「AI&ROBOT NEXT」基調講演:日本ロボット学会浅田会長
社会の中でロボティクスに課せられたミッションとは
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2020年1月16日・17日の2日間、シンポジウム「AI&ROBOT NEXT~人を見守る人工知能、人と協働するロボットの実現に向けて~」を新宿LUMINE 0(ルミネ ゼロ)で開催した。本稿では、17日に行なわれた大阪大学 特任教授/日本ロボット学会会長の浅田稔氏による基調講演「日本の次世代人工知能技術はロボットを中心に加速する」の内容をお届けする。
文系・理系なく学術分野を統合する「ロボット学」
「ロボット」という単語はもともと学術用語ではなく、チェコの作家のカレル・チャペックの戯曲『R.U.R』に出てきた言葉だ。しかし今やロボットは、さまざまな学問分野に入り込み、AI、自動走行は法律的な問題も出てきている。機械工学のみならず、法学、哲学、社会学、心理学、生物学など、数えきれないほどの学問と関わるものになってきた。
浅田氏は、これら既存の学術分野に対するロボティクスのミッションとして2つを掲げる。
ひとつは、これまで説明原理であった学問を、設計原理に基づくロボティクスの手法を通じて仮説を検証すること。人間の行動や思考をロボットで設計・作製・作動させる過程で、諸分野の研究をより解明できる可能性がある。
もうひとつは、既存の学術分野をロボット学に集約することで各分野からの知見を得て、新たなロボットの設計へとつなげることだ。浅田氏はこれを「構成論的人間学」と呼び、従来の文系・理系の枠組みを超えた研究専門委員会を新たに設置し、研究に取り組んでいく考えだ。
視覚解釈に運動情報の与える影響
浅田氏が会長を務める日本ロボット学会は、国際学会「IROS(IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems)」を主催している。2019年11月に中国・マカオで開催された「IROS2019」は、特にAIに関しては中国からの投稿数が非常に多かったという。すでにAI/ロボティクス分野でも日本がリードしているとは言えなくなってきているのが現状だ。
IPA発刊の『AI白書』によると、ディープラーニングの画像認識は、2015年2月に人間の精度を超えたとされる。問題は、人間は5%のミスがあっても同情が得られるが、AIシステムは1%のミスでも許されない。その理由は、AIシステムには身体がないからだ、という。
浅田氏は、視覚情報の解釈に身体の動きが与える影響について、ある実験結果を示した。2匹の子猫を1匹は自分で歩かせて、もう1匹はゴンドラに乗せて、視覚刺激は共通の環境で運動させたところ、崖にガラス板を置いた(崖に見える)場所を通るとき、自分で歩かせた子猫はそこで停止するが、ゴンドラに乗せていたほうは、無視して歩いてしまう。つまり、視覚刺激は同じだが、運動経験が判断に影響を与えているわけだ。
現状の深層学習は、視覚情報からの認識判断は非常に高精度だが、ロボットの運動情報を生成するための感覚情報の認識判断力はまだまだ乏しく、さらに情動・注意・共感などいろいろな感覚を認識させることが課題だ。
人の心に寄り添う「認知発達ロボティクス」
従来の人工知能技術は、コンサルティング的であり、最適解を提示するものだった。しかし今後、社会のなかでロボットが介護などの生活支援をしていくには、人との接し方、人の心を動かすカウンセリング能力が求められる。この分野で浅田氏は「認知発達ロボティクス」を提唱し、ロボットの認知や共感の感情を発達させるための研究に取り組んでいる。
痛覚による意識創発のプロジェクトでは、ロボットが痛みを感じるように痛覚神経回路を埋め込み、MNS(ミラーニューロンシステム)の発達を通じて、ロボットは他者の痛みを共感できるかもしれない、と仮説を立て、実験・検証を行なっているところだ。
最後に、現在取り組んでいる新しいプロジェクトとして、「ニューロモルフィックダイナミクス」を紹介。これは、脳の構造と神経回路を模したニューロモルフィックシステムを実現するため、デバイス/材料、モデル/アルゴリズム、集積回路/アーキテクチャー、システム/応用など関連領域を統合した超域を構築するものだ。現在、8つの研究機関と連携し、理論構築、デバイス開発を進めている。
将来、ロボットに人と同じような共感や倫理の感情が生まれるかどうかはわからないが、人間とロボットが共生する社会は着実に近づいている。さらにはロボット学の探求によってさまざまな方面の学術研究が進めば、いずれは人間の心理や政治の真理が解明されていくかもしれない。
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