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「スマホとクルマをつなぐSDL対応アプリを作る」オンラインハッカソン

SDLハッカソンをオンラインで開催。その成果はアプリ15作品!

2020年09月09日 12時00分更新

今回のオンラインハッカソンで使用したツール。普段使い慣ればものばかりで、特殊なツールはあえて使っていない

ハッカソンもオンラインでできる!

 ハッカソンというと、エンジニアを中心として、デザイナーやプランナーといった参加者が1つの会場に集まり、チームを作って意見をやりとりしつつ、モノを作るというのが当り前だった。しかし、昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による影響で、リアルな場に不特定多数の人が集まるのは、なかなか難しくなった。

 けれども、今やオンラインでの打ち合わせは当たり前の選択肢になり、オンライン飲み会はむしろすでにブームが過ぎつつあるくらいで、あらゆるものがオンラインで行われるようになった。ならば、ハッカソンもオンラインでできるのではないか?

 スマートフォンと車をシームレスにつなぐ規格、「スマートデバイスリンク(SDL)」。そのSDLに対応するアプリを開発するハッカソンが、8月1日・2日にオンラインで行われた。オンラインでのハッカソンはどのように行われ、どんな成果があったのだろうか?

 

ツールはなるべく使い慣れたものを

 今回の「SDLアプリチャレンジ2020(オンラインハッカソン) スマホとクルマをつなぐSDL対応アプリを作る」は、現在開催されている「SDLアプリコンテスト2020」の実行委員会が主催し、すでにオンラインハッカソンの実施実績のある、広島を中心としたエンジニアリングコミュニティHMCN(Hiroshima MotionControl Network)の協力のもと実施された。

 オンラインハッカソンがどのような環境で行われたかというと、昨今、いろいろなオンラインツールが出ているが、実は特別なものは使用していない。ツールの使い方で混乱が生じたり、サポートする必要が発生することを避けるため、なるべく使い慣れたもので行おうと、主に以下のような構成だった。

・メイン会場はZoom
・Zoomのブレイクアウトルームで、チームごとに開発
・アイデア出しや投票、質疑、メンター予約などはGoogleドキュメント
・運営からのお知らせや技術資料の共有、技術サポートなどはSlack

 2日間のハッカソンのスケジュールだが、まず初日の冒頭にSDLについての技術解説があり、続いてアイデア出しとチームビルディング。そして1日目の昼から2日目の夕方までが、チームでの開発時間となり、2日目の夕方に表彰式が開催された。

【1日目】
時間 内容
9:30 ログイン開始(Zoom)
10:00 オープニング/概要説明
10:15 SDL技術解説
 a)SDL概要
 b)SDL開発環境の使い方
11:30 チームビルディング
12:30 ハッキングスタート(チームごと)
15:50 メンタリング
18:00 中間進捗報告
18:10 1日目終了
 
【2日目】
時間 内容
9:00 ハッキングスタート(チームごと)
16:00 プレゼンテーション
17:00 表彰や講評など
17:30 オンライン懇親会
 

審査基準はオンラインでも変わらない

 オンラインハッカソン「SDLアプリチャレンジ2020」は、SDLコンソーシアム(自動車メーカー9社等で構成される、SDLの推進団体)日本分科会を代表して、トヨタ自動車株式会社ITS・コネクティッド統括部 コネクティッド戦略グループ 久米 智氏の「こういうときこそ、アイデアを出し合って新しい時代を乗り越えていきたい」というあいさつで、開始された。

 今回のハッカソンは、SDLコンソーシアムに所属する自動車メーカーから4社(トヨタ自動車、スズキ、ヤマハ発動機、いすゞ)の担当者と、タレントでエンジニアでもある池澤あやか氏、SDLアプリコンテスト実行委員会から角川アスキー総研の遠藤諭氏の、計6名が審査員として審査。

 なお、審査基準については、オンラインだからといって通常のハッカソンと大きく異なることはなく、以下の5点が示された。

・SDLの特徴を生かしているか
・他にないユニークなアイデアであるか
・作品の完成度は高いか
・実現性を含め、今後の進化に期待できるか
・デモンストレーションに作品の表現力、ライブ感はあったか

 また、技術メンターとして、MomoのCTO田中雅也氏、アナザーブレイン代表の久田智之氏、オルトアの市川雅明氏、HMCNの尾石元気氏の4名がオンライン上で待機。参加者は、Googleスプレッドシートで予約するなどして、個別にZoomのブレイクアウトルームでメンタリングを受けることが可能だ。

 

Googleドキュメントでアイデア出しとチームビルド

 ハッカソンを行うにあたって、最初に実施するアイデア出しとチームビルドの流れ自体は、基本的にオフラインのときと変わらない。だが、ZoomやGoogleドキュメントなどを使って、それらをすべてオンライン上で行った。

ハッカソンで重要となるのが、アイデア出しとチームビルディングだが、今回はそれをGoogleドキュメントとZoomで実施

 まずは1人1個ずつアイデアを出す。ZoomとGoogleプレゼンテーションを使って、それを各々1分間でプレゼン。そうやって30個近いアイデアが出されたら、どのアイデアが良いか、Googleフォームで用意された投票フォームを使って全員で投票し、8つのアイデアが選ばれた。


このように、個々のアイデアはGoogleプレゼンテーションへの簡単な記述でまとめ、賛同者を募る

 この8つのアイデアに対して、自分が参加したいものを選び、チームを組成。ここからはZoomのブレイクアウトルームに移り、それぞれのチームによるハックが開始された。なお、このほかにも、最初からチームもしくは1人で参加・開発していた人たちや、途中からの参加者もあった。

 

プレゼンされたアプリは14+α作品!

 1日目のお昼から2日目の夕方にかけては、ひたすら各チームでSDL対応アプリを作り込む。Zoomのブレイクアウトルームが用意されていること、途中で中間報告をする必要があることを除けば、その方法は各チームの裁量に任される。上述のように、随時メンターによるメンタリングも受けつつ開発は進められた。

 そして、2日目の夕方には、作り上げたアプリを発表。アプリの完成度はもちろんだが、このプレゼンテーションも審査の対象になるので、非常に重要となるのだ。

 発表順については以下の通りで、最終的には14作品+αのアプリが出来上がった。ここからは、各作品について見ていこう。

今回プレゼンされた14+1作品

【番外】TAXI風燃費シート

 いきなり番外だが、まずはお手本ということで、メンターの市川氏による「TAXI風燃費シート」がプレゼンされた。これは、車の情報をSDLで取得し、そのデータから燃費を計算して、目的地到達後にTAXI風のレシートに燃費を印刷するアプリだ。

TAXI風燃費シート

キリ番お祝いアプリ

 自分の車の総走行距離がキリ番になったときに、カーナビの画面でお祝いしてくれるアプリ。1km前からカウントダウンもしてくれる。

キリ番お祝いアプリ

Direct-Communicator

 スピードメーターやタコメーター以外の情報を色で表現して、ドライバーに伝えるアプリ。

Direct-Communicator

Kuruma ni Dengon

 運転中の相手に、スマホからメッセージを送るアプリ。送られたメッセージはリアルタイムに音声で読み上げられる。

Kuruma ni Dengon

バーチャルガイド

 バスガイドさんのように、ランドマークについていろいろと教えてくれるアプリ。単なる道案内ではないので、移動途中でも楽しめる。

バーチャルガイド

The 直進君

 直進をずっと運転していると、眠くなりがちという統計データがある。このため、ある程度直進を続けたらポイントが貯まっていくシステムで、眠気を防ごうというアプリ。

CarPay

 自動車自体がお財布となって支払いできるアプリ。ETCのような使い方や、カーナビで支払ったりできるシステムで、暗号通貨による支払いや走行距離に応じた割引なども可能となる。

