安定感のS660
機敏さのコペンGRスポーツ
乗り味の違いは、予想を大きく異なるものでした。まずは246を都内から渋谷・二子玉川を抜け、町田方面へと進めながら一般道での乗り味をチェック。コペンGRスポーツの乗り味は、今時のスポーツカーとしてはめずらしいほどの硬派な足回り。荒れた路面から来る振動が容赦なくドライバーに襲い掛かってきます。衝撃の強さはありますが、収束はかなり早いのとシートで振動を吸収するためか、不快というほどではありません。
S660も一般的な乗用車に比べれば硬めの乗り心地なのですが、コペンGRスポーツに比べれば遥かに柔らかく、地面にタイヤが食いついているという安定感を感じさせます。
ですがコペンGRスポーツの足は約60km/hあたりから、適度な硬さへと表情を変え、乗り心地の良さを感じさせるではありませんか。S660は表情を変えずにスピードレンジだけが上がっていく印象で、こちらも気持ちよい。さらにスピードレンジを挙げるとコペンの方が安定感があるようにも。
どうやらTOYOTA GAZOO Racingはワインディングロードや高速道路といったステージを中心に見据えた足としているのでしょう。なお町田からの帰り道、東名高速を利用したのですが、その際「クルーズコントロール」機能を使おうとしたところ、コペンGRスポーツには装備されておらず。長距離を法定速度内でのんびり、という時にちょっと不便さを感じました。
市街地での運転というと周囲の安全に気を配らなければなりません。S660はエンジンフードの形状とタルガトップのデザインなどから、斜め後方の目視確認できる範囲が狭いのに対し、コペンGRスポーツははっきりと見ることができます。もっとも運転中にそんな後ろまで見ることは稀ですが、見えた方がうれしいことは言うまでもありません。
駆動方式の違いはわかりやすく出る
最大の焦点といえるミッドシップとFFというパッケージによるクルマの動きによる違いはわかりやすく、S660がドライバーを中心としてスパッとインへ切り込むのに対し、コペンはわずかにフロントに重心を置き、リアが綺麗にインへ入っていくという動きを感じます。それゆえ、普段FF車に乗っている人がS660に乗ると、動きに戸惑うとともに自分を中心に車が動く新鮮な感覚が味わえることでしょう。
エンジンレスポンスやシフトフィールはCVT仕様の場合、モードによって異なります。ノーマルモードの場合、S660は「いかにもエコモード」なアクセルレスポンスに対し、コペンGRスポーツは機敏。アイドリングもいずれも800回転、通常の走行も2000回転程度と同じ。ですがスポーツモードにするとS660は機敏な表情をみせます。
シフトタイミングは両車とも回転数高めにシフトするのですが、コペンGRスポーツはエンジンの回転数が大きく変化するDCTのような動きをするのに対して、S660は回転数が一定で変速比を変えて速度が上がるCVTらしい動き。背後から「本当に純正マフラーなのか?」と戸惑うほどの野太い排気音をベースに時折甲高いタービン音を響かせるコペンGRスポーツに対し、S660は吸気音にブローオフバルブ、そしてエンジンのメカニカル音の大合唱。静粛性という意味では、ハードトップという構造も相まってコペンGRスポーツの方が高いですが、これはルーフを開けた状態の風の巻き込み具合などは、どちらも同じようなものでした。
加速時は後ろにエンジンを置くS660は吸気音やメカニカルノイズが背中からダイレクトに聴こえ、アクセルオフをするとブローオフバルブの開放音と、車好きにはたまらないもの。コペンGRスポーツは後ろから轟く野太い排気音で気分を盛り上げます。この音を聞くと「マフラー交換は不要」と思えるほどです。こんなに音が大きいとアイドリング時が心配になるのですが、冷間時でも外は静かだから不思議。この音質チューニングは流石の一言です。
両車がもっとも異なるのは「ブレーキのフィーリング」。ショートストロークで初期制動の高いS660に対して、コペンGRスポーツはロングストロークで速度調整に重きを置いたものといえます。それゆえに「ギリギリまでブレーキングを遅らせ、積極的に荷重変化させてクルっと旋回すると気持ちがイイ」S660に対し、「可能な限り速度を落とさず、ラインに沿ってコーナーを曲がると気持ちがイイ」コペンGRスポーツという、走り方の違いにつながってきます。強いて言えばですが「S660を峠の下りやストリートが無類に楽しいクルマ。コペンGRスポーツはワインディングを滑走すると気持ちがよい」という性格の違いを感じさせました。
S660はストイックに、運転そのものに喜びや楽しみを見出すクルマ。いっぽうコペンGRスポーツは日常的にオープンスポーツを楽しめる、というのが試乗前の予想でした。しかし、コペンGRスポーツの思いがけぬ「ガチ」っぷりに驚くとともに、S660の「日常における快適さと楽しさ」にも改めて気づかされました。
どちらも面白いクルマであり、普段の生活において人生を楽しむに適したクルマであることは確か。2人しか乗れない、荷物があまり載らないクルマに200万円なんて、と敬遠するのはもったいないですよ!
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