多様性は10年後の住みやすさに結びつく
最後に、吉祥寺は今現在の多様性を生み出せているか言及しておきましょう。現代社会における多様性とは、性別や年齢、人種、国籍、セクシャリティ、経験、育った環境、価値観などにかかわらず、それぞれを尊重して認め合い、活かしていく「ダイバーシティ&インクルージョン」といった言葉もあるように、より幅広い意味を持つようになっています。
もちろん、吉祥寺グランドデザイン2020でもこの問題意識を発揮されており、「吉祥寺の問題点・課題」として、インターネット社会におけるリアルな体験が価値を持つ「モノ消費から“コト消費”へ」や、2015年に国際連合総会で決議された持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえた「まちが“SDGs”で評価される」とともに、「“多様性”が新たな価値創造の原動力になる」というトピックが登場します。
具体的には、「多様性の受容」「ダイバーシティの到来」といったキーワードとともに、「異なる文化、国籍、宗教、性差、年齢、障害の有無、考え等、違いに寛容であることは、各々のシビックプライド(都市に対する市民の誇り)につながり、人を集める力と新たな価値を創造します」と言及。「異なる価値観を認め合って、これまで発展してきた吉祥寺の寛容さが、今後ますます活かされるようになります」と綴っています。
たとえば、外国人についてはどうでしょうか。吉祥寺のデータは見当たらないので、武蔵野市の人口に関する統計資料を見てみましょう。外国人の住民は2015年の1月末には2489人でしたが、2016年の1月末には2591人、2017年の1月末には2812人、2018年の1月末には3034人、2019年の1月末には3221人……と増加傾向にあります。最新の2020年6月末のデータでは、武蔵野市の全人口14万7845人のうち、外国人は3271人。全人口の約2.2%にも及びます。
一見、この数字だけを見ると、吉祥寺は現代的な意味での多様性を受け入れているように思えますが、たとえば、外国人向けの物件はそう多くありません。7月21日現在、CHINTAIで取り扱われている吉祥寺の賃貸物件の総数3066軒のうち、外国人向けはたったの64軒です。現在の吉祥寺は外国人にとっては、決して住みやすい街とは言えないでしょう。
時代とともに過去の良さの残しつつも、姿を変え続けてきた吉祥寺。今後は国籍や人種はもちろん、性別や年齢、セクシャリティ……などにとらわれず、さらに多様性を追求する必要があります。いずれ現在も歴史の一部になり、現在における多様性の追求は、10年後や20年後の地元住民にとってのさらなる住み心地の良さに結びついているはずです。明日の吉祥寺はどのような姿になるのでしょうか。
執筆中に聴いていた吉祥寺プレイリスト
締めくくりとして、記事を執筆したり、吉祥寺の街を散歩したりしながら、聴いていたApple Musicのプレイリストを公開します。Apple Musicで聴ける吉祥寺に関する楽曲を、年代順に並べました。全20曲です。気になる方は、ぜひチェックしてみてください。
参考文献など
・三浦展・渡和由研究室 著『吉祥寺スタイル 楽しい街の50の秘密』(文藝春秋)
・斉藤徹 著『吉祥寺が『いま一番住みたい街』になった理由』(ぶんしん出版)
・NHK「ブラタモリ」制作班 監修『ブラタモリ 17 吉祥寺 田園調布 尾道 倉敷 高知』(KADOKAWA)
・磯田光一 著『思想としての東京―近代文学史論ノート』(講談社)
・橋本健二・初田香成 著『盛り場はヤミ市から生まれた』(青弓社)
・土屋恂 撮影『吉祥寺 消えた街角』(河出書房新社)
・吉見俊哉 著『都市のドラマトゥルギー-東京・盛り場の社会史』(河出書房新社)
・北田暁大 著『広告都市・東京―その誕生と死』(廣済堂出版)
・リチャード・フロリダ 著、井口典夫 翻訳『クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める』(ダイヤモンド社)
・リチャード・フロリダ 著、大野和基 インタビュー・編『知の最先端』収録「第5章 オリンピックで倍増する東京の魅力」(PHP研究所)
・吉祥寺グランドデザイン改定委員会 策定「吉祥寺グランドデザイン2020」
・井の頭恩賜公園「公園について」
・武蔵野市「統計資料」
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