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日本酒ECビジネス「Tippsy Sake」を米国で起業

米国最大級の品揃えとミニボトルのサブスクで日本酒マーケット拡大に挑むTippsy

 米国の日本酒Eコマース「Tippsy Sake」を運営するTippsy, Incは、2018年11月に設立したスタートアップ。品ぞろえの豊富さ、風味の特徴や料理との相性表示など日本酒の楽しみ方のわかりやすさが受け、着実にファンを増やしている。CEOの伊藤 元気氏に、日本酒のECを始めた理由、米国ならではの苦労点やビジネスで大事にしていることを伺った。

 伊藤氏は、西本貿易株式会社に10年間勤め、ハワイ、NY、ロサンゼルスの支店で米国向けの日本食販売事業に携わっていたそう。2015年から南カリフォルニア大学(USC)に通い、MBAの取得後にTippsy.incを起業した。

 まず、ビジネスとして日本酒業界を選んだ理由を聞いた。「日本食は米国でずっと右肩上がりで伸びており、寿司は日常食として定着しています。日本食レストランには必ず日本酒が置いてあり、“Hot Sake”(燗酒)、“Sake bomb”(ビールのグラスに日本酒の入ったショットグラスを落として飲むゲーム)などが流行り、“Sake”は多くの米国人に親しまれています。ですが、日本人から見ると、まだ個別銘柄や地酒を楽しむ文化は浸透していません。日本酒は、ワインと同じ醸造酒のカテゴリーに含まれますが、米国での売上はワインの1%ほどしかない。ここに日本酒のポテンシャルを感じたことと、10年間、日本食の商社で培った知識と経験が活かせると考えたのが、Tippsy Sakeを立ち上げたきっかけです」と伊藤氏。

Tippsy, Incの伊藤 元気CEO。USCでMBAを取得後、Tippsy.incを設立

米国最大の日本酒の品揃えと、サブスクリプションで日本酒マーケットを拡大

 米国では、禁酒法時代から続く古いライセンス制度が残っており、インポーター、ホールセラー、リテーラー、レストランでそれぞれライセンスが異なる。日本酒が消費者に届くまでには、まずインポーター業者が輸入し、ワインディストリビューターに転売され、そこから各小売店やレストランへ卸す、という流れでサプライチェーンのプレイヤーが多く複雑だ。複数の業者が挟まることで蔵元からの情報が抜け落ち、バイヤーに日本酒の知識がないことも加わり、日本酒の良さが消費者へ伝わらない原因となっている。

 伊藤氏は、この問題に着目。「消費者にダイレクトに届けられるECの形なら、蔵元からの情報や各銘柄の違いを正確に伝えらえる。そう考えて作ったのがTippsy Sakeです」

 とはいえ、上述の事情から、単純に日本の蔵元から日本酒を仕入れて、直接消費者に販売することはできない。そこでTippsyでは、ロジスティックパートナーを通して米国45州への販売を可能にしている。

 「Tippsy Sake」の商品説明には、日本酒度や酸度、味の特徴、酒蔵情報などデータが表示されている。しかし、Tippsyが日本酒を仕入れている商社はこうした情報を持っていないという。そこで、蔵元と直接コンタクトをとり、細かい情報を得ているそうだ。

レーダーチャート、味やペアリングがアイコンで表示されてわかりやすい

 単純に品ぞろえを充実させても、日本酒のビギナーがいきなり四合瓶(720ml瓶)を購入するのはハードルが高い。そこで、いろいろな味を試して好みの銘柄を見つけてもらおうと、ミニボトル3本をセットにした「Sake Box」を考案。月49ドルのサブスクリプションで毎月異なるテイストの日本酒とプロダクトカードが届く。

 「吟醸、にごり酒、純米、スパークリングなど、タイプの違うテイストを組み合わせています。気に入った銘柄が見つかればフルサイズを注文してくれるきっかけにもなりますし、また種類の違いや楽しみ方を知ってもらうことで日本酒のマーケット自体が拡げられます」と伊藤氏。

 毎月のセレクションは、日本酒に詳しい社内のメンバーと議論して決めているそうだ。

月額49ドルでタイプの異なる3種類のミニボトルが届く「Sake Box」

 現在の利用者は、もともと日本酒を好んで飲んでいた層が中心でフルボトルの売上が7割を占める。今後は、日本酒のことをまだ知らない層へと市場を拡げるため、サブスクリプションの「Sake Box」に力を入れていくという。

 「Sake Boxのユーザー20人に電話インタビューをしたところ、ワイン好き、日本が好き、ミレニアム世代のいろんなお酒を試したい人など、購入する動機がそれぞれ違うことが分かってきました。ミレニアム世代のお酒の志向が定まっていない層が最もスケールできるのではないかと仮説を立て、それに向けたリデザインをしているところです」

 「Tippsy Sake」のローンチから1年で月商が9万ドルに成長。これまで米国のVCから50万ドルを調達している。新型コロナウィルスによる自宅での需要増もあり、今年は5億円、来年は10億円の売上を目指しているという。

 最後に、海外でビジネスをするポイントを聞いた。

 「僕が米国で起業したのは、たまたま10年間米国で働いていたから。日本に住んでいたら、日本市場向けのビジネスをしていたと思います。日本で起業した会社が海外展開を目指すケースが多いですが、日本と同じプロダクトを持ち込んでもなかなかうまくいきません。米国でビジネスをするなら、最初から米国で勝負することを勧めます」

 現在は、商社を通じて日本酒を仕入れているが、日系商社が取り扱っている蔵元の商品をすべて取り扱っても、1000種類に満たないという。日本は全国に無数の地酒があるが、商社は有名な売れ筋の銘柄しか扱わないため、ロングテール商品を手に入れるのは難しい。いずれは直接蔵元からインポートして、ロングテールの商品を米国で紹介していきたいそうだ。

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