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手つかずだった野菜の自動収穫に挑む

自動野菜収穫ロボットが農家を救う! 人手不足解消と生産性アップを目指すinaho

2020年11月04日 09時00分更新

 経済産業省が、ハードウェアをはじめとした独自のプロダクトの量産に向けたスタートアップ支援「Startup Factory構築事業」。そのなかで、昨年度からスタートした「グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業費補助金(ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業)」の本年度採択事業者が、執行団体である一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)による審査の結果、9つの事業者が選ばれた。

 そこで6回に渡り、採択された6つの事業者をピックアップ。「スタートアップ×ものづくり」の意気込みや課題、将来の展望について伺った。4回目の今回は、これまで難しいとされた野菜を自動収穫するinaho株式会社のロボットだ。代表取締役の大山宗哉氏にお話を伺った。

“たまたま”が重なって農家を助ける事業に

お話を伺った、代表取締役の大山宗哉氏。共同代表の菱木豊氏と一緒にiroha株式会社の舵取りをしている

 農業を手助けするロボットを生み出したのは、偶然の出会いが重なってその都度正しい方向へ進んでいった結果だった……。共同代表の1人、大山宗哉氏は現在サービスを提供しているアスパラガスの自動収穫ロボットの開発に至った経緯を語った際、「たまたま」という言葉を何度も口にしていた。

 inaho株式会社は2017年1月に設立。本社は神奈川県鎌倉市にあるが、ロボットの導入拠点として佐賀県の佐賀市と鹿島市にある。もともと共同代表である菱木豊氏も大山宗哉氏も別の会社を経営していたが、それとは別に、人に役立つためのお金にならないようなプロジェクトをやる会社をつくろうと、inahoの全身となる会社を起ち上げていた。喜んでくれる人がいたり、困っている人がいたりしたら、あまりお金にならず時間だけが奪われるようなことでもノリで取り組んできたという。

 そんなとき、たまたま鎌倉で農業を営む友人に、米国の企業が動画を公開したレタスを自動で間引くロボットの話しをしたところ、雑草を取るのが大変だからロボットを作って欲しいと頼まれたのが、現在の農業用ロボットを開発するキッカケとなった。ちょうどディープラーニングについて勉強しており、野菜と雑草を見分けられればロボットでできると考え開発に着手した。

 しかし、調べていくと雑草は20種以上あり、地域で違いが生じることが判明。さらに、雑草を抜いている時間は、農作業全体のうち10%程度。それに対して収穫が自動化されていない野菜は、収穫の時間が50~60%と圧倒的にペインが大きいことが、農家のヒアリングによって明らかになった。

 大山氏は「福岡で雑草除去ロボットの話しをしたとき、たまたまアスパラガス農家の方が、雑草もいいけどアスパラガスを収穫してほしいと頼まれ、見に行って実際に体験したところ非常に大変なことがわかりました。雑草除去はすぐには難しいので、より多くの人が困っている野菜の収穫に取り組んでいこうと、方向転換しました」と経緯を語った。

 農業は人手不足に苦しんでいる。たとえば、アスパラガスの収穫期間は長く、2月から4月、6月から10月末まで。農家としては、この期間だけ人を増やしたいが、やってくれる人は少ないのが現状だ。農業人口も現在は155万人いるが、10年後には73万人になると予想されている。平均年齢も約67歳で、40代でも若手と呼ばれるほど。収穫作業がどのくらい負担になっているかは想像に難くない。

 また、産業別の就業中の死亡事故は農業が一番多いとのこと。ロボットが普及した世界になれば、そういうことも解決されるのではないかと考えているという。「農業を持続可能な産業にするために、ロボット化は重要」と大山氏は強く訴えた。

 たとえば、アスパラガスの場合、25cmや27cmなど地域によって出荷基準は異なるが、それより短かかったり大きかったりすると出荷ができなくなってしまう。しかも1日に10cmも伸びてしまうためこともあるため、1日2回収穫する農家もいるという。収穫の手が足りないと、伸びすぎて出荷できなくなってしまうが、ロボットによる収穫が実現されれば、そんな心配は低減されるだろう。さらに、自動化によって空いた時間は、販路拡大のための営業活動だったり、野菜がよりおいしくなるような研究開発に時間を割けるようになる。

