校ライブだからといって、まったく手抜きをしない水準の高さ。拍手の音も生っぽい。
FLAC:44.1kHz/24bit
Legacy Recordings、e-onkyo music
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