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「スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE in 京都」レポート

時期、スピード感、ライセンス交渉 大学発ベンチャーの知財戦略

2020年02月06日 09時00分更新

創薬ベンチャー「ファンペップ」による「大学発ベンチャーと知財」講演

 第1部後半では、株式会社ファンペップ 法務知的財産部長・弁理士の古関幸史氏が、大学発ベンチャーにおける知財への取り組み事例を紹介した。

株式会社ファンペップ 法務知的財産部長・弁理士 古関幸史氏

 株式会社ファンペップは2013年10月に設立された若い会社で、大阪大学による機能性ペプチド研究成果を活かして、医薬品や化粧品・医療機器などの研究開発を行なっている。

 大学発ベンチャーの知財戦略ということで、重要な点として最初に古関氏が挙げたのは、「大企業とベンチャー企業では求められている知財戦略が異なる」という点である。たとえば「(大企業の)知財戦略というとリスクヘッジの考え方が出てくる。ベンチャーは経営そのものがリスクテイキングな考え方になっているから、知財もそれに合わせて動かなくてはいけない」(古関氏)

 また、「ベンチャーは時間とリソースが限られているので、スピード感を持って動かなくてはいけない。」「知財(部門)は知財(部門)だけで動くのではなく、経営がどちらを向いているかを常に意識する必要がある」といった点にも注意していた。

 人的リソースに乏しいのがベンチャーだが、それでも知財に取り組む場合、専任者を置く余裕はないケースが多い。ファンペップにおいても古関氏は知財だけでなく、法務やIT(情報セキュリティー)も担当している。知財に関しても、ライセンスのデューデリジェンスや共同研究先での知財相談など、特許だけでない知財全般に業務対象が及んでいる。

 古関氏は「知財戦略はスピード重視でやっている。特許は取らなくてはいけないが、それよりも事業・開発が前に進むことの方が重要。100点満点でなくても総合判断としてこれで良いと思えば、事業を前に進めることをまず考えている」(古関氏)と語る。ただし、「第三者による権利の侵害などは、事業が先に行ってから出てくると問題になるので、争いごとの可能性はなるべく早く見ておく必要がある」と警告を発してもいた。

 また、大学発ベンチャーとして、大学関係者などとの協議の重要性を強調した。「どこの会社でも知財(担当者)と研究メンバーが情報交換をするのは大事。特に大学発ベンチャーは大学との関係がベースとなるので、大学の視点・立ち位置を考える必要がある」(古関氏)

 たとえば研究内容について先行技術との対比を議論をしていても、新規性や進歩性がどこから出てくるのか、同じ用語を使っていても知財の専門家と大学の研究者でアプローチが違う場合がある。いわゆる知財用語で研究者に説明してもなかなか理解が進まない場合もあると古関氏は述べていた。そういった点で一度すれ違いが生じると、後で修復することが困難になることもあるので気をつけているとのことである。

 スタートアップ期における大学とのライセンス交渉などで意識したこととして、対象技術を把握する際の観点を挙げた。たとえば、研究時期によって研究者の意識・観点の発展があると、技術表現も使い分けをしていることもあるので、技術の全体像を慎重に理解するために、どのような背景、考え方でその研究成果に至ったのかといったことなども研究者と話し合ったそうだ。

 その後、大学発の成果から自社開発による知財へと重心が移ってくると、知財戦略もスピード重視へと移行する。上で「100点満点でなくても」と述べたように、契約でもポイントを押さえて実を取ることを目指す。また、他企業との共同研究開発が始まると情報の管理が重要になるが、ここでは単に情報を出さないようにするだけでなく、どこまでなら外に出しても良いか、情報発信をどのように進めるか、といったベンチャーならではの観点も挙げていた。

 講演後、聴衆をまじえたQ&Aを実施。

進士氏(以下、敬称略):大学や他企業との共同研究で、権利の持ち分をどのように設定しているのか。

古関氏(以下、敬称略):個人的には、特許法上の「持ち分」と、ビジネス上の利益配分としての「持ち分」とは、場面が異なるものと考えている。ビジネス上のアレンジ・利益配分には、そこに至るまでの経緯もあり複雑に要素が絡むと思う。知財実務としては、ベースとなる技術をこちらが持っているという前提であれば、いわゆる出願の持ち分はそれほど強く言わなくてもいい場合もあると思っている。

進士:特許出願は単願にしたいとか(持ち分を)何対何で持つとかこだわりはあるか。

古関:担当としてはできるだけ単願にさせてほしいと思うが、共願でも実務上の手続きをスムーズにすすめることができれば構わないと考える。たとえば、一定の方針共有をしたうえで、審査の進め方については我々に主導権を持たせていただく、請求項をどのあたりまで絞るかとか、どの部分を先にとるかといったことは、一定の方針の範囲でフレキシブルにやらせてもらえると時間的にも早いと思う。実務では米国審査ではこだわることも欧州審査では引くといったこともある。

進士:欧州では権利化の際にかなりコストがかかるが、欧州全体をカバーするように権利化しているのか。

古関:見方によるが、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアで欧州の過半を押さえられるので、そういう提案から議論することもある。

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