週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

YOXOグローバルセッション「中国の最新イノベーション事情」レポート

中国テック企業との事業共創のポイントとは

2020年04月14日 11時00分更新

 中国の三大メーカーの1つシャオミが、2019年12月8日に日本初上陸を果たした。スタートアップ市場だけでなくイノベーションにおいても世界が注目する中国は、信頼できるパートナーを見つけることで、爆発的に成功する可能性を秘めている。

 そんな中国の最新イノベーション事情について、中国在住の横浜市経済交流アドバイザー2名によるYOXOグローバルセッションが、2019年12月8日に横浜関内にあるYOXO BOXで行なわれた。今回は、その模様をお届けする。

中国「双創」の状況と日中イノベーション・ビジネス連携

ジャンシン(匠新)創業者CEOの田中 年一氏。日中でのスタートアップおよびイノベーションの連携を推進する日中アクセラレーター。中国で最も国際的なアクセラレーター「XNode」のマネージングディレクターも兼務

 日中関係は、数年前までかなり冷え込んでいた。そんな中で創業したジャンシン(匠新)創業者CEOの田中年一氏は「創業当時は日本のメディアが中国のネガティブな面ばかりを取り上げる傾向があり、なぜ日中のイノベーションを推進するのかと言われ、説明が大変だった。それが2年ほど前からメディアが中国をより公正に扱うようになり、いまではそれほど説明する必要がなくなっています」と語る。

 中国がスタートアップに力を入れ、多くの企業でイノベーションに取り組みはじめたのは2014年のこと。天津で行なわれたダボス会議で、中国のNo.2である李克強総理が「大衆創業万衆創新」と発言し、国が積極的に支援するようになってからだ。中国語で「双創」とはイノベーション(創新)と創業を総称する言葉である。

 日本やアメリカと違い、中国は政治の関与が相当強い。たとえば、AIを盛り上げる政策を打ち出すと、AIに関する博士号を持った人を雇えば、その人の年収分に近い金額を国が補助してくれる。補助金や場所を提供したり税金を還付したり、経済的な援助をかなり積極的に行なうのが特徴だ。

 中国でエコシステムが構築されている主要な都市のうち、注目すべきところは北京、上海、杭州、深センの4つ。ベンチャーへの投資額が、この4都市で中国全体の9割を占めているという。「最近は日本のメディアが深センを多く取り上げているため、深センでイノベーションの取り組みをしたいという問い合わせを多くいただいているが、深センは確かに発展のスピードが中国でも一番速いが、まだ若い都市なので蓄積という面ではまだこれからという状況。北京大学や清華大学という中国トップの大学発ベンチャーや投資家が支えるエコシステムが構築されている北京が今でもまだ中国で一番の都市となります」と田中氏は語った。

 各都市の投資先産業を見てみると、特徴的なのが杭州だ。杭州にはアリババの本拠地があり、アリババのエコシステムを活用したeコマース関連のスタートアップが多く立ち上がり、産業別のベンチャー投資の比率もeコマースが半分以上を占めている。

 深センは、スマートフォンや電子機器の産業が集積していることからモノづくりのエコシステムが構築されており、ハードウェアのシリコンバレーとも呼ばれていてハードウェア関連でのベンチャー投資が集まっている。上海は、eコマースに続いてフィンテックが14%と続いている。ライフスタイル関連も多く、中国でいちばんの国際都市であり、そこにビジネスチャンスを目指すスタートアップも多いという。「日本のスタートアップ企業も日本で先行していて中国でこれから伸びそうなライフスタイル関連の領域はチャンスがある」と田中氏は語った。

 北京は、さまざまな分野にバランス良く投資されており、スタートアップエコシステムの要素が多く蓄積していることから、いろいろな産業が起ち上がっているとした。

短期間でユニコーン企業へのし上がる圧倒的な力

 アメリカの統計機関によれば、2019年6月時点での中国のユニコーン企業数は、アメリカの179社に続いて94社と世界第2位だ。ただ、中国の「Hurun Report」の調査によると、中国のユニコーン企業は186社あるという。一方、日本のユニコーン企業は数社程度だ。

