AIQ株式会社は、InstagramなどのSNSに投稿された写真やテキストから、個人の趣味嗜好を解析するプロファイリングAI「LiveReal」(リブリール)を開発・提供する会社だ。この技術は同社が特許をもち、大手企業を中心にSNSのインサイト分析ツールとして導入されている。
同社が目指すのは、AIで個々人の本当に好きなものを見つけることにより、消費者と商品を提供する企業とのミスマッチをなくすこと。嗜好性分析の精度が高まれば、いずれ産業構造は変わるかもしれない。CEOの高松 睦氏とCOOの渡辺 求氏にLiveReal開発の経緯と今後の展開について伺った。
Instagramから個人の嗜好性を分析する「LiveReal」
AIQ株式会社の提供するプロファイリングAIエンジン「LiveReal」は、SNSに投稿されている「写真」「動画」「テキスト」などの情報をAIが定点で観測し、その特性をプロファイリングデータとして生成する技術だ。SNSとしてInstagramの画像とキャプションから分析するのが特徴で、2019年8月には特許を取得していている。
Instagramは、TwitterやFacebookなどに比べて、ライフスタイルやライフステージがポジティブに表れる。また、1つの投稿に画像とテキストが必ずセットで存在するので、技術的にも高精度にプロファイリングしやすい。instagramのプロフィールには年齢や住所などの登録欄はないが、画像やキャプションを解析することで、年代、住んでいる地域といったユーザー属性、さらにはフォロワーの趣味嗜好までプロファイリング可能だという。
現在はTwitterからのプロファイリング機能も搭載し、InstagramとTwitterの両方から分析可能だ。
同社では、このLiveRealの技術を用いて、SaaS型のサービスとして企業のInstagram運用支援ツールを提供するほか、人気のハッシュタグを紹介するウェブサイトの運営、ソーシャルプロファイルの分析調査といったサービスを展開している。
Googleに行動を支配されている現状を変えたい
ひとことで言うとマーケティング×AIの会社だが、高松氏はゲーム会社の開発責任者、渡辺氏はメーカーや通信系で開発畑のご出身。2人とも、もともとマーケティングに興味があったわけではないらしい。では、どのようにLiveRealが生まれたのか。
「Googleに行動のすべてを支配されている現状を変えたかったのです」と渡辺氏。
私たちの日常は、何か欲しいもの、やりたいこと、知りたいことを探すとき、まずはGoogleで検索する。すべての行動がGoogleを起点にして、検索結果に基づいてオススメされた場所に行き、買い物や食事をしているのだ。しかし、それは必ずしも自分の探していたものとは一致しない。不幸なわけではないけれど、なんとなくもやもやする。
「Googleや既存のメディアは、いろいろな選択肢を与えてくれているけれど、それは資本の力に左右されています。弊社は、経営理念として“あなたの本当の好きを見つける”と掲げている通り、ユーザーの人生を真に豊かにすることを目指しています。そのための最初のステップがプロファイリングAIです」(渡辺氏)
一般的なマーケティング戦略は、個人の購買欲を掻き立てて、いわば瞬間風速的に“好き”にさせるものだが、同社は、ユーザー自身すら気が付いていない潜在的な“好き”を見つけようとしているのが面白い。マーケティング畑でないからこそできる発想かもしれない。
お二人は今でも自分たちがやっていることがマーケティングだとは思っていないそう。
「僕は今50歳。高松は45歳。仮に人生100年とした場合、残りの50年間、同じことをやるのは退屈。新しい楽しみ、新しいライフスタイルに出会うために、自分の本当の好きってどこにあるのだろう? と探求していくうちに生まれたのがプロファイリングAIです」(渡辺氏)
このプロファイリングAIの技術は、2017年7月の創業時に特許を出願し、2019年8月に登録が完了している。競合優位性としてVCからの評価が高く、資金調達面でも有利に働いているそうだ。2020年3月にはシリーズBの調達を終え、累積調達額は13億円を達成している。
ソーシャルから実際の購買行動の分析へ
現在は、SNS運用ツールの提供が主事業だが、次のステージとしては、分析したデータをソーシャルではなく、実際の購入活動の分析や活用へと進めていきたいそうだ。
高松氏は、「SNSでフォロワーを増やすマーケティング手法は、そろそろ終焉するでしょう。企業が欲しいのはフォロワーではなく、商品を買っていただくこと。親和性の高い消費者に、いかに商品を知ってもらい、実際に買ってもらい、良い商品だと拡散してもらうことが求められます。しかし、既存のSNS分析ツールは、ファンを見つけているだけで、本物の購買者にまでたどり着けていない。これからは、本当の購買者、購入者をどう見つけるかがテーマになってきます。それには、テクノロジーが必要。AIQの強みが出せる領域になってくると思います」と自信を見せる。
LiveRealをコアテクノロジーとして、プロファイリングしたデータを活用した市場の分析調査を始めている。
一例として、大手飲料メーカーのコーヒー飲料の新パッケージ商品についての調査実施のケースがある。一般的なソーシャルリスニングツールでは、商品名で検索をかけると同シリーズのほかのフレーバーやパッケージの商品が含まれてしまう。特定のパッケージに限定した調査をするには、人力で抽出するしかなかった。
「LiveReal」では、instagramのキャプションからハッシュタグで抽出したデータに対して、さらに画像解析をかけることで、特定のパッケージの投稿だけを収集できる。さらにAIで細かく分析することで、具体的なユースケースが見えてくるという。
これまで同コーヒー飲料が想定していたターゲットは、20代の働く女性だったのに対し、調査結果では、出産後のママ世代が子供を寝かしつけたあとに飲んでいることが多いとわかった。この結果を得て、今後のプロモーション展開を見直すきっかけになったそうだ。
マーケティング×AI以外の事業としては、自動販売機の商品陳列を判定するアソートメント分析、大手損保企業向けに自動車の破損部位分析、レシートのOCR分析など、他社への技術提供や協業も行なっている。
「自社でマーケ×AIだけをやっていると、その範囲の技術しか掘っていかなくなってしまいます。他社との競業で新しい知見や技術が生まれて、それを自社に還元することで好循環になっていると思います」と高松氏。
企業と消費者とのマッチングでSociety 5.0を実現
AIQは、AIによるインサイト分析により、SDGs、Society 5.0の推進をテーマに掲げている。
今は、世界中からあらゆるモノや情報が手に入るが、それをうまく精査できるかは個人のスキルにかかっている。一方では大量に余っているのに、必要な人に届いていないのは、ミスマッチが発生しているからだ。
その事例として、AIQではアパレルの在庫・廃棄問題の解決に向けて、服の再販事業「Rename(リネーム)」を運営するFINEと共同で、在庫の洋服を買い取り、新しいブランドとして販売するプロジェクトに取り組んでいる。
アパレル業界では、有名ブランドが大量の在庫を破棄していることが問題になっているが、その原因は、適したユーザーに出会っていないことが大きいのではという仮説をたてた。プロファイリングAIを活用してInstagramユーザーの中から商品の「コアファン」を見つけ出し、リアルな消費者目線で情報を発信してもらう、という試みだ。
今後の展望として渡辺氏は、「本当にほしい人に欲しいものが届くようになればムダがなくなり、SDGs、Society 5.0は実現できる。これまで情報の取捨選択は個人のスキルに依存していたけれど、弊社の技術で精査することで、そのスキル差は埋められる。まずはアパレルの廃棄問題を解決することで、その代表事例をつくっていきたい」と語ってくれた。
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