求められる新規IoTビジネス
続いて、共創企業各社から、自社の事業概要と募集テーマの説明がなされた。第一交通産業株式会社は全国でもNo.1の車両台数を誇る日本最大のタクシー会社だが、実際にはタクシーやバスなどの旅客運送事業以外にも、不動産事業や介護・医療事業など、非常に多様な事業を展開している。
過去にはIoT機器とタクシーを活用した徘徊者等発見支援の実証実験を行ったことがあるなど、必ずしもタクシー事業に限った募集ではない。創業者会長の黒土 始氏自らが「イノベーション2020」銘打って新しい事業の発掘に積極的に取り組んでいる。第一交通産業株式会社の固定イメージを払拭したアイデアの登場を期待したい。
株式会社ドーワテクノスはロボット事業やプラントエンジニアリング事業が主力事業だが、今年1月から事業開発部を設立して新規事業の立ち上げに取り組んでいる。過去にはローム株式会社などと一緒に無線を活用した設備用モータの振動・温度・電流の監視IoTソリューションの開発を行った実績がある。
株式会社ドーワテクノスとの共創の際には、国内17拠点・海外2拠点の販売網や同社エンジニア部門と連携しての実証試験などが期待できる。テーマは同社と共創できそうな内容であれば任意となっているので、大手企業の開発力を求めている起業家にはぜひチャレンジしてもらいたい。
トヨタ自動車九州株式会社は他社と同様の自由テーマ(各社と共創できそうなアイデア)に加えて、同社独自の3つのテーマでも募集している。1つは工場の作業従事者を支援する機能を盛り込んだ簡易電子メモ(ウェアラブルメモ)の開発、2つ目は製造作業者の支援を行うイヤーカフで、小型カメラを搭載して状況を判断し、適切なアドバイスを提供してくれる機器の開発、3つ目は現場作業者の教育レベル向上を支援するシステムで、プロ作業者(匠)の動作パターンを解析し、それを追体験したり自分(現場作業者)との比較してくれるシステムの開発がテーマとなる。
テーマが具体的であるということは、それだけ現場のニーズが高いということであり、実現できれば早期の現場への導入や、さらには同社の自社商品としての事業化も可能性がある。この大きなチャンスをぜひつかみ取ってほしい。
株式会社ラックは、セキュアな企業インフラの構築・運用におけるリーディングカンパニーとして有名だが、最近ではスマートシティにおけるIoT機器の監視をテーマとした新規事業開発を推進している。
今回のプロジェクトでも「街や生活の中で使うIoT」を募集テーマとしており、必ずしも同社の既存事業と絡める必要はない。日常のちょっとした便利や安心・安全を提供するアイデアの創造を期待する。
各社のテーマの詳細は公式サイト(関連サイト)に掲載されているので、興味がある人は是非そちらで確認してほしい。
新規事業アイデアを募集するハッカソンやピッチイベントの多くは東京で開催されており、地方ではなかなか人を集めることができなかった。しかし、「IoT Maker's Project」はむしろ北九州市の持つ地の利を生かしたサポート体制の充実が目を引いた。他のイベントではなく、「IoT Maker's Project」に応募したいと考える起業家が増えてくるのではないかという印象を受けた。
大都会では、大学や企業が大きな力を持ちすぎるがゆえに、小規模なプロジェクトは受け入れられないケースを何度も見てきた。IoTのものづくりに特化するなど、各地方が持つリソースを活かして小回りの利いたプロジェクト支援を行なうことにより、東京ではできない新規事業の創出が可能になってくるのではないか。「IoT Maker's Project」を主催する北九州市の熱量が伝わってくるオンラインイベントだった。
IoT分野での起業を考えている人は、是非一度このプロジェクトに問い合わせをしてみて欲しい。少なくとも誰かを知っている誰かを知っている誰かにつながるきっかけにはなるはずだ。なお、プロジェクトの応募締め切りは8月24日になっている。
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