 2017年にユニコーンになった34社の状況を見ると北京発の企業が4割を占めており、田中氏は「中国のテック企業やインベーション企業との協業を目指す日本の企業は、深センだけに注目していると中国全体を見誤ってしまう」と警告した。

 他に中国で特徴的なのが、創業から短期間でユニコーンになっていること。上記34社の内訳を見てみると、会社設立から1~2年が9%、2~3年が18%、3~4年が11%、4~5年が12%と5年以内でユニコーンになった会社は約60%もあり、相当速い成長を遂げている。

 また、日本と中国で大きく違う価値観は、日本人は「0→1」を創るオリジナリティを出すことに誇りを感じるが、中国人は「0→1」をやることはビジネスとしてはあまりスマートではなく、すでに成功しているビジネスを参考にして「1→10」「10→100」とさらに大きくすることが大事だと感じている。そのため競合企業や競合製品がすぐに生まれて競争も非常に厳しく、企業の淘汰も激しい。PDCAがものすごいスピードで繰り返されることでイノベーションのスピードも速く、社会全体が実証実験の場となっているような状況ともいえる。

 なお中国のスタートアップエコシステムで民間企業として重要な役割を担っているのが「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」だ。BATに買収されることをエグジットとして事業を立ち上げる起業家も少なくはない。1つの企業グループでさまざまなサービスを展開しており、新規サービスで収益をあげることができなくても、その新規サービスを通じて新たなユーザーを獲得し、そのユーザーをグループ内のほかの収益をあげているサービスに流し込むことによって、新規サービスの立ち上げも戦略的に取り組むことができる。なおアリババとテンセントの時価総額は、アップルやGoogle、Facebookらと並んで世界トップ10にランクインしている。

 田中氏は「日本と中国の関係性や相対的なポジションは昔と違ってきており、以前とは異なる新しい日中のあり方を真剣に考えなければなりません。日本のほうが上という以前の意識が残っていると、新しいあり方を考えるにあたって障壁となります」と語った。

日本の企業と中国テック企業による事業共創のポイント

 最後に、日系大企業と中国スタートアップがコラボするには、以下の4つを押さえる必要があると田中氏は語る。

・上から目線をやめる
・へりくだりすぎる必要もない
・ビジネスの基本のWin-Winに立ち返る
・日系大企業の持つ強みを改めて考える

 また、日系企業に強みのある分野は以下のとおりだ。

・グローバルのネットワーク(流通・販売網、サプライチェーン)
・非デジタル分野のテクノロジー(素材、精密機器、ロボットなど)
・ライフスタイル関連
・安心・安全
・コンテンツ(アニメ、キャラクター)
・オフラインのリアル店舗

 中国は変化が早く、地域の多様性があり、またデジタル分野のテクノロジーの発展は目覚ましい。日本の強みと中国の強みを出し合って2つが融合することで、新たなビジネスが生まれる可能性は十二分にある。「日中関係は、いまは追い風です。でもうかうかはしていられません」と締めた。

日本では認識されていない北京の最新スタートアップ事情

北京国能環科環保科技有限公司 海外主管の佐野史明氏。清華大学傘下のインキュベーション施設・TusStarの日本顧問であり、横浜市経済交流アドバイザー

 続いて、北京の最新スタートアップ事情について、北京国能環科環保科技有限公司 海外主管の佐野史明氏が登壇した。北京に対する肌感覚として佐野氏は「北京だけでもエコシステムは成り立っていて、基本的にスタートアップ関連は非公開情報なので、友人同士やインナーサークル内でないと情報が回ってきません。そして中国語ができないと、素の情報はキャッチできません。一方、上海はグローバル志向が強く、深センは若い人が多く、海外と接する機会も多いので、中国語が絶対ではありません。そのため、日本では北京が上海や深センに比べて、エンジェル投資とベンチャー投資が大きく上回っているという認識が低いのです」と語る。