CarPay

SDL×Unity

 Unityの画面を、SDLを通してカーナビに表示。これにより、Unityで動くものなら何でもカーナビの画面に出力できるようになる。

SDL×Unity

ドライブエリア発見アプリ

 スマホ用に開発した位置情報をロギングするアプリを、SDLに移植。SDLで取得したGPS情報をもとにロギングし、周辺情報を検索したり、ガソリン残量が20%を切ったらスタンドを自動で検索したりできる。

ドライブエリア発見アプリ

アイシテルのサイン

 ブレーキランプで「ア・イ・シ・テ・ル」と5回踏むと、事前に登録していたメッセージが彼女側に届き、車内は余韻に浸るための曲が流れる。

アイシテルのサイン

Light(仮)

 ハイビームにすると、画面に表示されている「ハイビームおやじ」が踊り出す。これにより、ハイビームの点けっぱなしを防ぐ。おやじの声も踊りも、かなりのインパクト。

Light(仮)

cargamo

 複数台でドライブするときに、後続車両に先頭車両の位置を教えてくれるアプリ。Googleマップなどの指し示す場所が、目的地ではなく、先頭車両になっているイメージだ。

cargamo

「たびすけ」~人と旅をクルマで繋げる~

 人と旅を車でつなぐアプリ。旅のしおりを作ったり、ランチの場所をレコメンドしてくれたり、運転者にもポイントを与えたりして、再び旅に出たくなるようなしくみを用意。旅行経路をシェアできるので、友人に旅行プランの参考にしてもらえる。

たびすけ

安全運転したらお得になって地域活性したい奴(仮)

 安全運転の度合いによって、お得なご当地クーポンを発行。安全運転ドライバーランキングにランクインすると、その順位によってクーポンの内容が変化するアプリだ。

安全運転したらお得になって地域活性したい奴(仮)

視覚障害者の利用を想定したSDLアプリの実験的実装

 コンパネの情報を視覚障害者でもわかりやすいようにしたり、GPSを使って到着地の点字ブロック整備状況などを事前に把握できるしくみを目指して実装。

視覚障害者の利用を想定したSDLアプリの実験的実装

 

グランプリは「cargamo」!

 2日間のハッカソンを経た全作品のプレゼンのあと、審査員の審査時間が設けられ、そのあとに表彰式が開催された。まずは参加者全員の投票で決まるオーディエンス賞が発表され、これは「たびすけ」が受賞した。

 続いて審査結果が発表された。まず審査員特別賞に「バーチャルガイド」。準グランプリに、「キリ番お祝いアプリ」「CarPay」「たびすけ」の3作品。「たびすけ」はオーディエンス賞との2冠となった。そして、SDLアプリチャレンジ2020のグランプリには、「cargamo」が選ばれた。

今回のSDLオンラインハッカソン オリジナルの賞状PDFが贈呈された

 それぞれ今回のハッカソンオリジナルの賞状が、オンラインであるためPDFで贈呈され、またグランプリには3万円、他の賞には各1万円の賞金も贈られた。

 審査員を代表して、スズキ株式会社コネクテッドセンター 本社担当 部長の熊瀧 潤也氏は、「(SDLハッカソンも)第3回になって、非常にレベルが上がったというのが、審査員全員の率直な感想でした。なので選ぶのに非常に苦労したのですが、グランプリ、準グランプリに選ばれた皆さんは、その中でも新しさや楽しさを感じさせるアプリであったり、あとは事業的なものの完成度の高さをぞれぞれ持ち合わせていました。中でもcargamoは、事業レベルでもいろいろ発展させられそうだな、という期待を感じさせてくれるものでした」と締めくくった。

 今回のSDLハッカソンは、初のオンライン開催だったが、熊瀧氏の講評にもあったとおり、どれもレベルの高い作品で非常に驚かされた。ハッカソンだけでなく、SDLアプリコンテスト2020において、何らかの賞をとってもおかしくない作品ばかりだった。

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