 こうしてスタートした収穫ロボットの開発は決して順調ではなかった。当初は一部上場企業へ認識するソフト部分を発注し、アームとグリップ部分を国立大学と共同で開発を行なった。しかし結局うまくは行かなかった。彼らがやっていたことは、実験室の中や工場のラインなど、整った環境下での作業。屋外や自然の中だとまったく勝手が違い、自分たちが頭を使って考えないと難しいと気がつくのに1年半も要してしまったという。

 さらに、こうしたハードウェアのプロジェクトに対して、投資家の人たちは正しく評価することは難しく、儲からなさそうだし、時間も掛かりそうだしということで、資金調達も難航。資金が底をつきかけたとき、「たまたま入社したエンジニアが、『絶対うまく行かないです』と言いながら一人でつくり始めて、一気に開発が進んだことで、現在のロボットの形になりました。彼が現れなかったら、このインタビューも受けていなかったでしょう(笑)」(大山氏)。現在は自社でソフトもハードも開発している。

 じゃがいもや人参、お米などロボット(機械)によって収穫できている作物もあるが、アスパラガスやきゅうり、トマトなどまったく進んでいない作物はまだまだ多い。その要因の1つが、画像認識のハードルが高かったこと。写真を撮るときに逆光と順光で見え方が変わるように、晴れの日、雲りの日、雨の日、さらに時間帯でも認識の精度が変わってくる。さらに風が吹くと葉っぱが揺れるため、作物が見えづらくなることも。人間なら簡単に見分けがつくことも、ロボットだとそれらを克服する必要があったのだ。

inahoが収穫ロボットで目指している領域は、ピンク色で囲まれた野菜

RaaSモデルの採用で、ロボット利用の初期投資は不要

 2019年10月より自動野菜収穫ロボットのサービス提供を開始している。無料で貸し出して、収穫高に応じた利用料金を支払うRaaS(Robot as a Service)モデルを採用。ロボットは、随時アップデートしていくため、農家は常に性能が向上した最新のロボットを稼働させて自動収穫が行なえる。

利用料は市場の取引価格×重量の一部。収穫量が少なければ利用料も下がるので、農家の負担を軽減している。さらにロボットは常にアップデートされるため、都度最新版を購入する必要もない

ロボットは白いラインに沿って自動走行しながら、作物と作物意外を識別して、出荷基準を満たした作物だけを収穫する。ロボットアームでアスパラガスを掴んでカッターで切断。収穫したアスパラガスはかごに収納していく

 実証実験を始めた当初と比較して、収穫の成功率は大きく改善することができている。

 今後、多くの農家でロボットが稼働することで、大量のデータを収集し、それをもとに生産予測や病害虫の早期発見ができるようにしたいとのこと。さらにアスバラガスだけでなく、きゅうりやトマトといった違う作物に対しても大幅なカスタマイズする必要なく動作できるようにする予定だ。

 ものづくりスタートアップの第1期に引き続き第2期も採択された。「昨年は、量産一歩手前までやることが目標で、30台ぐらい制作しました。今回は、安全性、環境耐性、コスト低減の実現に向けた量産化設計・試作を行ない、プロダクトマーケットフィットを目指しています」(大山氏)。

 農業にもDXの波がきているが、本プロダクトでもテクノロジーがもっとバリューを出せるように畑側の改革に取り組みたいと大山氏は語る。「農業をより儲かる産業にするためには、農業のやり方を変えて、テクノロジーによって何倍もレバレッジが効くようなやり方に変える必要があります。たとえば人間ではなくロボットが作業する前提とした収穫しやすい野菜の育て方を農家さんと一緒にやっていければ、同じ人数で今よりも5倍、10倍の面積で生産でき、お互いハッピーになれます。新しい生産の仕組みを作っていきたいですね」。

 海外でも野菜収穫の自動化は進んでいない。オランダは、国土面積は日本の9分の1でトマトの生産者は71分の1だが、生産量は日本の1.2倍と非常に効率が高い。それでも収穫はすべて手作業で近隣諸国からの労働者に頼っている状況だ。inahoはこのオランダでの事業展開も考えているという。

 最後に大山氏は、「会社を辞めて逃避先として地方で農業をやるというのではなく、ビジネスとして農業をやって、めちゃくちゃ儲かるという人を増やしていきたいですね」と将来のビジョンを語った。

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