 北京の強さは、高等教育機関の豊富さ、人材の集中が挙げられるという。北京には104の高等教育機関があり、そのうち211工程(21世紀に向けて約100大学に集中的に投資)が24校、985工程(211工程から国際的な研究水準に達する重点大学に投資)が8校ある。深センだと、高等教育機関は10校あるが、それぞれの工程の大学はない。この人材の差は大きい。

 また、コンピューターサイエンスの世界ランキングでは、2位に清華大学、3位に北京大学、6位に中国科学院がランクインしている。人工知能領域トップ20大学にも3校がランクインしており、この分野においての人材の厚さは大きいとした。

 佐野氏は「テクノロジー関連のユニコーン企業数に関しても、シリコンバレーの57社に続いて、北京が29社あります。イメージとは意外と違うのではないでしょうか。もう少し北京を調べたほうが良いと思います」と提言した。

 北京のユニコーン企業には、美団(2018年香港上場)やバイトダンス・テクノロジ、(TikTok)、快手(ショートムービー編集&ライブ)、Megvii、SenceTime(顔認証技術・サービス)などがある。これらの企業は、いずれも79年から80年代の人たちによって創業されており、若手が多いのが特徴だ。「こういった企業とつきあうのは日本企業にとってリスクは少ないと思います。カルチャーギャップも少ないでしょう」と佐野氏は語った。

 北京の中関村という大学機関が集まっているエリアがあり、その北にはソフトウェアパークエリアで、バイドゥやシャオミ、快手などがある。東側には望京エリアがありアリババなどがある。佐野氏は「この3つのエリアには、日本企業はほとんど居を構えておらず、交流がかなり限られてしまっています。この地域に中国語ができる人を送らないと、情報が入ってきません」と語った。

日系企業が北京で取り組むためには

 北京のスタートアップエコシステムは、中国政府がイノベーションをプロモートしており、利用者も大きい。かつCVCがお金を出し、テクノロジーのベースがある。そこに北京の大学や機関がテクノロジーに関与しているのが強みだとした。

 北京CVCの投資先企業数は、バイドゥは108、テンセントは359、シャオミは97と日本にはない規模だ。バイドゥのAIアクセラレータプログラムは、1000社の応募のうち73社が選抜。プログラムのトップ10~20%のスタートアップを同社のファンドに紹介。シーズからプレIPOまで幅広く対応できる体制を整えているのが特徴である。

 シャオミはスマホブランドとしてだけでなくハードウェアのインキュベーターへの大きな転換を果たし、シャオミ・エコシステムを構築。シャオミのファウンダーである雷軍は独立したVCも設立して、自由度の高い投資を行なっているのが特徴だ。出資額は最大20%~30%とマイノリティ出資を行なっている。

 佐野氏は「日系企業が北京にいきなりイノベーションの協業に挑戦するのは、正直ハードルが高いと思っています。以前スタートアップ企業を招待したが、中国語ができないなど難しいと感じています。一方増えているのが日系CVCの取り組みで、テック系のVCにLPとして少額出資して、中国のVCが目をつけた企業をリサーチさせます。スタートアップの非公開情報を取得するには、調査業務よりも多くの情報が取得できます」

 米ドルのファンドは伸びているので、日系企業にもチャンスだという。

 「北京の企業と日本の企業が直接やり取りするのは難しいと思います。カルチャーも違いますし、日中両方のことがわかっている人が間に入らないと、ハードルが高い。シリコンバレーのアクセラレーターPlug and Playが2015年に中国拠点を設立し、中国で190社にシード投資しています。英語でもやり取りできるので、そういったアクセラレーターに入ってもらうのがオススメです。翻訳の人を頼んでも、決してうまくはいかないでしょう」と締めくくった。

最後にまとめて質疑応答の時間が取られ、集まった人たちの疑問に1つ1つ答えた

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう