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自動操縦×帆船のテクノロジーで環境問題を解決

海上Uberに期待 ゼロエネルギーの自動帆船ヨットを開発するエバーブルーテクノロジーズ

 エバーブルーテクノロジーズ株式会社は、風力エネルギーを動力とする自動帆船ヨットを開発するスタートアップ。2020年7月には、全長2メートルクラスのオリジナル帆船型ドローン「Type-A」の海上での自動操船と自律航行テストに成功し、漁業向けの魚群探索や観光向けのビーチクルーズなどサービス化へ向けた開発を進めている。同社が取り組むのは、再生可能な海上エネルギーを活用して、自然破壊や地球温暖化などの環境課題を解決する、という壮大なプロジェクトだ。同社CEOの野間 恒毅氏に、現在のプロジェクトの進捗や実用化への課題について伺った。

帆船×自動操船テクノロジーでSDGsを実現

 蒸気機関が発明される前の大航海時代には、人々は風の力を使った帆船で太平洋やインド洋を自由自在に行き来し、盛んに交易を行ってきた。ところが、産業革命以降は、蒸気船やディーゼルエンジンに移り変わり、地球環境に影響を及ぼしている。

 近年は大気汚染や気候変動が問題視されるようになり、陸上交通については化石燃料からEVへと変わってきているが、海上の動力船はいまだディーゼルのままだ。野間氏によると、巨大貨物船1隻の排気ガス排出量は、自動車5000万台と同等。たった15隻で、世界中の自動車の排気ガスに匹敵するという。

 環境問題は地球全体の課題なのに、広大な海上の環境汚染を放置しているのはナンセンスだ。そこで、昔からある帆船と現代の自動操縦のテクノロジーを組み合わせれば、SDGsを実現できるのでは? と考えたのが自動操縦ヨットのプロジェクトの始まりだ。

「自動操船ヨットを活用すれば、地球温暖化ガスも減らせますし、いま日本で問題となっている漁業従事者の後継者不足や漁業資源の乱獲問題などの解消にもつながります」と野間氏。

エバーブルーテクノロジーズ株式会社 CEO 野間 恒毅氏

 最初のプロトタイプは、1メートルクラスの小型ヨットからスタート。現在開発中の「Type-A」は、漁業事業者向けに、水深や風向などの海洋調査や魚群探索など情報収集を目的としたものだ。

 背景にはドローン技術を流用し、設定した海上のウェイポイント通りに自動で航行する仕組み。電力は帆の制御するためのモーターと通信系のみに使い、船は風の力で推進するため、消費電力はごくわずかだ。ドローンは数十分しか飛べないが、自動操縦ヨットなら2~8時間の連続航行ができる。

 将来的に帆船が大きくなれば、ソーラーパネルを搭載して、完全に自然エネルギーだけで稼働できるようになる。現在のテストでは、50×1メートルのソーラーパネルを搭載することで、帆の制御と通信系の電力はまかなえる目途が付いているという。

 ヨットのボディの製造は、3Dモデルを作成し、3Dプリンターで出力して自社で組み立てている。理由は、1、2メートルクラスの小さな船を作っている業者がないことがひとつ。もうひとつは、将来的には魚が食べても安全な樹脂でつくることを想定しているそうだ。

「アンパンマンのように、出航するたびに少しずつ魚に食べられて、戻ってきたら、また新しいボディに取り換えるようなイメージです」(野間氏)

無人・省エネの自動帆船で漁場のデスプマッピングを作成

 2020年7月には、2メートルクラスの「Type-A」が海上での自動操船と自律航行テストに成功。今後は事業化に向けて、ロングランのテストをしつつ、神奈川県の二宮漁場で海底調査をする計画だ。

「漁師さんに聞くと、海の中の状況はまだよくわからないことが多くて、定置網をうまく張れなかったりするそうです。そこで、Type-Aを使ってデプスマッピングして海底地形図を作る予定です」(野間氏)

 マッピングには、何度も船を往復させる必要があるが、現状は人が船を操縦して行ったり来たりして作っており、人件費・燃料費がかかってしまう。デスプマッピングや魚群探索は速さが要求されないので、無人かつ省電力で長時間稼働ができる自動帆船ヨットのメリットが活かしやすい領域だ。

現在進行中のプロジェクト

離島への渡し船や観光用の無人海上タクシー

 いずれは、30フィートクラスのヨットを目指しているが、帆船のサイズが大きくなると、係留保管するための港湾設備が必要になる。そこで、次のフェーズでは砂浜から出航できる1、2人乗りのディンギー(4~5メートルサイズ)を作り、スマホで呼び出せる無人の海上タクシーとして、離島間の渡し船やビーチクルーズなどレジャー用途での活用を目指している。

「Uberみたいにスマホのアプリで船が呼べるようにしたい。今の渡し船には、人件費や船舶の維持に相当の費用が掛かるので、よほど収益の見込める観光地でなければ成り立たない。自動帆船ヨットは無人で燃料品もいらないので、離島や小さなビーチでも気軽に導入できます」

 技術的には、造船、ドローンの自動操縦、IoTなどの既存技術を組み合わせたものだが、これまで誰も取り組んでこなかった領域だ。同社はフルタイムの社員はおらず、世界中から各分野の研究者や技術者がフェローとして参加し、コミュニティ型の開発をしている。今後も先駆者として、蓄積したノウハウと協力者とのつながりが同社の強みになっていくだろう。

 当面の目標は、有人での渡し船の実現だ。

「3~5年後には、離島へ気軽に行けるのが目標です。次に観光。葉山-江の島間を航行するサンセットクルーズを誰もが安価に楽しめるようにしたいですね」(野間氏)

 ビジネス展開としては、漁業向けのサービスはサブスクリプション型で提供し、次に、海上タクシーのプラットフォームとして全国へ広げていきたいとのこと。

 アフターコロナでは、不特定多数の人とは触れ合わず、プライベートな生活圏を望む人が増えていくと予想される。エネルギーを使わず、無人化された自動操船ヨットが実用化されれば、無人島や離島での生活も可能になってくるかもしれない。

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